Scene 1 ターミナル
「1533番ポイント通過。良いですね、マイナス十五秒です。運行側操作ポイントはこれで最後、間もなくターミナル駅管轄区間に入ります」
「あいよ。ご苦労さん、ツクシ。こっからは俺の仕事だ」
列車がターミナルに近づき、汽笛が二回鳴らされる。それに呼応して前方の管制台の係員が白旗を掲げる。
「侵入ルートクリア。駆動蒸気バルブ制限。バイパスバルブ開放。惰行運転に移行する」
車長が制帽を深く被り直すと低くはっきりした口調で声に出し、いくつも並ぶ圧力計を注視しながらハンドルやレバーを素早く操作する。
「Nu-fi機関制御シールド全閉、復水器最大稼働、安全停止モードへ移行。Nu-fi機関の安全停止を確認されたし」
車長の声と共にツクシが車長席に上がり『RADIOACTIVITY』の警告表示のついた圧力計やメーターを確認する。
「機関内温度、圧力共に正常値、放射線量基準値以下。補器類正常に稼働。Nu-fi機関の安全停止を確認しました」
「了解」
惰行運転に移行した列車はガタンゴトンとレールの継ぎ目を踏み越える音を鳴らしながらターミナル構内のポイントの分岐をいくつも通過し、蒸気の噴き出すガントリークレーンがいくつも設置された貨物プラットホームへ侵入する。プラットホームには長距離貨物列車を待ち構える荷役係が並び、ホームの裏手のバックヤードには牛の牽く荷車が待機している。
「プラットホーム安全確認良し。停止位置確認良し」
車長が前方を指さしながらブレーキレバーを操作すると金属の甲高い鳴きとともに列車はゆっくりと減速し、停止位置に引き寄せられるかのようにピタリと停止した。
「停止位置良し。駆動蒸気開放」
車長がレバーを操作するとブシュ!と大きな音と共に動輪のシリンダーから大量の蒸気が吐き出された。
「はー、終わった終わった。」
車長がシリンダーから吐き出される蒸気と同じタイミングで溜息を吐き出し、やれやれ、といった様子で首を回す。
「車長、お疲れさまでした。時間ピッタリですね」
「ツクシも、お疲れさん。ありがとよ。優秀な運行管理士様のおかげだな。管理標見せてみな」
「はい、確認お願いします」
ツクシが運行管理票を車長に手渡す。
「ん、良いな。こんなキレイな管理標初めて見た。ふむ、あー、ここ、ちょっとおまけしてくんない? 査定に響くかもしんねぇ」
「区間速度が少し早かったところですね。でも、記録は改竄できませんよ」
「そこをなんとか!」
車長が拝むように手を合わせて頭を下げる。
「車長、そんなみっともないことしないで下さい。備考欄に『悪天候を想定して運行したが好天に恵まれ区間を早く通過した』と書いておきますから、この程度の誤差なら見逃してもらえます」
「おう、ありがとよ。……うん、あとはオーケーだ。これならA判定間違いなしだな」
運行管理票にサインをしながら言い、署名を終えた管理表をツクシに返す。
「車長の腕が良かったからですよ。おかげさまで私も無事業務を終えられました。ありがとうございます」
ツクシは運行管理士席を片づけ、仕事道具の詰まったカバンを抱えて機関車を降りた。
「また、よろしくな」
「はい、こちらこそ」
帽子を取り愛想よく手を振る車長に一礼すると、ツクシはプラットホームを抜けてまっすぐ駅舎に向かった。バックヤードには貨物を降ろし運搬する荷役の威勢の良い声が響いている。