第六話 サビとルリ⑥
「足りないなら、借金して払うわ。」
ルリが思い詰めた様な表情で言った。
サビは悪いことをしてる気分になった。
「冗談だよ。そんなに大事な物なんだな。」
ルリはホッとした顔になった。
本当に払う気だったらしい。
銀貨で飯が買えるかと聞いてきたし、世間知らずなのかもしれない、とサビは思った。
ソウキュウはここと通貨が違うんだろうか。
「あんたの国の物らしいし、これは拾い物だ。大丈夫。ただで渡すよ。」
だからその包みはとっておきな、とサビは言った。
ルリは金貨や銀貨の価値を分かってないらしかった。
今ルリの全財産を受け取ったらまたどこかで行き倒れそうだった。
「ありがとう!」
「ただし、親父が帰ってくるまで、2、3日待ってくれ。見せたいんだ。」
「分かったわ。」
ルリは笑顔になった。
「ところであんた、旅をしてるって言ってたけど、行く当てはあるのか?」
サビが尋ねると、ルリは首を横に振った。
ルリはうつむいた。
「行くところ…無くて。外は見たこと無い化け物がいるし。」
ルリは言った。
恐らくカゲロウの事だろう。
空の国にカゲロウは出ないらしかった。
「そうか。」
「あれはなんなの?」
サビは簡単に話した。
生き物ではないこと。
人が居ない所で増えること。
倒せば何も残らずに霧になって消えること。
「飛んでる途中で黒い鷲につつかれて、羽を何枚か持って行かれたのよ。やり返せば良かったわ。」
「そんなに強くないのが多い。魔法で倒せるのが大半だと思うぞ。」
「勉強になったわ。」
「やり返すのは今度な。今日はもう遅いし、寝よう。ベッドはこのまま使っていいぞ。」
「本当にありがとう。宿代は払うわね。」
「いいよ。じゃ、おやすみ。」
ルリに声をかけ、サビは部屋から出た。
居間に行きソファーに横たわった。
灯りを消して目を閉じ、眠ろうとすると、声が聞こえてきた。
《…けて…ぎ……攻撃…》
「は!?」
サビは驚き目を開け周りを見渡した。
ルリの声ではない。
声は頭に直接響く様だった。
ためしに耳を塞いでみた。
聞こえかたは変わらなかった。
《…来て…待ってる…》
サビは声を聞こうと意識を集中させた。
耳を澄ませたが耳からは虫の音しか聞こえてこなかった。
ノイズ混じりで途切れ途切れの声はいきなり途絶えた。
「なんだったんだ…」
サビは一人呟いた。
どこかで聞いたことがある声だったが、思い出せなかった。
横たわって考えていたが、知らない間に眠っていた。