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6月 9日金曜日 体育館1階学生食堂 学生食堂のおっちゃん

2年C組 秋山菜乃佳


 今日も休み時間に早弁。朝練があるのでお腹がすくんだけど姫岡が今度この事を言ったらアタック練習の標的にしてやる。うん。決めた。


 なので政見放送は学食で聞いた。周りの反応は見ていたけど決定打は両陣営ともなさそうかな。どちらも公約の意味がまだ浸透してないし。あ、食べたのはいつものスペシャル定食390円。あり得ない安さ。今日は生姜焼きがメインだった。お腹いっぱい。いつもありがとうって感じ。


 お昼のランチラッシュが退いた時を見計らって、カウンター越しに店長さん(なのか知らないけど、調理師の人たちをまとめているボスがいるのよ)に声を掛けた。


「おっちゃん。こんにちは。今日もスペシャル定、美味しかったよ」

おっちゃんが笑って返事をくれた。

「秋山さんか。いつも来てくれてありがとよ。みんなも美味しいって言ってもらえたら喜ぶし」


「ところでおっちゃんにちょっと教えて欲しいことがあるんだけど」

「なんだい?」

「今流れていた生徒自治会長選挙の放送で学食メニューの見直しを訴えてるんだけど現実性あるの?」


 おっちゃんは手を止めて手を拭いながらカウンターの方へ来た。

「ここの学食、スペシャル定食の設定も本当は難しいんだよ。安くなきゃ学生のお財布が持たないし、それでいい食材をいろいろ組み合わせるのは本当に大変。調理師の人といつもけんかしながら調整しているんだよね」

「分かる。野菜とか多くしてくれているしヘルシーさと私ら体育会系部員の要望両方対応してるもんね」

 おっちゃんはカウンター越しに少し身を乗り出してきた。

「そうなんだよ。人員もギリギリだし、はっきりいってやる気の搾取寸前な給料しか出せてない。定食を増やすのは人を増やさないと無理。そして人を増やすのは価格設定的に無理。交渉機会は設けてくれって言われたらおっちゃんが出ればいいけどな。メニューの追加とか無理だとその時は言わなきゃならんって思っとるんだけど。分かってもらえるかねえ?」

「それだと交渉決裂しかないよねえ」

「そうなっちゃうか。それも嫌なんだけど実際無理だからねえ」

 私はつい個人的なお願いをしてしまった。

「間違ってもヘルシー路線だけにはしないでね」

 おっちゃんは豪快に笑った。

「秋山さんたち体育会系の子たちの事は大丈夫。男子だと『ご飯大盛り』女子なら『おかず充実』とか今も昔も変わらず一貫してるからね。ここを折れたら多分うちの店、お客さんの過半数失っちゃいそうだし」

 

 予鈴が鳴った。おっちゃんにお礼を言うと私は駆け足で教室へ戻った。やっぱり、根回しすらしてないみたいね。


宮本丈治


 政見放送は職員室で聞いていた。古城が意外に穏健路線としての制服の追加を訴えていた事はもっと過激な提案を言うかと思っていたので予想外だった。

 問題は吉良だ。超真面目な子という定評は知っていたし、それ故に何がなんでもバックアップするという確信があるような友達が松平しかいないのも分かっていたが思った以上だった。負けても正しく負ける事を追求する子だろう。それじゃ困るんだが、と教頭先生が文句を言って来そうだし、そうなれば吉良が降りると言い出しかねない。しばらく考えていてある手を思いついたので席を立つと教頭の日暮先生の席へ向かった。

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