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第一話 サビとルリ①

 水が溢れる国、ミカゲの南東の街にサビと言う少年がいた。年齢は16歳。父が営む「スズの武器屋」の手伝いをしていた。サビは今日、一人で店番をしていた。父親は数日前から首都に武器の仕入れに出掛けていた。父親がもうすぐ持って帰ってくるだろう新しい武器を想像してワクワクと胸を踊らせた。整備に使う薬品の在庫確認が終わった。商品の盾を磨きながら店番をしていると、チリンチリンと客が来たことを知らせる扉のベルが鳴った。


「いらっしゃい。スズの武器屋へようこそ。」


「よう、珍しい物を見つけたぜ。」


 来たのは友人のマリだった。


 サビは客に向けて作った商売用の笑顔を引っ込め、カウンターに置いた磨きかけの盾をまた磨き始めた。マリは近くで牧場を手伝う少年だ。馬がガラクタを拾って来るらしく、よく鑑定に持ち込んだ。子供の頃に寺子屋で知り合った二人は、近くに住む事もあり今でもよく会っていた。


「マリ、そうやってこの前もガラクタを持ってきただろ。」


「その前は売れる立派な弓だったろ?」


「そのもう一つ前は人の手に見えるだけの大根だった。」


「そう言うなよ。俺には何がどれだけ価値があるかなんて分からねえんだ。」


「はあ…分かった。どれだ?」


 サビは磨き終わった盾を奥の棚にしまい、鑑定するための機械を引っ張り出した。


「これだよ。キレイだろ。」


 そう言ってマリは透明な石を取り出した。石は研磨されていないにも関わらずうっすらと光っている様に見えた。これはもしかしたら本当にお宝かも知れないな、とサビは思った。サビは受け取った石に魔法を込めた。鑑定に使う魔法は、限りなく無色で無いといけなかった。そうでないと武器の力なのか自分の魔法なのか分からないからだ。サビは手に持った石に意識を集中させ、自分を無くし、ただ魔法を込めることに専念した。


「どうだ?」


 魔法を込められた石は手で触れていないにも関わらず浮いた。おお、とマリが感嘆の声を上げた。


「浮く石だ。」


 魔法を込めるのをやめると石はストンとサビの手の中に落ちた。


「浮く石は珍しいのか?」


「材質による。月石か柘榴石なら高価だ。透明だからダイヤだと思うが、ダイヤが浮くって話は聞いたことがない。」


「ダイヤか。」


「ああ。それはそれで価値がある。」


 サビは鑑定用の機械に石をセットした。青と赤と緑の光線が石に刺さった。機械の出力を待つが、一向に結果は出なかった。


「ん?」


「どうした?」


「結果が全部文字化けしてるんだ。」


「マジか。」


「さっきまでちゃんと動いてたんだが。」


「他のだと動くのか?」


「やってみる。」


 サビは壁にかけてある商品の剣を取りだし機械にセットした。少し後に結果が表示された。


種類:剣

素材:鉄 青鋼 馬の皮

製作者:ヒト族 スズ・グレン

製作期:過去2年以内


 全てのカテゴリーが解析出来た。製作者の所にはサビの父でこの店の店主の、グレンの名前が表示された。


 この剣は長い間売れ残っていた。グレンは目利きは確かだが自分で武器を作るのは余り上手くなかった。


「動くな。」


「ああ。」


 サビはもう一度石をセットしたが、文字化けが表示されるだけだった。こんなことは初めてだった。


「うーん、悪い。」サビが言った。


「俺はいいさ。ここはただで鑑定してくれるしな。」


 マリが持ち込む物を、サビは無償で鑑定していた。鑑定料は本来銅貨20枚ほどだ。銅貨2枚で握り飯が一つ買えた。


「親父が帰ってきたら見てもらうよ。」


「いつ戻るんだ?」


「二日か三日後。」


「じゃあそれまで預かっといてくれ。」


「わかった。」


 サビはマリと書いた付箋を貼り、ダイヤを要鑑定の棚に入れた。


「そういえばサビ、また南の畑が荒らされてたらしいぞ。」


「また?最近多いな。」


 この世界には「カゲロウ」と呼ばれる化け物がいた。カゲロウは倒しても死体が残らず消え、どこからともなく現れた。明るく、人が多い街には出てこないが、街から離れた場所にある畑はたまに荒らされた。ここ最近、カゲロウが街の近くに現れる頻度が増えていた。まだ死者は出ていないが、街全体がピリピリとしていた。


「前は2週間前だからな。」


「あいつらは倒しても何の素材も手に入らないから嫌いだ。」


 猪や鹿は皮をなめせば鎧や服になるが、カゲロウを殺した後は、耳に残る嫌な断末魔以外に何も残らなかった。


「街の中なら大丈夫だと思うが、一応用心しとけよ。」


「ああ。マリも。」


 マリが手を振り出ていった。それと入れ替わりに客が入ってきた。少女だ。えらく大きな袋を抱えている。少女はうつむき加減でひどく疲れた顔をしていた。訳ありっぽいな、とサビは思った。 綺麗な顔立ちをしているが目には濃い隈ができていて、その美に影を落としていた。背中が大きく開いた服を着て、艶やかな黒髪を高い位置で二つに束ねていた。上は白い着物で、下には群青の袴を身に付けている。


 サビは客が来たときの定型文を口にした。


「いらっしゃい。スズの武器屋へようこそ。」


「これを全部、買い取って下さい。」


 少女は抱えていた袋を逆さまにし、カウンターの上に中身をぶちまけた。一目で価値が高いと分かる様な物ばかりだ。剣、矛、鎧兜、鏡。他にも色々。


「いくらになりますか?」

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