第2章 「防人乙女の卵達」
「そっか…そうだったね。そいつは悪かったよ、ちさ!英里!」
「そう言えば、千里ちゃんと英里奈ちゃんが出会ったのも、特命遊撃士養成コースだったんだよね?私とマリナちゃんが出会ったように!」
打てば響くように、マリナちゃんに応じる京花ちゃん。
この2人も小学5年生の3学期に始めた特命遊撃士養成コースからの付き合いらしいから、気心が良く知れているんだよね。
「そうだよ、京花ちゃん!私達は6年生から編入になったんだ。」
「千里さんが、私の初めてのお友達になって下さった時の私達は、大体この子達位の年齢でしたね…」
英里奈ちゃんは訓練生の子達を眺めながら、しみじみと言った。
私達の着ている白い遊撃服とは色違いの、水色の訓練服を着た小学校高学年の女の子達が、支局までの時間を思い思いに過ごしている。
ライトノベルや漫画を読んでいる子もいれば、一般人の友達にスマホでメールを送信している子もいる。
「あの、枚方少佐…『アルティメマンネビュラ』には、修文時代のアルティメ兄弟は出てきますが、リスタやアースは出ないのでしょうか?」
「うーん…さすがにTVシリーズだと厳しいと思うよ、遊海ちゃん。そういう隠し玉は、劇場版まで取っとくんじゃないかな?」
土曜朝に放送している特撮ヒーロー番組の「アルティメマンネビュラ」が好きな子は、同じく特撮ヒーロー番組が大好きな京花ちゃんと一緒になって、今後のストーリー展開の予想を立てているよ。
ベタだけど、隣の子とお菓子を交換して食べている子もいるね。
「そうだよね、英里奈ちゃん。訓練生の子達って、みんな初々しくて可愛いよね。あんな時代が私達にもあったんだね…」
私ったら柄でもなく、感傷に浸っちゃってるんだよね。
遠い目をする私を現実に引き戻したのは、左右のツインテールを後ろからグイッと引っ張る痛みだった。
「痛っ!どうして私の髪の毛を引っ張るのよ!」
ツインテールを引っ張った後ろの席の訓練生の首根っこを掴むと、私はその顔を覗き込んだんだ。
「あっ、君は…」
私達が着ている遊撃服とは色違いの、水色の訓練服を着た少女は、生意気にも私と同じツインテールだったの。
「上官への反逆は厳罰だよ、箕面茅乃准尉!」
「い~けないんだ!いけないんだ!バスの中で立っちゃいけないんだ!」
この箕面准尉、生意気ついでに歌で囃し立てていやがる…
「オマケに上官を侮辱するなんて…!」
私だって、むきになるのは大人気ないとは分かっている。
分かってはいるけれど、我慢出来るかどうかは別問題だ。
「全く…何が、『あんな時代が私達にもあったんだね…』だよ。あれだと、養成コースのお子様達と完全に同レベルだよ、ちさの奴…」
「いいんじゃないかな、マリナちゃん?波長が合うと解釈すればさ。千里ちゃんは訓練生の子達のいい御守り役になると思うんだよね、私はさ。」
堺県立御子柴高校1年B組のサイドテールコンビは、素知らぬ顔で勝手に話を進めちゃっているな。
「ああ…千里さん…!そんなにむきにならないで、落ち着いて下さい!茅乃ちゃんも、無闇に千里さんを挑発するのを止めて下さい…!」
私の横では英里奈ちゃんが、今の事態の収拾を何とかつけようと思って、オロオロと右往左往しているな。
こんな時、英里奈ちゃんはあんまり頼りにならないね。
だけどね。
内気で気弱で、引っ込み思案で頼りなくて。
それでも、誰かを思いやる気持ちは人一倍強くて。
精一杯強くなろうと足掻いていて。
そんな英里奈ちゃんの事が、私は大好きなんだよ。
上官としても、親友としても。
そういえば、英里奈ちゃんと初めて出会ったのは、私が特命遊撃士養成コースに編入した時だったよ。
あれは、今から4年前の事だったな…
次回から暫く、主人公の千里ちゃんが訓練生だった時代の回想編を展開します。