第3章 「誉れ高き通知書」
このエピソードより暫く、千里ちゃんが訓練生だった頃の回想に入ります。
挿絵の画像を作成する際には、「AIイラストくん」を使用させて頂きました。
元化21年3月中旬。
この日、私の家のポストに届けられた、1通の封書。
この封書から、全ては始まったんだ。
それは、私が当時在籍していた堺市立土居川小学校で、5年生の3学期に行われた健康診断の結果を記した検査報告書だった。
届いた封書の分厚さで、結果は開封する前から分かっていた。
私は栄誉ある資格を手に入れたのだ。
私は、鋏で丁寧に開けた封書を逆さまにして出てきた書類を確認して、それが夢などではなく、確かな現実であるという事を改めて認識した。
養成コースの編入説明会の案内書に、小学校や役所、そして支局への提出書類も入っていたけれど、4月から小学6年生になる少女を納得させるには、最初に手にした書類だけで充分に事足りた。
それは、「吹田千里さん。貴女には特命遊撃士としての適性がある事が確認出来ました。」と記された検査報告書だった。
検査報告書を見た私の家族の反応は、様々だった。
若い頃は特命機動隊の曹士として人類防衛機構に所属していたものの、最後まで「特命遊撃士としての適性あり」の報告書を貰えずに少女時代を終えた母は、羨ましそうな表情を浮かべて、このように私に言ったんだ。
「良かったね、千里。これから千里には、一生物の友達がたくさん出来るし、みんなからは憧れの目で見て貰えるのよ。将来だって保証されたも同然よ。」
将来云々については、小学生だった私にはピンと来なかったけれど、友達がたくさん出来るって事には素直に喜べたんだ。
この時の私には分からなかったけど、実際、その通りになったからね。
母とは対照的に、検査報告書を見た父は少し不安そうな表情を浮かべていた。
「でも、安全が100%保障されている訳じゃないんだろう?大丈夫かな…」
娘を持つ男親なら、心配になっても仕方ないだろうね。
日和見な態度を改めない父に向かって母は、「今時歩道を歩いていても、100%安全じゃないのよ。何を情けない事を…」と、強い口調で説教を始めちゃったの。
あれじゃ、父親の面目も丸潰れだろうなぁ…
そんな娘夫婦を尻目に、祖母は笑顔で私の頭を軽く撫でると、このように言い聞かせてくれたんだ。
「いいかい、千里。特命遊撃士養成コースに編入したら、どんな子にも優しく接してあげなさい。そうすれば、千里に心を開いてくれる友達は必ず見つかるから。千里がその子の事を大切に思えるのなら、その子も千里の事を必ず助けてくれるよ。だから千里も、お友達を大切にね。」
「うんっ、おばあちゃん!」
祖母のその言葉に、私は大きく頷いたの。
提出書類の記入に給与振込口座の開設。
訓練服の採寸に説明会の参加。
準備期間である春休みのうち、前半の1週間は瞬く間に過ぎていったの。