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洗濯日の洗濯ダル

内容を更新しました。

ストーリーは変わっていないけれど、説明を多くし、一部情報を変えています。

 明け一つの鐘が聴こえて、眼が醒めた。窓にかけた布越しに昇ったばっかりの朝の陽射しが、部屋の中へと差し込んでいる。その陽射しに眼を細め、私はベッドに横たわる体を起こした。そっと布を捲ってみると、眩しい光が室内に飛び込んでくる。今日は快晴。うん、最高!


 ベッドから降りてすぐ、寝着(ねぎ)から普段着へと着替える。水の張った洗面器で顔を洗い、タオルで顔を拭く。私は寝起きが良いほうだけど、やっぱり顔を洗った方がスッキリと眼が醒めた気持ちになれる。

 鏡の前の椅子に座り、櫛で髪をといていく。滑らかな私のこの髪はありがたいことに全く寝癖がつかない。だから、櫛ときもすぐに終わる。

 壁に掛けてあった深めの前つば帽子を手に取り、それを頭に被せて顎で紐を結び、その中に髪を詰め込んでいく。全部詰め終えると鏡に映した紫の瞳で、さっと全身をチェックする。


 うん、大丈夫。


 椅子から立ち上がると、私はベッドからシーツをひっぺがし、それをかかえたまま部屋から出た。十一歳の体にしては高めの身長のおかげで、こういった大物を持ち歩いても苦にならない。それが素直に嬉しい。


 部屋から出ると、すぐ横の隣の部屋のドアを叩いた。


「ととさん、起きてる?今日、洗濯日だからシーツ欲しいんだけど」


 私の声に反応するように、部屋の中からガタゴトと音がしだした。しばらく待つとゆっくりとドアが開かれ、その向こうから眠そうに瞼がまだ半分閉じたままのととさんが、シーツ片手に姿を現した。

 昨夜も面倒だったのか寝着に着替えず、服を脱いだだけでそのまま眠りについたらしく、鍛えあげられたその逞しい身体を惜しげもなく披露してくれている。


 あ、ちなみに名誉の為に言っておくと、ちゃんとズボンは履いていたからね。これでもお年頃の娘をもつ父親なんだから。


「今日、だったか?」


 寝ぼけてるのかと思うほど、ぼんやりとした声を出すととさんから、私はシーツを受け取った。


「そうだよ。だから、今日は早いんだよ。他の洗濯物も持って、今からミンディのところに行ってくるね」


 にっこりと笑う私に、ととさんは眠そうに青い眼をこすりながら、了承の頷きを返した。


「朝食は洗濯が終わってからになるから、まだ余裕があるから、ととさんはもう一眠りしてもいいよ」


 ととさんの返事を待たずに踵を返し、私は階下へと降りていく。後ろの方でドアが閉まる音がした。きっとととさんはもう一度眠りにつくのだろう。朝が強い私と違って、ととさんは朝起きるのが本当に苦手。

 本人曰く「これでもまだ、レミーと暮らすようになって、ましになった方だ」以前を知らない私からしたら、ましかどうかも判断がつかないけれど、『朝食は必ず一緒に食べる』約束を今まで一度も破ったことがないから、きっとましになったんだろう。


 家中の洗濯物を大きな籠に入れるだけ入れて、その籠を両手でかかえて家の外に出た。出た途端、ひんやりとした空気が肌にまとわりつく。今は夏だから陽が昇るのが早くて、早朝にもかかわらず周りが明るくて良いけれど、その分暑くなるのも早くなる。洗濯ダルは結構な運動をすることになるので、必然的に汗をかいてしまう。なので、できれば凉しい間に終わらせたい。


 まぁ、ミンディがいるから今日も一番だろうけどね。


 鼻歌をうたいながら、三軒隣のミンディの家に行く。ミンディの家はうちの家よりも、少しこじんまりとしている。その分家賃も少し安い。その少しが問題なのだ、とラミンは以前言っていた。父子だけのうちもそうだけど、母子だけのラミンとミンディの家も少しでもお金をかけないように気をつけている。


