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部活


 さて、入学式から数日が経ったわけだが、教室内のグループもだいたい固定されてきたようだ。基本的にはこういうのってどこも変わらず、リア充っぽいグループと地味系のに分かれるよね。例外があるとすれば私のような――そう、“私”が入ればそこが最上級になるような存在がいる場合だろう。ふふ、まったく罪作りな女だ私ってやつは。


 ところで私の美しい指の件だが、罅が入っていた。もう一度いうが、罅が入っていた。許すまじ紫の内心毒舌少女。全治三週間らしいが、指が固定されて動かせないので非常に鬱陶しい。まったく、私がなにをしたというんだ。この借りは熨斗のしをつけて返してやるぞみらいちゃんめ。


 部活に入る予定がなかったことが幸いだったが、本来ならどこからも引っ張りだこの運動神経も完璧な美少女なんだぞ。たぶん。


 そういえばみらいちゃんが私を求めていたのは――じゃなかった、人外とか妖怪を求めていたのは『妖怪文書一覧研究会』なるものを発足するための足掛かりとするためだったようだ。別に本気でそういった存在を求めていたわけではなく、ジョークを交えて趣味を同じくするクラスメイトを集めるためだったらしい。まあニワトリの真似はジョークそのものだったが、どちらにしてもお寒いこって。それともなんだったか……あの西洋の……ニワトリの鳴き声が嫌いな妖怪でも見かけたのかね。だいぶ昔、狐がそんなやつがいるとうそぶいていたものだ。


 『日本霊異記』や『今昔物語集』に代表される文献を調べ、実際に霊地とされる場所へ行ったりしようということらしい。つまり学校から予算を分捕って放課後に駄弁ったり、プチ旅行に行きたいというわけだ。うんうん、その毒のある内心にたがわずタチが悪いぜみらいちゃん。


「アオちゃんってどっか部活入んのー?」

「私ですか? うーん……誰かに誘われれば入ってもいいかな、といった感じです。レミは?」

「まだ考えちゅー」

「ふーん……うちもどうしょっかなぁ」

「オーギも決めていないんですか?」

「アオやん、“オーギ”やなくて“オウギ”な。苗字と一緒くたはイヤやで」

「おっと失礼しました。それにしても『青木』で『オオギ』って、珍しいですね」

「そこは代々続いてるから別にええねんけどなぁ、名前が扇はないやろほんま。おとんが駄洒落好きやからってそれはないっちゅーに」

「まぎらわしいのなら今日からセンスと呼ぶわ。ああ……随分と貴女によく似合う響きよ」

「ちょ、ツッチーやめてぇや!?」

「いいですね。それで、部活はどうしますかセンス」

「はーい! レミちゃんはまだ決まってません! すいまセンッス!」

「やめぇって! うう、みらいん助けてーな」

「え…」


 センスがみらいちゃんにしな垂れかかった。受け止めて肩を支えてあげているあたり優しいなぁ……と見かけだけなら思うんだが、きっと内心ではなんかすごいことを考えていそうだ。しかし、みらいちゃんのみならずツバメも中々毒があるな。あとなんだか若い燕をはべらすマダムみたいに優雅な雰囲気がある……よし、ちょっとゲスっぽいし今日からお前はツバクローと呼んでやろう。


 それはそうと、ちょっとみらいちゃんの心を読んでみよう。意外と私にだけ厳しかったということもあるかもしれんし。二人を引きはがす振りして触れば違和感もあるまい。


「ほらほら、みらいちゃんも困ってますよ。ちっちゃくて可愛いのはわかりますが、おもちゃじゃないんですから抱き着かない」

「みらいんウエスト細いなぁ。ちゃんと食べとる?」

「あ、あはは…」(やかましいぞ贅六ぜいろく、暗に成長不足のもやし女っつってんだろ? 似非えせ臭い関西弁なんぞ使ってキャラでも立ててるつもりか? 猫に小判でどつかれて死なないかなこいつ)


