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Scene 5 希望の計画

 駅長室の応接間に置かれたソファに並んで座り、肩を寄せ合って資料を確認する二人の表情を見てハワードが目を細めて口角を上げる。

「その資料にある通り、この計画は営利目的ではないし、緩やかな目標はあっても具体的な方法は決められておらず、誰かが結果を評価する訳でもない。君たちの権限で、君たちのやり方で、最良の結果を目指して欲しい」

「それは…… 計画とは言わないんじゃ……」

「何か言ったかね?」

ピーターがぼそりと呟いた言葉を咎めるようにハワードが問い掛け、眼鏡の蔓を人差し指でくいと押し上げる。

「いえ、何も! 大変良い計画だと思います! そう、なんというか、希望があって」

慌てて取り繕い、ツクシの持つ資料をめくりながら計画に似つかわしい言葉を絞り出す。

「ほう、ピート君もたまにはいいことを言うね。そうだ、これは希望だ」

ハワードが満足気にピーターの言葉に応える。そんなやり取りにツクシが笑みをこぼす。

「ふふ、確かにその通りですね。私たちの手で実行する希望の計画と言ったところでしょうか」

「そんなところだな。だから未来ある君たち二人にこの計画を託すんだよ。わかるかね、ピート君?」

「はぁ、なんとなく……」

「資料の最後のページを見ると良い。私から君への(はなむけ)だ」

釈然としない表情のピーターに投げかけるハワードの言葉を聞いてツクシが資料の最後のページを開く。

「使用機材、ですか? ……これは、まだ動く物が残っていたんですね」

「NWL-XB003! これっ!?」

ツクシが開いたページに目を落としたピーターが何かに気付いたように声を上げ、資料をツクシから奪うように受け取った。


 ハワードはソファに深く座り直し、ピーターの表情を観察するように見守る。

「ピートさん?」

ツクシの声も耳に入らない様子でピーターは資料を食い入るように見つめて、ページに大粒の雫を落とす。

「……まだ、残っていたんですね」

「ああ、機関車も宿泊車両も生存限界領域から回収したときのそのままだ。君が悲しみを乗り越えてご両親の遺志を継ぐまではと思っていたのだが…… 長い間黙っていて済まなかったね。私も心苦しく思っていた」

「それは…… 仕方のない、事だと、思います……」

ピーターは嗚咽を漏らしてハワードに応え、資料をこれ以上濡らすまいと制服の袖で涙を拭う。

「ピートさん……」

ピーターの膝の上からそっと資料を自分の膝の上に移したツクシがポケットからハンカチを抜いてピートに手渡す。

「ツクシ君、今回の計画で使う車両は知っての通り原子力蒸気鉄道の実用試験機で、ピート君のご両親が運行していた車両なんだ。二人とも私の同僚で親友だった。父親は運転士、母親は運行管理士でね。羨ましいくらい良いコンビだったよ」

ピーターの様子を見つめながらハワードは静かに言う。

「……そうだったんですね」

ツクシもハワードの視線を追い、ピーターに目を向ける。

「私がデスクに釘付けになっている間、二人は当時はまだオーストラリア大陸と呼ばれていたこの地をあちこちを走り回っていてね。しばらく会わないうちに結婚して子供まで生まれたと聞かされた時は正直悔しい思いをしたよ」

「……終末戦争がはじまった時、僕が五歳になる頃にここに預けられたんだ。 ……その時の事はよく覚えてないけど、きっと今みたいに泣いてたと思う。二人は戦争の間中ずっと、『最後の三日間』まで民間人の避難のために汽車を走らせ続けてたって、そう聞かされて僕は運転士になったんだ……」

ピーターは顔を伏せたまま静かに語り、ゆっくりと顔を上げる。

「そう、だったのですね」

ツクシは視線を落とし、資料に染みた涙の痕を見つめて指先でそっと撫でる。

「ピート君、車両は地下車両基地(ミュージアム)の中にある。私の立ち合いの元で除染し反応炉を取り外した後は誰にも触らせていない。したがって保存状態は覚悟しておいてくれ」

「……ありがとう、ございます」

「整備と反応炉の取り付けは既に手配しているが、その前に二人で状態を確認しておくと良い。ミュージアムの鍵を渡しておくよ」

ハワードが制服の内ポケットから社章のキーホルダーが付いた金色の鍵をピーターに手渡す。

「ツクシ君、資料は君に預けるよ。私からは以上だが、君達からは何かあるかね?」

「いえ! 数々のお心遣い、感謝します!」

ソファから立ち上がったピーターが簡潔に感謝を述べる。

「そうですね。車両を見て話し合ってから、またお話しさせていただいてもよろしいですか?」

ツクシが資料を閉じ、胸に抱いて立ち上がってハワードに問い掛ける。

「ああ、もちろんだとも。この計画は優先度が高いからね。必要なことがあれば私から話を通すよ」

「はい、そのように…… ありがとうございます」

「それでは、失礼します!」「失礼します」

「頼んだよ」

揃って一礼する二人にハワードは目を細め、並んで部屋を後にするまでその姿を見守っていた。

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