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6月 7日水曜日 物理化学準備室 作戦会議

三重陽子


 7日放課後。私たちは授業が終わるとすぐ北校舎3階の「事務所」へ入った。ほどなく加美さんがやって来た。

冬ちゃんと肇くんと私を前に加美さんは

「やるからには古城先輩を勝たせたいです。1年生に関して私は全力を尽くすので古城先輩はもちろんの事、日向先輩、三重先輩に遠慮なく意見させてもらう事もありますがかまいませんか?」

と確認してきた。

「イーブンな関係でいいよ。俺は遠慮を望まないぞ。容赦なくやってくれ」

 そう言ったのは肇くんだった。私は冬ちゃんの様子を見た。彼女も異論はなかったので私も迷いはなく頷いて加美さんが提示して来た条件を受け入れた。こうして加美さんは正式な選挙参謀、生徒自治会の規則で言うところの選挙運動員として加わってくれたのだった。


 その後すぐ加美さんを加えての打ち合わせになった。選挙戦は9日から始まる。対抗馬となった風紀関係最右翼ながら従うべき倫理を掲げる吉良さんについて加美さんから次のような事を言われた。

「吉良先輩は友達が少ないというより簡単に信頼を与えない人みたいですね。ただ一度信頼したら何もかも預けるような所があって風紀の話なんか嫌われるような事を言っても嫌われない所はバカにできません」

肇くんが思わず加美さんに聞いた。

「なあ、吉良の情報はどこで集めてるんだ?」

確かに気になる。

「1年の各クラスの委員長に聞いてみました。4月の総務委員会での騒動はとても印象を残しているんですが、その時に松平さんとの関係は見て取った人もいました。あとは吉良先輩と同中だった子達からの情報です」

確かにこういう情報の集め方をする生徒はこの学校ではこの子だけかもしれない。


 下校前に選挙管理委員会に行くと加美さんを古城ミフユ陣営の選挙運動員として登録する届け出を済ませた。本当は隠したい所だけど1年生のクラスで選挙に関わる活動をするにはこの運動員届は規則上義務になっていたから仕方ない事だった。


宮本丈治


 職員室の席でどこからか届いて教頭先生から押し付けられたアンケートについてデータを調べて回答を書いていた所に水野がふらりとやって来た。

「宮本先生」

幸い周りには誰もいなかったのでそのまま話を聞く事にした。

「どうした? 古城さんの陣営で何か動きがあったのか」

「はい。古城さんの方で1年の加美さんを選挙運動員に登録してきたので先生の耳に入れておこうと思いまして」

「あいつか。中学時代の噂は聞いている。分かった。ありがとう」


 生徒自治会長の大村が下校前に部屋の鍵を戻しに来た時に加美の事を確認したら事実だった。以前、吉良陣営に紹介するか迷って見送ったのはこの子の事だった。

 今、教頭先生に言えば何故そんな人材を向こう側に取られたのだと言われるのが見えていたので教頭先生への報告はせずにおいた。もし教頭先生が独自に知って聞かれたら、その時初めて知ったと言えば良い。


松平桜子


 宮本先生のアドバイスで1年生攻略のための選挙スタッフを探していた。加美さんの名前は彼女の同中だった水野くんから名前は出ていたけど「乗っ取られるよ?」という警告で入れるなという意味だった。

この情報が入った時、改めて吉良さんが水野くんを問いただした。


「加美さんってどんな子なの?」

「日向も同中なんだけど、あいつが生徒会の副会長を1〜2年生の任期の時にやっていて2年生の時に1年生の加美さんがしきりにアタックしていたよ」

「ん?恋愛話?」

「違う。俺と日向が2年の時の会長選に出て欲しいって話だったらしい。結局日向は断り続けていて口も聞かないように見える関係になってたから驚いた」

「加美さんってそれだけ?」

「加美さんは2年生になった時の生徒会選挙で会長に立候補して学校側に近い秀才を蹴落としたよ。きれいさっぱりね。立ち会い演説会を要求して中身のない公約を叩きつぶして泣かせた。そして加美さんは規則見直しを公約にして実際風紀関係はシンプルになったよ。そのせいで生活指導の先生はどっか飛ばされたとか噂もある」


 多分小夜子ちゃんは水野くんに加美さんの話を聞いた時にもっと問いただすべきだったと後悔していたと思う。別に加美さんが参加しなくても向こうの陣営に入らないように話を出来たかも知れない。水野くんのこういう情報の解釈の仕方には気をつけた方が良さそうだ。

 こちらの1年生対策は私の同中の後輩の1年生で生徒会長をやっていた麻野龍也くんにお願いする事になった。人は良いんだけど加美さんの辣腕ぶりを聞くとこれでは足りないかも知れない。


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