 …まあわかってたけどさ。でもそこまで人に不満を述べる割に、人を集めてわいわい楽しそうに活動したかったってのはどういうことなんだろう。


 んー……ま、他人を好きじゃないことと一人ぼっちが平気なことはまた違うもんね。人間の矛盾した願望ってのは百年経っても二百年経っても、そこだけは変わらんらしい。といってもここまで度し難い人間も中々いないし、そこが『覚』たる私の好奇心を刺激したといっても過言ではないけど。


 というかさっさと離れんかセンス。みらいちゃんのウザメーターが急上昇中だぞ。


「あん、みらいーん……アオやんいけずやわぁ」

「親しき仲にも礼儀ありですよ。抱き着きたいならツバメにしなさい」

「一秒ワンコインでお得よ」

「たっか! うちお高い女は嫌いやねん」

「安売りはしない主義なの」

「ツバメのスープって高いもんねー」

「レミ……頓珍漢とんちんかんもいいところですが、突っ込み待ちですか?」

「いややわ、アオやん突っ込むなんてそんなえっちぃ…」

「はぁ…」(こいつら脳みそハッピーターンでできてんのかな。つーかいい加減に肩から手を放せよ……にっこにこしやがって何が面白いんだっての)


 うーん、捻くれてるなあ。私の超絶美少女笑顔で幸せにならない人間というのも中々珍しい。やり込めてやりたいのは確かだけど、それは別にしてもう少し仲良くなりたいものだ。そう斜に構えていては人生つまらないだろう?


「みらいちゃんは部活どうするんですか?」

「…」(なんかくっついてきやがった……なんなの? ビッチなの? 鬼に金棒でも突っ込まれればいいのに)


 そんなもん入るか! だいたいビッチとは正反対な清楚な美少女ということがわからんか。うーん……私の魅力にここまでかしずかない人間がかつてあったろうか。いや、ない。良く言えば外見で人を判断しない人間だということなのか? でも私は内面も清廉潔白の完璧少女だしなぁ……にしても反応が無い。おーい、みらいちゃーん?


「みらいちゃん?」

「へっ!? あ、えーと私はその……『御伽草子』とか『百物語』とか、古い民謡で語り継がれた妖怪とかの研究会を作れたらいいなって思ってるけど…」(っと。なんか良い匂いにあてられてた……なんかエロいフェロモンでも出してんのか? ええい、私から離れろビッチめ! …ん? うぁっ! いきなり妖怪とか言い出してしまった! くっ、こいつと同じ穴のむじなになってしまうとは…)


 ふはは、なんだなんだやっぱり私の魅力に抗しきれておらぬではないか。あれか、匂いフェチなのか? 私のは香水じゃなくて天然だからな。それと私はムジナじゃなくてサトリだから間違わないように。


「研究会? へー……自分達で作るって考えてなかったなー。でも先輩とか居ないなら気楽でいいかも! らいちゃん! 私も入りたい! 」

「レミ、なんの研究会か聞いてました?」

「放課後に楽しくおしゃべりする研究会!」

「お、それええなあ。うちも先輩に気ぃつこてペコペコすんのいややもん……よっしゃ! ひと口乗らせてもらおか!」

「ひと口千円からよ」

「たっか! うちのが先いうたのに!?」

「順番なんて関係ないわ。自分の信じるままに行動すべきだもの」

「ツーちゃんの信じるものって~?」

「コレよ」


 ツバクローが親指と人差し指でわっかを作っている。理想のサイズの話かな? …おっと、そんな下品なことを考えていては美少女といえんな。まあどっちにしてもやらしい話ではあるが。


 でも確かにお金は重要だからね。お金が無いのは首が無いのと同じで、そのまま命もなくなるのが基本だったから……昔は。社会に絞られて、でも社会から抜け出さないのは群れとしてしか生きられない、人間の悲しい定めなんだろうね。たった一人で、山中で野性として生きるには人間は弱すぎたもの。精々が屈強な男か優秀な狩人くらいのものだろう。


