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プロローグ

 早朝の学校は気持ちがいい。小鳥も鳴いていて世界を寿いでいるかのようだ。昨夜のうちに職員室の身の回りの荷物は整理して転任先に持っていく分はダンボールに詰めて運送便で送ってもらうように手配をして校長と教頭らに挨拶も済ませた。ここには来る事はないだろうと思ったので今朝もう一度だけ名残を惜しみに来たのだった。

 前にここを離れた時はまた戻って来れるとは思っていなかった。その中で学校の自由についていささか仕掛けて飛ばされる程度で済んだのは今のご時世からいえば僥倖だろう。

 今度の赴任校は山間部にある小規模校だった。上は私が退職して赴任拒否されるのを恐れていたようだが、仕掛けた事の責任は負うつもりだったので粛々と受け入れたのは驚かれていた。辞めるのはいつでも出来る。だから行く。


 名残を惜しいがもう行かなければならない。そう思って学校の正門を出たところで、私服の生徒……じゃなかったな。先日卒業している元生徒から呼び止められた。体格のいい彼のファッションはお世辞にも趣味がいいとは言いかねる。ヤンキー風というか。制服の着こなし方も今日の私服同様に柄が悪かったが頭は良かった。そんな彼にいるはずもない時間帯にこういう風に呼び止められるとちょっと心臓に悪い。

「どうした?在学中のお礼参りか?」

本当だったら負けるなと思いつつ聞くと彼は首を横に振った。

「今のはジョークなんだが」

「なんですか、それ。朝っぱらからいう事ですか?」

一旦は怒った彼もバカバカしく思ってくれたのか笑ってくれた。そして真顔になると私の目を射抜くような視線で見つめてきた。

「先生、一つだけ教えて欲しい事があります」

「質問する生徒に対しては誠実に答えることにはしてる」

 彼は私に切り込んできた。

「先生は俺に立候補しろとかいろいろと言ってくれましたよね? 学校側と水面下でやりあうようになった時、いろいろと動いてくれたのは先生でしょう? なんでそんな手助けしてくれたんですか? 挙句にこんな転勤。誰がみたって懲罰人事だってわかりますよ」

 それは去年から今年にかけてお互いに関わった事への疑問だった。表と裏。その事自体は一度も話し合ったりした事はなかった。彼が先に動いた。それに対して私は何も言わず手を打っていた。彼はなぜ私が裏で動いていたのか理由がわからないのだろう。


 私は少し考えてから答えた。

「君こそが人形遣いだったのだと思うよ。君が動いたからこそ私は踊った。それだけかな」

 そういうと私は微笑んだ。私の判じ物めいた話にあっけにとられていた彼に「元気でな」というと駅の方へと去っていった。

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