 私は薄汚れた、元は綺麗な、今はくすんだ緑色のドアを叩いた。私が来ると解っていたからか、ラミンはすぐにドアを開けてくれた。

 入口をほとんど占める恰幅の良い女性がドア向こうから現れた。ミンディの母さんのラミンだ。ラミンはドアの色よりよほど綺麗な深緑の髪をかきあげ、にっこりと笑った。


「おはよう、レミー。今日は天気が良くて、良い洗濯日日和だねぇ」

「おはよう、ラミンさん。ホントそう思う。ミンディいる?」

「あぁ、今、レミーのように準備しているよ。中に入って待ってなよ」

「うん、ありがとう、お邪魔するね」


 横にずれて、ラミンは私が通れる隙間を作ってくれる。その隙間を通って私が家に入ると、入れ違いにラミンは外へ出ていった。妊娠中の近所の奥さんのところに行ったのかもしれない。もうすぐ産まれそうなのに、旦那さんは傭兵で遠くの部隊に参加していて、出産する時には帰ってこれないらしい。初産ということもあって、緊張している奥さんを励ますために、ラミンは足繁く通ってるそうだ。


 勝手知ったるミンディの家。私は遠慮なく奥へと入っていく。入ってすぐはうちと一緒のリビング兼調理場。その奥にお風呂とトイレがある。寝室が二階にあるのもうちと同じ作りだ。

 奥のお風呂場に行くと、私とおんなじように大きな籠に洗濯物をまとめ入れているミンディの姿があった。


「おはよう、ミンディ」

「おはよう、レミー」


 最後の洗濯物を入れて、顔をあげたミンディは微笑んだ顔をすぐにしかめた。


「レミー、髪がちょっと出ちゃってるわよ。これだと洗濯ダルを回していたら、もっと髪が出てきて、レミーの髪がバレちゃうわよ」


 すぐ横の鏡を見ると、ミンディの言った通り深く被った帽子の横から、ちょろりと髪が一房出てしまっていた。これはまずい。かかえていた籠を床に置き、私は慌てて帽子の中にその一房をしまい込んだ。


「うわぁ、まずいかも。最近この帽子のゴム緩んじゃって、ちょっとガバガバになってて。これじゃ思いっきり洗濯ダルを回せないよぉ」


 この帽子は周りにゴムが入った珍しい物で、高かったけど被ったらどれだけ動いても髪が出ない優れ物だったのに……


 つい泣き言を言ってしまった私に、ミンディは母親譲りの赤茶の瞳で得意げに微笑んだ。


「このリボンを上から巻き付けて縛っちゃえば、大丈夫大丈夫」


 そう言うと、ミンディは手に持ったリボンを、私のうなじから帽子の前つばの方に回して、ぎゅっときつく縛った。うん、これなら大丈夫。


「ミンディの方は大丈夫なの?」


 私は鏡越しにミンディの帽子に眼をやる。


「う〜ん、私のもちょっと危ないかも。やっぱり一緒に買ったとなると、駄目になるのも一緒ぐらいになるのね」

「えぇ!?駄目じゃないよ。普段なら大丈夫だもの。今日は洗濯ダル回すから神経質になってるだけで」

「そうね、それに普段も駄目になっても、こうやってリボンで縛ればまだまだ利用できるもんね」

「そうそう」


 私と同じように、器用にリボンを結ぶミンディと鏡越しに眼を合わせて、私達は笑いあった。


 他の人と違って、私やミンディにとって、帽子は必需品。身を守る防具でもある。決してお洒落のためじゃない。作業を効率よくするため、てこともあるけれど、一番の目的は自分の髪を他の人に見られないように隠すため。何故なら、髪を見られてしまうと、その髪目的で危ない目に遭ってしまうからだ。


  ここユニタホ領地は、グチレリン王国と隣国のドミフェン皇国との国境がある地で、私達はその国境町に住んでいる。なので、王都とかよりも多種多様な人が行き来をしていて、滅多なことでは目立ったりすることはない。

 けれど、私とミンディの髪は、その滅多なことなのだ。


 私の髪は白銀色で、自分で言うのもなんだけど、さらりと絹のような綺麗な髪。ミンディの髪も綺麗な桃色で、ふわふわ柔らかいシプルの毛のような髪。

 こんな珍しい髪は、今まで一度も見たことがない。だから、もしバレでもしたら、金儲け目的のあんなヤツやこんなヤツに髪と体を狙われちゃう。


 実際狙われて、私もミンディも小さい頃から危険な目に遭ったりしている。だもんで、自衛に関しては、同じ年頃の他の子達よりも注意深くできてるんじゃないかと、自分では思ったりしている。それに――


