第1章 「指令‐吹田千里准佐は、護衛同乗業務に従事せよ。」
私達特命遊撃士に割り当てられる業務において、平日の勤務日ならではの業務と言ったら、護衛同乗が筆頭に挙げられるだろうね。
管轄地域内の小学校を巡回するスクールバスで、各小学校に通う特命遊撃士養成コースの訓練生の子達を、養成コースの開講される人類防衛機構極東支部近畿ブロック堺県第2支局まで送迎するんだけど、訓練生の子達がテロや事件に巻き込まれないように、現役の特命遊撃士が護衛として数名、緊急事態に備えてバスに同乗するんだ。
もっとも、訓練生の子達にも護身用として、15連発式の自動拳銃とトレンチナイフが持たされているし、そもそも人類防衛機構のスクールバスをバスジャックする命知らずなんて居るはずもないんだけどさ。
と言う訳で、現役特命遊撃士の私達の実質的な役目は、訓練生の子達の気さくで朗らかな話し相手だね。
もしかしたら、「訓練生の子達と現役の特命遊撃士との交流の場を設ける事で、訓練生の子達に将来の自分のキャリアをイメージして貰う。」っていう意味合いもあるのかも知れないけどね。
「よし!大道筋小学校の訓練生は全員乗車っと!」
左側頭部で結い上げた青いサイドテールと、綺麗に切り揃えられた前髪が印象的な女の子が、快活な声を上げながら、タブレットに表示した名簿リストを支局の管理コンピューターに送信する。
これで大道筋小学校の訓練生達は、バスに無事乗車したと確認された事になる。
そうやってタブレットを操作して乗車確認をしていると、いかにも「業務中です」感が出てくるよね。
この明朗快活でいかにも主人公気質な子は、枚方京花ちゃん。
私と同じ堺県第2支局配属の特命遊撃士で、階級は少佐。
御子柴高等学校1年B組の誇るレーザーブレードの使い手で、「御子柴1B三剣聖」の一角に数えられているの。
そして、私の大切な親友の1人でもあるんだ。
そういう私も、個人兵装であるレーザーライフルを構えて座っているから、「護衛しています」という実感は得られるんだけどね。
「これで残るは市立土居川小学校か。市立土居川小学校と言えば…確か、ちさの古巣だったよね?」
右側頭部で結い上げた黒いサイドテールと右目を隠した前髪が特徴的な少女が、私に向かって笑いかける。
この、クールな立ち振舞いが印象的な子は、和歌浦マリナちゃん。
マリナちゃんも特命遊撃士で、階級は少佐。
御子柴高等学校1年B組で、出席番号は一番後ろ。
これも、「わ」で始まる名字の人の宿命だね。
「残念だけどそれは違うよ、マリナちゃん!」
長い黒髪をツインテールにした少女が、無邪気に頭を振って応じる。
これが私、吹田千里。
京花ちゃんやマリナちゃんと同じく、人類防衛機構極東支部近畿ブロック堺県第2支局配属の特命遊撃士なんだけど、階級は1つ下の准佐。
従って、金色の飾緒も、もう少しお預け。
御子柴高等学校1年A組だから、京花ちゃんやマリナちゃんとは2重の意味で差があるみたいだけど、私達の友情の前では大した垣根ではないんだ。
「え?確か前に、土居川小学校出身って言ってなかったっけ、ちさ?」
怪訝そうに問い直すマリナちゃんを尻目に、私は席を立ち上がると通路を挟んだ反対側の席に移動した。
「ダメだよ、千里ちゃん!走行中のバスで立ち歩いちゃったら!」
京花ちゃんの咎める声を聞き流して、私は反対側の席に腰掛けると、隣の席でレーザーランスを構えている茶髪のロングヘアーの女の子の肩を抱き寄せて、そっと頬擦りをしたの。
「土居川小学校は、私達2人の思い出深い母校なんだよ!ねっ、英里奈ちゃん?」
「えっ?あっ…は、はい…千里さん…」
癖のない茶髪のロングヘアーが印象的な御嬢様風の子は、幼いながらも上品に整った美貌に、戸惑いの表情を浮かべながら、か細い声で私に応じた。
この、少し内気で気弱な御嬢様風の茶髪の子は、生駒英里奈ちゃん。
私と同じ堺県第2支局配属の特命遊撃士で、階級は少佐。
御子柴高等学校1年A組だから、私のクラスメイト。
そして、小学校時代からの私の大切な親友でもあるんだ。
京花ちゃん。マリナちゃん。英里奈ちゃん。そして私。
仲良し4人組な私達は、同じ日に勤務日のシフトを提出した所、お揃いで護衛同乗の業務と相成ったのである。
連名でシフトを出したから、上の方も考えてくれたんだろうね。