第二話 サビとルリ②
サビはいきなり目の前に武器の山が出来て驚いたが、笑顔を崩さずに答えた。この奇行も、サビが今までの店番で遭遇した驚いた客、トップ10には入らなかった。
「当店では、一つずつ鑑定してからお客さまと値段交渉をしております。」
「それはどれくらいかかりますか?」
「そうですね、量が多いですし三時間程頂くかと。」
「分かりました。」
「鑑定には鑑定料を頂きます。買い取りが成立すれば無料になります。お客さまが商品の売却をやめた場合、銅貨20枚を頂きますがよろしいですか。」
「はい。」
少女は食いぎみに答えた。
「よろしければ椅子に掛けてお待ちください。お茶をお出しします。」
サビは机と椅子を勧め、お茶と菓子を用意しようと店の奥に向かった。少女は急いでいる様だった。荒々しく机に座る音がした。用事でもあるのか、とサビは思った。しかしサビが戻って来たとき、椅子に座った少女は机に突っ伏して眠っていた。どうせ鑑定には時間がかかるから起こさなくても良いだろう、と思ったサビはお茶の乗った盆を机に置き、武器の鑑定を始めた。
種類:剣
素材:白金 鳥(不明)の羽
製作者:不明
製作期:不明
種類:矛
素材:銀 鬼の角
製作者:鬼族
製作期:不明
種類:鎧兜
素材:天狗の羽 杏
製作者:不明
製作期:不明
種類:鏡
素材:銅 龍の涙
製作者:不明
製作期:不明
等々。
思ったとおり珍しい物ばかりだ。全て文字化けせずに見られた事にサビは安堵した。
剣に使われている鳥は不明と機械が示した。物は試しと剣に魔法を込めた。
「うおっあぶな!」
剣の刀身がいきなり三又に分かれた。サビは咄嗟に顔を避けた。さっきまで頭が有った所に刀身があった。中々に残酷な剣だ、とサビは思った。刺した後に刀身が分かれれば敵を中から切り裂けるだろう。
銀で出来た矛は中に鬼の角が入っているらしかった。魔法を込めるとバチバチと電気が走った。少ししか魔力を込めていなかったのにサビは危うく手を焼きかけた。絶縁体の手袋を取りだして身に付けた。手袋をつけたまま魔法を込めると、電気が矛の先に集まり雷の球ができた。製作者は鬼族。鬼は雷の国に住む部族だ。
鎧兜は天狗の羽と杏で出来ているらしい。天狗、確か大陸の北の山に少数だけ住んでいる部族だったはずだ。その羽が起こす風は周りの全てを薙ぎ倒すという。剣と矛で懲りたサビはゆっくりと魔法を込めた。兜の周りに風が起こった。杏のいい香りが漂ってきた。杏は魔除けの効果があった。恐らくこの風は邪気払いになるのだろう。
鏡は水の魔法がかけられていて表面が常に波立っていた。今度も慎重に少しずつ魔力を込める。魔力を込め続けると鏡の表面から水が盛り上がり、縁から溢れだした。いつでも水を取り出せて普段は鏡として使える、しかも重くないなんて考えて魔法をかけた人に拍手を送りたい、とサビは思った。
サビは全て武器の鑑定を終えた。全部で16個あった。価値があるものばかりだった。製作者、製作期が詳しく分かる物はなかった。鑑定用の機械に通すと製作者が分かる機能が出来たのは30年ほど前だ。5mm程のガラス玉に自分の名前を魔法で書き、武器に埋め込むらしい。全てそれより昔に作られたのかもしれない。
ここまで残るなんて美術品として保管されてたんだろうか。とサビは考えた。カゲロウ退治で使われる武器は、強力な物も早ければ一度の戦闘で壊れた。
しばらく夢中で鑑定をしていた。
うーん、と寝ていた少女が唸った。サビはそろそろ価格を決めなくては、と思った。いじるのは後でいくらでも出来るのだから。