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LOVE BOX  作者: 蓮冶
第二話・エンゲージリング
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Ⅱ企み編




「君を奪った責任は取るよ」

 申し訳なさそうに幾度となく頭を下げた後、帰路につく広い背中を見つめながら、郁己はにやりとした。

 これで彼は自分から逃れられなくなる。

 この日本という国ではまだ同性での結婚は認められていない。

 とはいえ、厳格な彼はそれをすべからく実行に移すだろう。

 ――そう、飯島 郁己にとって、それこそが計画の一部だった。

 一目惚れだった。

 自分よりもずっと背が高く、すらりとした体型。高い鼻梁に薄い唇。射貫くような鋭い目。けれど微笑を浮かべた時は目尻に小さな皺が刻まれ、とても優しい表情になる。

 そして彼は会社でも優秀な人材だった。

 彼、直人と郁己は同期だ。彼はチーフパタンナーとして。郁己はチーフデザイナーとして、今いるブランド会社に引き抜かれてやって来た。

 チーフパタンナーはチーフデザイナー同様にブランド会社の顔だ。重要なポジションにある。

 パタンナーの主な仕事は、郁己が描き起こしたデザイン画を元に型紙を作成し、現実には困難なところを指摘していく役目を担っている。

 それには分析能力や頭脳はもちろん、柔軟なアイデア力や行動力も必要になってくる。その適合者が、彼、吉澤 直人なのだ。

 そんな優れた人に、郁己は恋をしてしまった。

 お互い重要な立場ということもあり、長時間にわたって同じ部屋に入り浸ることもしばしあった。

 だから当初は一目惚れでも、それが恋へと変化するのはそう時間はかからなかった。

 実のところ、家族にもまだ打ち明けてはいないが郁己はゲイだ。そういう性癖だったこともあり、この恋にすぐのめり込んでしまった。

 しかし、直人は違う。

 彼は近々、社長自らに勧められた見合いに応じることになっていた。

 だから郁己は焦った。直人が家庭を持つのも時間の問題だと――。

 だって彼はとてもスマートで格好いい。

 今までは、仕事が忙しいからと突っぱねていた恋愛ごとも、しかし社長自らが縁談を持ってくるとなると話が違ってくる。

 だから実行したのだ。

 予てよりずっと好きだった男性(ひと)を手に入れるために……。

 新作発表を控えたこの季節を利用して、郁己は直人と共に例の如くホテルで最終案を煮詰め、そして徹夜続きの彼に睡眠薬を投入し、襲われたふうを装ったのだ。

 そう、実のところ郁己は直人に抱かれてはいない。

 しかし、男を知らない彼はそのことに気付かず、真面目な直人は責任を取るとそう言った。

 判っている。こんなものは茶番にすぎないと。それでも、郁己は彼を繋ぎ止めていたかった。

 けれどもそれは間違っていた。

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