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異彩児は田舎で活きる  作者: 柿床 三貴
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プロローグ


僕は鍵谷かぎやかなめ

今年で中学部卒業を迎える十四歳。


 

「なんで僕……」

「私お絵かき苦手なんだもん!」

「そんなこと言っても僕だって描けないよ……」


 リビングのテーブルを挟んで、小学五年生の弟、れいとその二つ下の妹、莉子りこが言い合いを初めて既に数分が経つ。

 聞き耳を立てながら、憎たらしい冬休みの宿題に手を付けている十五の俺は、口論を続ける十一歳と九歳にわざわざ口出しはしない。



 少し前。

 今期、最後の授業を終え、リビングに入ると、莉子(りこ)(れい)がなにやらテーブル上にある箱を上から見つめていた。

 俺も近寄り見てみると、蓋はなく、中を見れば百ピースはあるジグゾーパズル。

 莉子りこが物置から探し出したと言うが、その一つ一つに絵柄はなく、すべて白で染まっていた。

 なるほど。

 これは二人にはどうしようもできない訳だ。

 だったら……とうい事で、数分かけて俺が揃えてあげたが……。


『せっかく真っ白なんだから絵でも描いたらどうだ? 二人に無地は難しいと思うし』

 ……こんなことを言ってしまった訳だ。




 今も尚、(れい)は、莉子(りこ)のお願いをキッパリと断れないでいた。

 俺はというと、宿題を止め、二人の会話を笑って聞いていた。

 しかし油断をするとすぐ俺に飛んでくる。


「……(かなめ)お兄ちゃん描いてよ!」

「ごめんな。 パズルと宿題で疲れてるし、(れい)のほうが元気なんじゃないか?」

「そうなの? じゃあやっぱ(れい)ちゃん描いてよ」

「ちょっとかなめ兄さん……」



 結局、莉子(りこ)は母さんと買い物に出かけるタイミングに(れい)に押し付け、この話は終わった。

 母さんはついでに夜ご飯も買ってくると言っていたが、おそらくは街に出て来週に控えたクリスマスプレゼントを買ってくるのだろう。

 だとしたら莉子りこを連れて行って大丈夫なのか?

 確かまだサンタを信じていたような。

 俺やれいならともかく……。


 二階で準備を終えたのか、階段を下る音の後、母さんと莉子りこの会話が聞こえてきた。


「ねえ、ママ! 今から行くところデパート?」

「ええ、前行ったショッピングモールね」

「じゃあね、トランポリンしててもいい?」

「一時間だけね」

「じゃあ皆には内緒にしーとこ!」


 ちゃんと俺たちまで聞こえてるけど……。

 まぁ、そうゆうことなら心配いらないか。



 *



 同日、俺は二階の自室にいた。

 時計をちらっと見ると十九時を過ぎていた。

 外を見るとすっかり冬の夜空になっていた。

 ベランダから機械をいじるような音が聞こえ、見てみるとれいが望遠鏡の整備をしていたので覗いてみる。


「……うわ、さっむ!! こんな日によくそんな事できるなお前」

かなめ兄さん。 ……もうちょっと厚着して出てきなよ」

「いや、すぐ戻るよ。 ……あれ、今日流星群って言ってたよな?」

「そうだよ。 望遠鏡は整備してるだけで、本命はあれだよ」


 そう言ってれいが指さした先には三脚に固定された一眼レフカメラがあり、広角レンズが取り付けてあった。

 続けて赤道儀やオート撮影とか色々説明してくれたがそこまで興味もないので頭には入ってこない。

 簡潔に言うとこれを使って広範囲の流星を記録するらしい。



「そういえば母さんと莉子りこって帰ってきた?」

「まだだよ。 ちょっと遅いよね」


 会話の途中にふとれいに聞いてみたがまだ帰ってないとのこと。

 昼過ぎに出てったから六時間以上は経っている。

 普段なら絶対家に着いている時間だ。

 

 ここは最寄りのショピングセンターまで片道一時間ほどの田舎で、山麓さんろくに位置している。

 周りを小山に囲まれてはいるものの、多少ある平地では畑として、傾斜地では段々畑として活用している。

 付近は民家が片手で数えられるくらいで、それ以外は田園が広がっており、まさに田舎。

 夜になれば一本道を抜けた先から街明かりがうっすら視える。

 そのためこちらに向かってくる車はすぐに分かる。

 ……だがその光はない。

 隣を見るとれいは画角調整に必死で若いくせして眉間にシワを寄せていた。

 

 普段と変わらない。


 だけど。

 ……嫌な予感というものは当たってしまうものだ。

 それまでに要因が揃っているから。

 



 本格的に捻じれ始めたのはこの時からだろうか。




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