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6月 1日木曜日 校長室 立候補届を巡る攻防戦2

斎藤さいとう卓哉たくや


 定年前の最終配置は中央高の校長だった。この春に懐かしいなと思いながら駅からの道を歩いて着任した。私にとって中央高は思い出のある学校であり最初の赴任校だ。ここで政治経済などを教えるのが教諭としての最初の仕事だった。自由な気風が横溢して頃の思い出が強いのだが、いつからか規律重視の校長が歴代続いており随分と矯められていた。そして今更時計の針は学校側が戻す訳にもいかない。


 校長室で上着を脱いで腕まくりして書類仕事をしていると部屋のドアがノックされた後に開いた。教頭先生と生活指導担当の宮本先生だった。


「校長先生、お時間よろしいですか?」

「ああ、教頭先生と宮本先生。どうぞ、どうぞ」

彼らにソファーに座るように勧めると私もそちらに移動した。

「どうかされましたか?」


 話を聞くと生徒自治会長選挙の立候補者が判明したが、制服について生徒側の意見をまとめて要望を出すような事を公約に入れていて、取消しも出来ないと言われたとの話だった。


 宮本先生は立場からいえばもっと怒っていそうなものだがそこまではなさそうというのが面白い。教頭先生の方は顔が真っ赤で息巻いていて冷静さが足りない。私は教頭先生に対して言葉を選びながら対応を指示した。

「彼らの筋は通っているようですね。規則遵守は彼らだけの話じゃないですからね。彼らには私から話をしますから、あとは当面様子を見ましょう。こういう話は霧散する事もめずらしくないですからね。お二人とも勝手に動くような事はないように願いますよ」

教頭先生は渋々ながら、宮本先生はすんなりと頷いた。

「じゃあ、大村くんと古城さんにここへ来るように呼んで下さいな」


古城ミフユ


 30分ほど経ったぐらいだったか。校内放送が鳴って私と大村会長が職員室へ呼び出された。肇くんと陽子ちゃんも心配だからとついて来てくれた。渡り廊下で南校舎の職員室へ向かうと廊下では宮本先生が待っていて校長室へ行くと告げられた。


 肇くんが同席を希望した。

「私達も一緒は無理ですか? 立候補の推薦人ですし」

宮本先生は首を横に振った。

「校長先生が呼ばれたのは大村と古城だから2人はここで待ってなさい」

肇くんと陽子ちゃんが心配そうな顔をしていたけど「大丈夫だから」と言って私と大村会長は校長室へと入った。


 校長先生は私達に応接セットのソファーへ座ってと言った。校長先生は率直に話をしてくれた。

「古城さんの公約について止めるような根拠、規則はどこにもないでしょうねえ。あれば公民や政経で我が国の法令を教える立場がなくなりますからね」


 そういえば校長先生は公民教諭だったらしい。この学校でも教えられていた事があって70年代の中央高新聞の「先生の素顔」とかの記事で出てた。


「だから、特に公約を取り消して欲しいとかいうような事はありません。ただあまり対外的に漏れると色々と大変なのでその点だけは協力してくれますね?」

私は一旦素直に受け入れた。

「校内では徹底的にやりたいと思いますがそれだけですから異論はありません。私や手伝ってくれる友人達がそのような事をする事はないとお約束します」

校長先生は軽く首を縦に振った。

「ふむ、いいでしょう。もし古城さんが生徒自治会長選挙で当選したら校則に関わる事項についてはまた話を聞きますよ」

校長先生からはこんな感じで約束してもらえたけど、その瞬間、この人が狸に見えた。


 校長先生は大村会長の方を向くと言った。

「大村くん、学校側から干渉と受け取られるような事はもうないと思うので公平公正な選挙になるように対応をお願いしますよ」

「分かりました。微力ながら全力を尽くします」


 私は校長室を出ると廊下で待っていた陽子ちゃんと肇くんに「立候補届についてはそのまま受理される」事になったと伝えた。


 大村先輩と一緒に生徒自治会会議室へ戻ると選挙運動について1年生の選挙管理委員の子から改めて説明を受けた。

「空き教室か部活未使用の特別教室を放課後の選挙事務所として使って良い事になっているけどどうされますか?」

陽子ちゃんが質問した。

「どこが使えるの?」

「今だと北校舎の物理化学、視聴覚それぞれの準備室と中央校舎の1階教室が選べます」

陽子ちゃんは北校舎の視聴覚教室準備室を推してきた。

「2年生の教室に近いのはメリットだよ」

私も肇くんも異論はなかったので、そちらで施設使用申請書を書いて渡した。

そういった説明と書類提出を終えると私達は下校した。


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