第8章 「内気な令嬢は最高の友…お菓子交換が結んだ絆!後編」
-どんな子にも優しく接してあげなさい。そうすれば、必ず千里に心を開いてくれる友達は見つかるから。千里がその子の事を大切に思えるなら、その子も千里を必ず助けてくれるよ。
英里奈ちゃんの話を聞き終えたタイミングで、検査報告書が届いた日の祖母の言葉を、私は思い出したんだ。
きっと今がその時なんだね、おばあちゃん!
「ねえ!英里奈ちゃんが良かったらで良いんだけど、私と友達になってくれないかな?同じ小学校の同じクラスで、養成コース編入も同じタイミングだなんて、これも何かの縁だと思うの!」
「えっ…あっ!私などでもよろしいのですか?!」
虚を突かれた英里奈ちゃんは、一瞬戸惑ったけれども、その声には明らかな喜びの響きが含まれていた。
そうやって明るく笑った方が、ずっとチャーミングだよ!
「もちろんだよ!私、英里奈ちゃんの事をもっとよく知りたいな!」
私が差し出した右手を、最初はおずおずとだけど、だが次の瞬間にはしっかりと英里奈ちゃんは握ってくれたんだ。
「ありがとうございます!父も母も、きっと喜びます!」
こんな時でも、英里奈ちゃんは自分の事ではなくて、御両親の事を真っ先に考えるんだね。一見すると良い事に受け取れるけど、自己主張が蔑ろになっているとも解釈出来るよね。
「御両親はもちろんだけど、英里奈ちゃん自身がどう思っているかを、私は聞きたいな。」
「それは…もちろん、心より感謝申し上げます!吹田…いいえ、千里さん!」
やっと私の事を、下の名前で呼んでくれたんだね。
「そう!それでいいんだよ、英里奈ちゃん!」
私は英里奈ちゃんの手を握り返すと、満足気に大きく頷いた。
こうして私達はスマホのアドレスを交換して、2コマ目の講義の準備を始めたの。
一連のやり取りで、気が付いたら休み時間も残り少なかったからね。
そして、重大事件史の講義を終えて支局を出た私は、英里奈ちゃんのお屋敷に御招待されちゃったんだよね。
今時珍しい、メイドさんや爺やのいらっしゃるお屋敷で、出迎えてくれた御両親も使用人の人達も、英里奈ちゃんが「友達」と称して私を紹介した時は驚いていたね。今まで英里奈ちゃんが友達を呼んだ事なんてなかったからなんだけど、私は少し悲しくなったな。
正直に言って、「貴方達が英里奈ちゃんをガチガチに締め上げて萎縮させるから、家に友達も呼べないような内気な子になっちゃったんだよ!」って思ったよ。
けれど、ここで娘と同い年の子供に叱られたら、大人としての面子が丸潰れだし、英里奈ちゃんも気まずいだろうから、言わなかったけどね。
自分で言うのもあれだけど、人間が出来ていたよね、私って。
それにしても、あの日英里奈ちゃんのお屋敷でメイドさんに出して貰ったサングリアは美味しかったな。ワイン好きな英里奈ちゃんのために、メイドさんが丹精込めて果物を漬けているんだって。
お家の人は…少なくとも、メイドの白庭登美江さんに関しては、きちんと英里奈ちゃんの事を気にかけているみたいで、私としても安心したよ。
それに、「甘いカクテルが好き。」という私の情報もメイドさん達は把握していたみたいで、少し嬉しかったな。
英里奈ちゃんが家に連絡した時に聞き出したんだろうね。
気に掛けているのが私個人なのか、英里奈ちゃんの友達としての私なのか、そんな事は些細な問題だよね。
後者だったら、それだけ英里奈ちゃんを大事に思っている事の証だし。
これが、今日まで続く私と英里奈ちゃんの友情の始まりなの。
この第8章で、回想編は終了です。
次回から、元化25年の現代に時間軸が戻ります。