 でも今はどん底に落ちたって生きられるし、生きる権利を国が保証している。それが幸せかどうかは置いておくとしても、少なくとも昔よりはマシだと思う。きっとツバクローもそれを理解して深いことを言ってるんだろう。


「諭吉で溢れたお風呂に入りたいわ…」

「うわ、金の亡者や」


 …気にしない、気にしない。


 ん? なんだ――なんか唐突に幸せな気持ちになってきた……うぉっと、みらいちゃんか。危ない危ない、あんまり思考を読み過ぎると尋常じゃなく影響を受けてしまうからな。『覚』の時はこんなのありえなかったのになぁ……たぶん種族としては人間の括りに入っちゃったから、そのせいだろう。無意識の無意識、更に深いところで人間は全て繋がっているみたいだから、極端に言えば異体ながら同心になることも可能なんだろね。あんまり読み過ぎると引っ張られるのだ。


 はて、それはともかく幸せな気持ち…? もうちょっと読んでみるか。


 ――おお、とても嬉しがっている。ああ、中学では変な趣味を持ってるってことで敬遠されてたのか。高校ではキャラを変えて頑張ってみようって、自己紹介の時に張り切ってたんだね。結局は空まわっちゃったけど……変な女に邪魔されたけど、同好の士ができそうで嬉しい、と。


 誰が変な女だ! というか失敗に関しては私関与してないだろうが! 


 あー、でもいい気持ちだ。他人が幸せになっていれば私も幸せになれるってのはお得だね。これがほんとの“幸せのおすそ分け”ってやつだろう。現実では恋愛脳がとろけたバカップルが、幸せのおすそ分けと称していちゃつくだけだが私のはガチなのさ。


「おーい、アオちゃん? どうしたのー?」

「なんやめっちゃ幸せそうやな…」

「お金に換算すると65万ドルくらいかしら」

「たっか!」

「あ、葵ちゃん?」(イってないかこいつ…?)


 うぉわっ! 危な、脳内麻薬ドバドバの多幸感でトリップしかけてたぜ。まったく、これだから人間ってやつは…


「し、失礼しました。貧血ですかね」

「あ、生理?」

「レミ、あなた一回死んで人生やりなおしてきなさい」

「ひどいっ!?」

「セーブはしっかりしといたるからなー」

「…それじゃ治らないような」

「うー、らいちゃんまでそんな辛辣ぅ……アオちゃーん!」

「よしよし。レミ、辛辣なんて難しい言葉良く知ってましたね、撫でてあげましょう」

「そのくらい知ってるよ!?」

「偉いわ」

「偉いなー」

「…ぷっ」


 お、みらいちゃんが笑った。なんだかんだでここまで一度も笑顔を見てなかったからなぁ……一歩前進といったところだろうか。まだまだシニカルな笑いだが、いつの日かリリカルな笑いを見てみたいものだ。ま、この様子じゃ案外遠い日でもなさそうだけどね。


「さて、それじゃあ新しい部活動の申請からですね。作りたいです、はいどうぞというわけにはいかないでしょうし、部室だってそうそう余ってもいないでしょう。五人だと確か“同好会”の規定人数ギリギリだった筈です」

「おー、流石風紀委員!」

「ふふ、校則はしっかり暗記していますから」

「ってことはー……まずなにすればええん?」

「しっかりと活動の内容、目的、あとは……熱意を書いて書類を提出すれば、ナナ先生ならきっと無下にはしないでしょうね」

「よーし! まかせたアオちゃん!」

「ええ、ではお願いしますねセンス」

「それ定着してもうたん!? というかうち!? …よっしゃ、任せたでツッチー!」

「一文字二百円の格安でよければ頑張るわ」

「たっか!」

「わ、私がやるから…」

「ふふ、冗談ですよ。こういうのはみんなでやるから楽しいんです。詰めの部分は風紀委員に任せてくださいな」

「う、うん…」


 昼休みにでも職員室に書類を貰いに行こう。ようは妖怪の文献とかを調べて楽しむ活動ってことだからー……私にとっても有意義な活動だ。“忘れ去られれば消える”。これが妖怪の不文律で、絶対の定めだ。現に誰に聞いても知らないような妖怪は、もうこの世のどこにも存在していないだろう。


