6月 1日木曜日 校長室 妨害指令1
日暮一矢
岡本先生に引き続いてB組、E組の担任らへの事情聴取を終えると宮本先生にも席を外してもらい、斎藤校長と二人で今後の対応を話し合った。斎藤校長は穏健派と言ってよく、生活指導強化については乗り気ではない事はこの2ヶ月で身にしみている。2人で応接セットのソファーに座ると校長先生からは案の定な事を言い出された。
「教頭先生、古城さんの個人情報は確認されましたか?」
「いえ、まだそちらは確認していません」
「そうですか。彼女のお母様は大学の史学研究者だそうですよ。下手な事をやれば抗議がくると思っておくべきじゃないですかね」
「はあ」
大学の先生ぐらいで恐れてどうすると思った。取り合う気になれないし、校長先生もそこはどうでもいいらしくあっさり話を変えた。
「ところで対立候補はいないのですか?」
「今のところそういう情報は得ておりません」
「告示日から1週間が立候補受付期間ですな。信任投票にはしたくないでしょう?」
「確かに」
校長先生は廊下の扉の方を見やりながら対応策について示唆をされた。
「私はこの件については指示はしません。が、適当な立候補者の擁立促進は目をつぶりましょう。どうなされるかは教頭先生にお任せします。行き過ぎは禁物です。その点だけは守って下さい」
なんて事はなく校長先生も自分と一緒だった。古城を受け入れる気はない事が分かってホッとした。
「分かりました。私の判断でその点は適宜対応します」
そう言うと教頭先生も校長室を出た。この時、教頭先生は「この狸は俺に汚れ仕事をやらせるつもりだな」と解釈していた。