第八話 龍のヨド②
「ヨド様って、国の守り主の?」
「それ以外に誰がいる。」
「何で俺は呼ばれたんですか?」
「我々は知らされていない。」
「この馬車はどこに行くんですか?」
「龍ヶ洞だ。そこにヨド様がおられる。」
兵士はサビの質問に、淡々と答えた。
この人たちはサビが呼ばれた理由を知らないらしかった。
サビには全く心当たりがなかった。
龍ヶ洞はヒロが住むエノイの街の北にあった。
エノイから馬を半日程走らせた場所だ。
半日もこの馬車で過ごすのかとサビはうんざりした。
サビは兵士達を見回した。
皆目深に軍帽を被り、黒くきっちりとした軍服を着ていた。
立っていた時に差していた刀は、今は馬車の壁にかけられていた。
軍の装備は水の魔法が使える物が多かった。
この国の守り主が龍だからだ。
龍の鱗や髭は貴重で、それを使った装備は階級が高いものが身に付けていた。
龍の鱗と白金で作られた刀は、魔力が高い人が使えば、一振りで洪水が起こせる物だ。
一般兵は蛇の牙や蜥蜴のしっぽや翡翠を使った装備を使った。
スズの店にはたまに軍の正規品が入ってきた。
それはほとんどコレクターが買っていった。
馬車が走る間、誰も言葉を発しなかった。
皆目を閉じていたが、眠っている訳では無さそうだった。
二時間ほど走った後、馬車が休憩の為に止まった。
サビは喜びのあまり声を上げそうになった。
止まった街はエノイの街よりこじんまりとしたものだったが、サビにはとても素晴らしい景色に思えた。
「ここで休憩とする。30分後に出発する。それまでに昼食と手洗いを済ませろ。」
兵士はそう言い、サビに竹の水筒を渡した。
サビは礼を言い、腰かけられる場所を探した。
「あー肩が凝った!」
サビは誰もいない丘を見つけ、そこに座った。
座っていただけなのにひどく疲れていた。
肩をグルグルと回し、深呼吸をした。
「サビ!」
サビの名前を呼ぶ声が聞こえた。
真上から聞こえたその声に視線をやると、ルリは羽を広げ、空に浮かんでいた。
「ルリ、何でここに。」
「馬車の上に乗って着いてきたの。」
「馬車の上って、危ないな。」
「大丈夫よ。私は飛べるもの。」
ルリはくるりと空中で前回りをした。
いろんな景色が見られて楽しかったわ、とルリは言った。
馬車の中で無言のまま座っているよりは楽しい移動だった様だった。
「サビは捕まったの?」
ルリは空から降りてきた。
羽がシュルシュルと背中に収まった。
ルリはサビの隣に座って言った。
サビは首を横に振って答えた。
「分からない。ミカゲの守り主に呼ばれたらしい。けど理由が何も思い当たらない。」
「そう…いざとなったら一緒に逃げよう。空なら人間は着いてこれないわ。」
「怖いこと言うなよな。」
ルリの羽が使われないといいとサビは思った。