 一度巻いたリボンが気に入らなかったのか、縛り直しているミンディをちらりと横目で見る。


 私よりも二つ年上のミンディは、考えも行動もしっかりしているし、いつも守ってくれている。ミンディの言うことに間違いはないし、ミンディの言う通りにしていれば、大概のことは上手くいく。

 それだけじゃない。ミンディは私と同じような普段着を着て、私と同じような帽子を被っているのに、なんだかとっても色気があった。後二年して私が同じ年になったとしても、きっとこんな色気は出ないと思う。『二つ年上』ということ以外で、ミンディはそれだけの魅力を持っていた。


 しっかりしてて綺麗な姉さん。ミンディはホントに凄いのだ。


「ねぇ、今日はいつもよりも遅いけど大丈夫?一番になれる?」


 ちょっと心配そうに訊く私に、ミンディは安心させるように優しく微笑む。


「大丈夫、私の勘は外れたことないんだから」


 その通り。ミンディは凄い。その中でもミンディの勘はもっと凄い。ハズレ無しの百発百中。金儲けに利用しようとすると、その勘は働かなくなるけど、普段の生活での勘は、そりゃもうビックリ仰天なのだ。


「そっか、じゃあ安心だね」

「でも、もう出ないとまずいかもね」

「え、ホント?!じゃ、出なきゃ」


 私は慌てて床に置いてあった大きな籠を両手にかかえた。


「大丈夫よ、そこまで急がなくても。もし洗濯物を引っくり返したら、それこそ遅くなって一番じゃなくなるからね」

「そっか、そうよね。よし落ち着いていくね」

「そうよ、さぁ、行きましょう」


 ミンディも大きな籠を両手でかかえて、玄関のドアへと向かっていた。二人で外に出て、坂になっている道を上へと上がっていく。私が来た時よりも空気が暑くなってきている気がする。


 これは絶対一番にならないと行けないなぁ。




 坂を登りきった先の広場に大水場(おおみずば)がある。道路よりも少し高くなるように石が積み上げられ、その上に丸い木の板が置かれている。その木の板に水の魔法陣が描かれている。それは私達の家にある水の魔具(まぐ)に描かれている魔法陣よりも複雑な形をしていた。より早く、より多くの水を溜めるために描かれた魔法陣だからだ。

 広場にあるので、この魔具は誰でも利用して構わないけれど、家に魔具があるのに、わざわざこれを利用することはない。だからここを利用するのは、洗濯ダルや祭りなど大量に水が必要となった時だけなのだ。


 この大水場に、二週間に一度洗濯ダルがやってくる。


 洗濯ダルとは、私とミンディが一緒に頭まですっぽりと入れるぐらい大きな樽で、そこに洗濯物を入れて、大物や溜め込んだ汚れ物を一気に洗濯できる、大変便利な樽なのだ。便利な樽だけど、これを利用するには暗黙のルールがある。


 洗濯ダルは領主に指名された管理人が管理をしている。管理人は大体筋骨隆々の大きな男性になることが多い。何故なら、洗濯ダルは分解して持ち運びができるけれど、それでも大きな物なので運搬がとても大変。その上、持ち運んだ先で組み立てなければならないし、組み上がればその後一回一回樽いっぱいに水を注ぎ入れなければならない。運営には体力、筋力ともに必要不可欠なのだ。

 管理だけして、運営用に人を雇っても良いけれど、それではあまり儲けがなく旨みがない。なので、大柄な男性が管理することが多いのだ。


 その管理人は、ここ数年同じ大柄な男性がなっている。この管理人が洗濯ダルを持ってきて使えるようにしてくれるんだけど、この時、周りをうろちょろしてはいけない。

 組み上がり、水が入れば一番に利用することができる。けれどこの管理人、作業中に周りに余計な人がいると気が散って嫌だという、大きい割には意外と小さなことを気にする、面倒――もとい、繊細な男だったりする。


 だもんで、組み上がり、水が満杯になるだろう時を狙って、その場に突撃する!それが、洗濯ダルを利用する上での暗黙のルールなのだ。


 この突撃のタイミングが難しい。管理人の「よし良いぞ」の声と同時に並ばないと「あっちに行け」と追いやられてしまうし、遅いと今度は他の人に並ばれて、長い間待たなくてはいけなくなる。結構シビアで難しい。