 逆に言えばメジャーどころの妖怪は、名を変え姿を変え住処を変え、世を忍んで生きているということでもある。その点でいえば私も知名度的に、肉体を求めて人間に器を変える必要はなかったんだけど……まあ備えあれば憂いなしっていうしね。あの段階で『覚妖怪』という『名』が残るかはわからなかったし、先見の明というのは私のためにあるような言葉だし。


 だからこういう活動をして妖怪の存在を遺し、あるいは広めて周るのはとても大事なことだ。もう不老の身ではなくなったけれど、『輪廻物忌転生法』は魂に刻まれている。狐曰く、死を恐れる限りそのまじないは続くだろうとのことだし、ならば間違いなく必要な活動だ。


 能力の劣化は人間の器を手に入れたせいでもあるが、恐らく妖怪の存在が世界から薄れた故に能力が“認められて”いないせいでもあるのだろう。これ以上忘れ去られ、“ない”ことにされたら本当に能力が使えなくなってしまうかもしれない。


 それに……何処に行ったかは知らんけど、妖怪の知り合いが消えるのも悲しいしね。消えゆく妖怪たちを憂いて、周知活動を健気に続ける葵ちゃんってほんとに優しいなー!


 さて! そんなこんなで今は三時間目である。女子生徒達が恐れる身体測定と内科検診のお時間であり、男子生徒達が妄想するキャッキャウフフの花園だ。大半の女子は間違いなく朝御飯を抜いてきているであろうことは想像に難くないし、人によっては前日から絶食しているお馬鹿ちゃんもいることだろう。


 ふふふ、普段から節制を心掛けていないからそうなるのだ。私? 私は能力使うとエネルギー消費が激しいから、ちょっと太ってきたかなと思ったら頻繁に読むだけさ。低血糖を避けるためにカバンにブドウ糖を仕込んでいるのはここだけの秘密である。


「うっわー……アオちゃん完璧ぼでぃー!」

「下着がお高そうね」

「ツッチーはまずそこなんやな…」

「レミも充分可愛いですよ、色々と」

「うわぅ! いま胸見て言った! 胸見て言ったぁー!」

「…」


 まったく、胸が無いのはくびが無いのと同じだな。いや、くびれが無いのと同じだな。みらいちゃんとレミーで幼児体型タッグでも組んだらどうだ? まあ幼児ってほどでもないけど、ぺったんこだもんね。男子が胸チラを拝めた時、ため息がでちゃうレベルだぜ。勿論感嘆のため息ではなく残念なため息ね。前者は私の場合だ。


「やった、身長伸びてたー!」

「どんくらい?」

「一ミリ!」

「誤差やね」

「センスちゃんひどいっ!」


 んま、女子は高校にもなれば成長期もほとんど終わってるしね。背の大きさなんて大して変わらんだろう。勿論ここから大化けする人もいるだろうが、ぷぷ、君達は諦めた方がいいんじゃないか?


「男に胸を触られたわ……いくら請求できるかしら」

「こらこら、医師の方がそんな不埒なことを考えているわけないでしょう? 職務に励んでいる男性を貶すのはよくありませんよ」


 もしそんなことを考えていたらすぐわかるし。だいたい学校の内科検診なんぞボランティアに近いし、いやいややっている医師の方が多いだろう。まあまったくよこしまなことを考えないというのは、若い男性の医師には不可能だろうけど。


 ベテランの医師になると、もはや男子女子関係なく『人間の体』を見ているからな。『性的興奮』というものに対して一種のゲシュタルト崩壊を起こしててちょっと怖い人もいるし。女の体を見たくらいじゃ反応できない人も結構いるもんだ。


「よろしくお願いします」

「はい。じゃあ体操服まくって、息を吸ってー……吐いてー」(ほう……皮下脂肪も少なく、見た目によらず筋肉もついている。健康的な生活を送っているのだろう。98点……なんちゃって)


 ほら、やっぱりただの変人だった。まあ同じことを延々と繰り返していたらこういうお茶目をしたくなるのもわからんではない。ただ一つ……どう考えても私は100点だろうが!


