第三話 サビとルリ③
価格を決定し、机で寝ていた少女をゆり起こす。
「お客さん、お客さん。」
目を擦りながら少女が起きた。
少女はサビの顔を見て目を丸くした。
少女は慣れない場所で目が覚めた時の戸惑いを感じていた。
「鑑定が終わりましたよ。」
「あ、ありがとうございます。」
カウンターを挟んでサビと少女が向かい合った。
「16個、全部で金貨1枚と銀貨40枚でどうでしょうか。一つ一つの詳しい値段はここに書いてます。今回、一度に多く持ち込み頂いたので、1割ほど上乗せしました。」
「…。」
「お客さん?」
少女はぼんやりと鑑定結果と価格表を見た。
「銀貨1枚はどれくらいの価値があるんですか?」
「え?」
「ごはんは買えますか?」
「市場で買えば一週間分は買えると思います。」
「ありがとうございます。では買い取りをお願いします。」
全く交渉をする気がない少女にサビは面食らった。
もっと値段を上げろと言う客がほとんどだった。
この店は良心的な方だと自負しているが、客に値段は分からない。
サビは驚きを表に出さないように努力して、箱に代金の金貨と銀貨を詰めた。
少女が手をつけていなかったお茶菓子と、客用のお茶の葉を一緒に包んだ。
また珍しい物を持って来てほしい、とサビは思った。
「はい、ではこちらにサインをお願いします。」
「はい。」
少女は名前を書いた。
ルリと言うらしい。
ルリは立ち上がり、お礼を言って小包を抱えて出ていこうとした。
だが数歩歩いた所で倒れてしまった。
「お客さん!?」
サビは驚き駆け寄った。
ルリはうつ伏せに倒れていた。
大きく開いた服から見える背中は細かった。
ルリは揺すっても声をかけても起きなかった。
「流石に、このままじゃ不味いよな。」
サビは店の前の看板をひっくり返し、閉店中の表示にした。
改めて見ると、殺人現場のようだ。
床に少女が一人突っ伏しているのは中々にインパクトがある光景だった。
サビはルリを抱えた。
部屋に連れていき自分のベッドに寝かせた。
服が窮屈そうだが、流石に脱がせるのは不味いだろうと思ったサビは編まれた髪だけほどき、起きるまでそのままにしておく事にした。
ルリが落とした小包を拾い、ベッドの脇においた。
荷物は無いようだった。
サビは寝ている少女の顔を眺めた。サビの頭に次々と疑問が浮かんできた。
(この子はどこから来たんだ?)
(なんで高価な武器を大量に持ってた?)
(倒れたのは何で?)