 けれど、ミンディはこのタイミングにドンピシャあう。これがいわゆる勘ってのらしいけど、ホントに毎回ビックリ。毎回違うタイミングで、でも毎回ドンピシャ。


 ミンディってホント凄い。


 大水場では管理人と雇われ助手の男が、魔具の上に私の腰ぐらいの高さの樽を二つ置き、水が溜まるごとに洗濯ダルへと水を注ぎ入れていた。ホントは洗濯ダルごとその魔具の上に置きたいんだろうけど、置き場は不安定だし、洗濯ダルは二つある。一つを置いてしまうと、もう一つに入れ替えるのは手間で大変。それに魔法陣の最大水量も、洗濯ダルを満タンにするには足らなかったりする。

 だから管理人と雇われ助手は、せっせと水を注ぎ入れなければならないのだ。


 懸命に水を注ぎ入れている二人へと、私達はミンディのペースで近づいていく。


「よし良いぞ」

「おはようございます。洗濯良いですか?」


 にっこり笑うミンディに、毎回一番になるのを知っている管理人もにやりと笑う。


「あぁ、良いぞ。いつも通りどうぞご使用くださいな」


 洗濯ダル利用料を管理人に支払うミンディを見つめながら、私は心の中で呟いた。


 ミンディってホント凄い。




 洗濯ダルの使用方法はとっても簡単。

 まずは最初の洗濯ダルに洗濯物を入れる。そして、樽の左右横から出ている棒を握って、二人で懸命に回すのだ。すると、洗濯ダルの中身もぐるぐる回って洗濯物が綺麗になっていく。ある程度回したら、下から水を抜いて、抜けきったら、また二人でぐるぐる回す。

 一生懸命回して、ある程度水気が取れたら、次は隣の樽にその洗濯物を入れる。最初の樽には洗剤が入っているので、今度の樽はいわゆる『すすぎ用』。最初の樽と同じように、ミンディと一緒にぐるぐる回す。ある程度回したら、また水を抜いて、二人で懸命にぐるぐる回す。今度はさっきより沢山回していく。回したら回した分だけ、水気が飛ぶので、洗濯物を干した時に早く乾くのだ。


 流石に、もう、無理。


 肩で荒く息をして、額に滲んだ汗を手でぬぐう。これだけ大変な運動量なのに、これだけの汗ですんでいる。やっぱり一番になることの利点は大きい。


 雇われ助手が洗濯ダルの中央にあるペダルを踏んで、中にある床を底上げし、管理人が洗濯ダルから洗濯物を回収して、持ってきた大きな籠に適当に二等分して入れてくれた。


「ありがとうございました。また今度もよろしくお願いします」


 管理人にお礼を言って、その場を離れる。忙しなく洗濯ダルに水を注ぎ入れてる手を止めて、管理人は『おう』と手をあげて挨拶を返してくれた。大柄のくせにとっても律儀だ。


「天気が良いから、これは昼食前には乾くかもね」


 ミンディは眩しそうに空を眺めながら、そう呟いた。


「それは助かるよね。仕事がさっさと片付いて、自由な時が増えるもの」

「そうよね。そういえば、レミーは最近何をしているの?」

「最近の流行りはお茶用の香草摘みかな」

「香草?」


 ミンディは不思議そうに顔を傾げた。この辺りの住人は、お茶は道端に生えている野草を煎じて飲んでいる。それはそれで不味くはないけれど、当然美味しくもない。

 私は美味しいお茶が飲みたいんだ。飲むと気分転換できたり、スッキリしたり、リラックスできたりするような、そんなお茶が飲みたいのだ。だから山に行って、良さそうな香草を摘んできて、色々試したりしている。ととさんにも実験的に飲んでもらって、感想や効果を訊いたりしているんだけど、ととさんは全て「美味しいよ」「効いてるよ」なので、全く役に立たない。


