6月 2日金曜日 策謀1
吉良小夜子
昼休みのチャイムが鳴った。私は教科書を引き出しにしまうと机の向きを変えてお昼を食べる友達が使えるようにした。友達は私がバッグからランチボックスを取り出したけど机の上に置かなかったのを見て怪訝そうだった。
「小夜子、お昼食べないの?」
私はいつも一緒にお昼を食べている友達3人にごめんと言った。
「ちょっと職員室に呼び出し食らっちゃったから先に食べていて。私は用事が済んだら学食でお弁当を食べてから戻るし」
「そうなんだ。……行ってらっしゃい!」
クラスメイトたちにそうやって見送られると廊下に出て南校舎の職員室の隣の会議室へ向かった。朝のHR終了後に担任の四方先生に呼ばれて昼休みに会議室で総務委員会関係の話があるから行って下さいと言われていたのだ。
ドアをノックすると「入ってくれ」との応答があったので「失礼します」と言って中に入った。会議室には机が口型に置かれていて奥の方に教頭の日暮先生と生活指導の宮本先生が座られていた。教頭先生がやけにやさしげに話しかけてきた。
「吉良さん、こちらの椅子に掛けて下さい。そんなに話は長くならないと思う。食事時間なのに悪いね」
「はあ」
私は先生たちの向かい側の席に腰掛けると手にしていたものを机の上においた。教頭先生の話し方、ちょっと気持ち悪いと思った。いつも生徒には威圧的な人なのだ。どうも私の顔にそういう思いが少し出ていたらしい。隣で宮本先生がちょっと笑ったように見えた。教頭先生はそんな私や宮本先生に気づかないのか御構い無しに話を続けた。
「吉良さんは去年は風紀委員、今年は2年D組学級委員長と総務委員として頑張ってくれているけど、生徒自治会長選挙に出る気はありませんか?」
会長選は考えてみたけど助けてくれそうな仲間、片腕になってくれそうな人が1人しか思い当たらなかった。
私がボランティアだの訴えているのはそういう表面上の何かを評価する社会だから、みんなも対応した方がいいよという余計なお節介だ。そして服装に関しては個人的趣味としか言いようがないけど見苦しいのはどうにも不愉快な感覚がある。
こういう事を校内で広げようと思ったらA組の古城さんのように会長選に打って出るというのは正解だと思う。あの子はうまく味方を作っていてうらやましい。生徒自治会長選挙には推薦人が2人必要なのだ。今の私にはそういう深い依頼を受けてくれる友達がいない。
「話をもう少し早く頂いていれば考えましたけど、今、パッと思いつく立候補の推薦人になってくれそうな友達は1人だけです。来週までにもう1人というのはハードルが高過ぎます」
教頭先生は身を乗り出してきた。
「じゃあ、あと1人推薦人を確保すれば出てくれるね?」
「考えても良いです。友達にも声を掛けて確認しなきゃならないですし」
「放課後、また悪いけどここへ来て下さい。出来ればその友達も連れてきて。取り急ぎもう1人はこちらで声を掛けてその時、顔合わせ出来るようにするから」
そう教頭先生に言われた。よっぽど古城さんの出馬が嫌なんだなって事だけはよく分かった。
私は会議室を出ると階段を降りて体育館1階にある学生食堂に行った。ここでは弁当持ち込み可なので今日みたいにお弁当を友達と食べられない時はちょうどいいのだ。空いている島があったのでそこに座ると持ってきたランチボックスを広げてこの後会いに行くつもりの相手にどう話をするか考えながら食べた。上の空。気づいたらランチボックスは空になっていた。そして桜子にどう話すか心が決まった。