花の降る夜
窓をあけてベランダを見ると、多種多様な花が降り積もっている。
熱帯の花々だろうか。色も形も主張の強いものが多いようだが、一つも名前が分からない。
家族に聞いてみようと部屋を振り返ったけれど、誰もいない。名前を呼ぼうとしたものの、それが出てこない。
家族の名前。
何だったろうか。
○○は、植物に詳しかったと思うのだけど、なぜ、部屋にいないのだろう。
ぽとり、ぽとりと、虚空から、知らない花が落ちてくる。
積もる花の中に足を下ろすと、膝下まで届くほどのかさになっている。
やはり、名前は分からない。
ゆうべ、食卓を囲んで、家族と何を話したのだったか。
いつだって会話はとりとめもないのだから、きっとこの落ちてくる花々のように、とりとめもなく語り合ったのだろう。
でも、誰と?
降り積もる花は次第に色を深めていき、それにつられるように、空にも部屋にも夕闇が迫ってくる。
耳の裏側のほうで、かすかに、ご臨終ですという声がしたような気がしたけれども、それが家族の声かどうかは、とうとう分からなかった。