Ⅰ事の発端編
この章は、六月に開催されたイベントの、ジューンブライドにまつわるお話で作成させていただきました(*^-^*)。
テーマは「結婚縛り」だそうで、やっぱりこのテーマも今まで書いたことのないジャンルだったので新鮮な気持ちで参加させていただいたものです(*^-^*)。
お楽しみくだされば幸いです!!
「これはいったい……」
どうしたことだ。
吉澤 直人は乱れた前髪を掻き上げ、独りごちた。
それというのもここはホテルの一室で、しかも自分の隣にはベッドの上で涙を流しながら眠っている彼――飯島 郁己がいたからだ。
それも一糸も纏わないその姿で、だ。
直人は目の前の光景に漠然とする。
「――――」
いったいどれくらいの時間が過ぎただろう。
直人が放心状態の中、目の前のベッドで彼が小さな呻き声を上げた。
どうやら彼もお目覚めらしい。
長い睫毛が揺れたかと思えば、二重の大きな目が開かれた。
眠っている郁己を見つめ、ただ呆然と立ち尽くす直人の視線に気がついたのか、彼は直人を見るなり、短い悲鳴を漏らした。
細い腕でブランケットを手繰り寄せ、無防備なその身体に巻きつけた。
彼の唇から漏れるその悲鳴を聞いた瞬間、直人はすべてを理解した。
一糸も纏わない彼。
共にしているベッド。
この光景から推測されることはただひとつ。
自分は彼を抱いたのだ。
ああ、自分はなんということをしてしまったのだろう。
たしかに、昨日はデザイン画のパターンを作成するにあたっての型紙の最終調整ともあってか、かなり疲労がピークに達していた。
昨日はたしか深夜遅くまでチーフデザイナーの彼、飯島 郁己と型紙について話し合っていた最中だった。
そうだ。たしかこの部屋で、ふたりで仕事をしていた。
それで何をどうしたのか――。
だめだそこから先が思い出せない。
しかし、目の前の彼はとても脅えている。彼を抱いたに違いないことはたしかだ。
「飯島、その……悪かった。実は何も覚えていなくて、その……すまない。こうなった責任は俺にある」
重苦しい雰囲気の中、直人は渇いた喉の奥を動かし、静かに告げた。