「そうだ、今度ミンディも是非飲んでみてくれる?結構美味しい自信作なんだから」

「そう、解ったわ。ただ山に入るときは気をつけるのよ。獣とかもいるんだから」

「うん、解ってる。ととさんにも言われてるから。ホントに入口近くとか、そんな所にしか行ってないから大丈夫だよ」

「そう、なら良いんだけど」


 ミンディはまだ心配そうに眉をひそめながら微笑んでいるけれど、私ももうすぐ十二歳だ。何が危険で何が大丈夫か、ちゃんと判断できるようになっている。それに十二歳になれば、お店で働き手として雇ってもらえるようにもなる。もう立派な大人の仲間入りだ。


 ミンディも十二歳になるとすぐに働きに出だした。それはこの辺では珍しいことではない。貧民ではないが、裕福でもないこの辺の住人にとって、子供の働き手は重要な資源だ。

 国境から毎日人が出入りするので、いろんなお店が立ち並ぶ。お店が多ければ多いほど、当然人手が必要となる。そんな時便利なのが子供の働き手なのだ。さほど高い給金を必要とせず、けれど、ちゃんとやることはやってくれ、不必要になれば、簡単に辞めさせれる。お手軽に雇い入れられる最高の資源なのだ。


 住人の家族も、子供にも働いてもらえれば、少しばかしの貯蓄ができるようになる。山沿いなので、冬になると食料と暖房材料の物価が高くなるので、その時のために貯めておくことができるのだ。


 十二歳になったら、私もミンディみたいに働きに出たいんだけど……大丈夫かな。


 心配なのはちゃんと働けるかではない。六歳からミンディに手伝ってもらってたとはいえ、うちの家事を賄っていた私は、それなりに要領よく仕事ができると自負している。私が心配しているのはそんなことじゃなくて、私が働くということをととさんが、そしてミンディが許してくれるか、ということ。


 ミンディが働き出した時、ずっと一緒だったミンディが鐘の音二つ分とはいえいなくなることは、私にとってとても淋しい事だった。けれどそんな私よりも、実は働き出したミンディの方がずっと淋しがっていたのだ。いや、正確には淋しかったんじゃないかもしれない。私を一人にする事がとても心配だったんだ。


 ミンディが働き出した時、私は十歳だった。十歳といえば、私はもうミンディの手助けなく、一人で家事を賄うことができるようになっていた。重い物を運んだり高い所の物を取ったり、体力的体系的に無理な事もあったけど、そういった事を除けば、自慢できるくらい完璧にこなしていたと思う。


 けれど、ミンディにとって私は、何時まで経っても小さな女の子みたいで、心配で堪らないらしい。実際働き出したミンディは、毎日我が家に寄っては玄関先でじっくりと、私にその日の注意事項を聴かせたりした。ととさんより心配性なんだよね。だから、我が家ではととさんが許しても、ミンディが許可しなければ、それは絶対禁止事項なのである。


 どうなるのかなぁ、まぁ、なるようにしかならないかな。


 私は隣を歩く、血は繋がっていないけれど、心配症で綺麗で素敵で立派な私の姉さんをちらりと見た。


「さぁ、さっさと洗濯物を干して、うちに帰りましょ。コゾンさんがお腹を空かせて待ってるわよ」

「大丈夫だよ、空腹は最高の香辛料だって、前にととさんが言っていたから」

「確かにそうだけど、お腹が空き過ぎたら、コゾンさん、前みたいにフォークとナイフを手に持って、机に突っ伏しちゃってるかもよ」


 その時の様子を思い出したのか、ふふふ、とミンディが笑った。


 う〜ん、確かにそれはそれで可哀想な気がする。


 ととさんにはもりもりご飯を食べてもらって、もりもりと働いてもらわないとね。


「じゃあ、急ごうか」


 私は両手にかかえた籠を持ち直して、うちに向かって小走りに走り出した。それにミンディも付いてくる。


「急ぎすぎて転ばないようにね」

「大丈夫だよ」


 心配症なミンディにいつも通り答えて、私は家を目指した。

 果たして家で待つととさんは、お腹が空き過ぎて、今度はフォークとスプーンを両手に持って、机に突っ伏しちゃっていたのであった。



お互いにとって、ミンディは憧れのお姉さんです。

レミーは心配し過ぎても足らないぐらい可愛い妹です。


洗濯ダル……発明した人はきっと奥様方に感謝されたことでしょう。

後は筋骨隆々な男性を二人用意するだけ。

とってもお手軽、とっても簡単。

結構リーズナブルなので、おひとついかが?

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