表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/70

6月 8日木曜日 物理化学準備室 早刷り、対抗策を練る私達

日向肇


 ホワイトボードに貼った選挙公報。呆れているみんな。

「学食の件って現実性あるのかなあ」

と陽子ちゃんが指摘した。そう。俺も同感だ。出来ない見せ球じゃないのかと疑わざるを得ない。


 腕組みしてみていた姫岡が疑問点を整理してくれた。

「こんな県立高校の学食が普通に自由に出店できたりはしないと思う。まずは入札だろうし値段の安さから言えばそんなに応じてくれるとも思えないけど」


これに応じた加美の声は絶対ゼロ度だった。

「随分と下品でストレートな利益提示ですね。実現性なんてどうでもいいんでしょう。交渉した事実があればいい。あとは運営企業の責任にするだけ。再選とか絡まない会長選ではいい手です」

こいつ、こういう卑怯な手は嫌いなんだろうな。加美のそういう所は信頼できる。


 秋山さんが何かひらめいたらしい。ポンと左手のひらを右手拳で叩くと短い髪が跳ねた。

「私、学食でお昼食べる事が多いから店長や調理のおばちゃん達とは仲がいいんだ。そんな事が可能なのか聞いてみようか?」


姫岡が補足したが、

「彼女、バレーボール部だからだと思うけど弁当だけじゃ足りないらしい。しかも今時早弁」

姫丘は余計な一言は命を縮めるって教わらなかったのか?

すると秋山さんの中の何かのリミッタが外れた。

「姫岡くん。きみは人の昼食事情をいちいち観察してんの?」

「いや、去年クラスが一緒だった時につい見えてたからさ」

秋山さんはなお怒っていたが馬耳東風で受け流す姫岡。

学食については秋山さんが話を聞いてみるという事で彼女の宿題となった。


 続いて2年の各クラスの状況について確認する事にした。

「初動段階なので印象で構わない。但し得られそうな得票数の理由は言って欲しいな」


 最初に2年C組、D組の状況を新たに加わった二人から加美への自己紹介を兼ねて分析を聞かせてもらった。


 まずC組の秋山さん。女子三人の中で一番高い。バレーボール部の中核選手だというのは良く分かる。

「去年同じクラスだった古城さんがまさか選挙に出るなんて驚いちゃったけど、日向くんから話を聞いて一肌脱ぐ事にしたのでよろしく。で、C組はねえ。委員長が水野でしょ。仕事はするけど、あいつ自身の何かしらの利益を抜くからね、あいつは。こっちを関しているから水野と仲の良くない子は多分こっちにつくと思うよ。比率は今のところ22:18で向こうが有利とは思う。根拠?あいつの委員長選の得票数だよ」


 続いてD組の姫岡。彼は背が高いのが目立つけど大きさに似合わず穏やかな奴だ。去年クラスが一緒だった時はみんな彼のことを信頼していた。そんな彼が敵地D組で古城の運動員を引き受けてくれたのはありがたい。

「俺も去年古城さんと同じクラスで公約を聞いていいなと思ったから手を貸す事にした。うちのD組は吉良さんがいるからね。30:10で向こうが有利かな。部活組が支持しているよ。学食提案で持って行かれると思う」


 陽子ちゃんは微笑んで言った。

「E組は10:30で古城さんに入れてくれそう。学食でぶれても過半数は取れると思うわ」


 俺もありがたい事に景気に良い数字を言えた。

「B組も大丈夫だと思う。10:30。ほんと、学食次第だけど少なくとも過半数は取れるよ」


 最後に古城が謝った。

「A組は部活組が多分松平さん支持で動くと思う。学食の事を考えると22:18という所かな。帰宅部の子たちの支持は得てるけど部活組が課題。松平さんの影響力も大きいね」


 俺は励ました。こんな所で凹まれても困る。

「古城、A組は夏のポロシャツで押した方が良いかもな。体育会系はなびくと思うぞ。学食は事実確認して潰しに行くしかないと思う。非現実的な公約で負けるとかあっちゃダメだ」

「うん。勿論その点はアピールするよ」


 最後に加美が総括した。

「みなさんの数字を足してみました。106です。今だと僅差で2年生は過半数を取れますけど、全校だと正直このままじゃ危ういと思います。A組、C組、D組は一人でも獲得出来るようにアピールしっかりお願いします。特に古城先輩。足下はしっかりお願いします。ポロシャツで運動部、文化祭活動の維持で文化部を一人でもあちらから奪って下さい。あと日向先輩、三重先輩のB組、E組は崩されないようにお願いします」

やはり加美の名前は「神」だな。容赦がない。

「さて1年生ですが運動部60、文化部・生徒会委員会75、帰宅部65ぐらいなんです。目標としては130ぐらい取るつもりでいきます。制服で一番メリットがあるのは私達の代ですから。運動部からも狙っていきます。なので秋山先輩の情報取りはとっても大事です。よろしくお願いします」

 加美は2年生より票を取れると言っている訳だ。なんとかイーブンに持っていかないと後が怖いな。


 今日、最後の問題提起だ。

「さて、3年生をどうする?どうも向こうの陣営に先々代の副会長の渡さんが接近していて応援する気らしいという噂話を小耳に挟んだんだけど」

この人は俺と陽子ちゃんの出会いを演出してくれたおかげで今の会長の選挙の時に落ちているなんて余計な噂があった。別に関係はないと思うのだが、もしそうなら俺とか陽子ちゃんを恨んで吉良陣営に行きそうではあった。


 すると古城が反応した。

「大村さんに会って支持を頼もうかな」

古城の方を見た加美。

「古城先輩、それは面白いですが理由を説明してもらえますか?」

「今のところ大村さんは中立に見える。私、中央高新聞のバックナンバーは一通り目を通したんだけど渡先輩に対抗して後から立候補表明をしているから多分渡先輩の事を会長にしたくなかったんだと思う。だとしたらこちらから支持表明の依頼したら乗ってくれるかなって」

俺が結論を引き取った。

「大村さんは勝てば並走して一緒に仕事する相手だから挨拶するのはおかしくないと思うよ。そこで頼むのも問題ないんじゃないかな」

「うん。じゃあ、これはやるね」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