「はい、終わりね」

「はい、ありがとうございました。ところで何点でした?」

「ああ、98て――っ!? えっ!? あ、いや、なん――」

「ふふ。ではあと2点分、来年までに成長しておきますね」

「あ、ああ…」


 はぁ、気持ちいい。人の驚きこそが私の心を充足させる。昔みたいにタチの悪いことはしないからさ、このくらいは美少女のお茶目ってことで許してね。


「なんや大きい声出しとったけど、どないしたん?」

「秘密です」

「えぇ? …はっ! もしかしてセクハラされたんか?」

「いやいやいや」

「そういや、うちん時もイヤらしい目ぇしとった気がする…!」

「気のせいですよ」


 お前は79点だったぞ、センスよ。夜にお菓子ばっかり食べてるからそんな点数になるのだよ、精進しなされ。


 さて、身長体重ともに大した変化もなく無事に身体測定は終了した。みらいちゃんは休み時間の幸せそうな気分から一転、憂鬱な気配を身に纏っている。なに、貧乳はステータスという言葉も一般的になって久しいさ。どこかにかならず需要はあるだろう。碌な需要ではなさそうだけれど。


 そして昼休み。お弁当をぱぱっと食べ終えた私達は書類の作成に勤しんでいる真っ最中である。といっても一枚の紙きれだけどさ――それでも思いのたけはその数グラムを百倍くらいの重みに変えてくれるだろう。ニ、三百グラムくらいか……美味しい牛肉を食べるのにちょうどいいくらいの量だな。ちなみに私はこうみえてけっこう大食漢だ。


「うーん、同好会って部費出えへんねんや……アオやん、部活動としては無理なん?」

「人数もそうですが、実績もなにもないですからね。ある程度活動してなにかしら残すことが重要です。ローマは一日にして成らずですよ」

「あはは、ローマが一日でできるわけないじゃん!」

「いやだからそう言ってるじゃないですか」

「変な例え方するねー、アオちゃん」

「いやいや! ことわざですから!」


 ええい、私に突っ込み役をやらせるんじゃない! 私は清楚で寡黙な文学少女役なんだぞ。まったく、お馬鹿なレミーはほんとに可愛いな。ぶりっ子でやってるならイラっとくるけど、その辺私には手に取るようにわかるもの。この娘はガチである。


 昔なら神社とか座の方に捨てられそうなヌケっぷり……おっと、あんまり暗い部分は思い返さないようにせねば。私は過去を振り返らない主義なのさ。ま、頭の良し悪しは知識に依存しないから……ん? じゃあどうやってこの娘はこの学校に進学できたのだろう…? うむ、学校七不思議にでもしておくか。


「それはともかく、とりあえず古典と文芸の再興を目指す会とでもしておけば問題はないでしょう。日本で一番大きい図書館がある学校ですし、古書もかなりの数が揃っています。そういったことに理解も深ければ、造詣の深い教諭もいるでしょうしね……あ、もしかしてみらいちゃんは図書館目当てで入学したんですか?」

「う、うん…」

「ひぇー、そうなんだ。偉いねー!」

「ちなみにレミは何故ここに?」

「近かったから!」


 近いってだけでこの学校に入れるのか……実は天才なのか? みらいちゃんは遥々と東からきたというのに、えらい違いだな。


「うちも似たようなもんやなー」

「学費免除狙い」

「えっ! ツッチーそんな頭良かったん!?」

「あ、私も学費免除ですよ」


 なんせ入試トップだからな。知識の引き出しという点で、雑学も含めるなら私に敵う者などいないだろう。生きた年数もそうだが、人の心を覗くということはそういうことだからね。ふふ、どうだどうだ、凄かろう。我を崇め奉りたまへ。


「あ、ちょっとドヤっとした! うんうん、凄いでー、偉いでーアオやん。撫でたろ!」


 殺すぞ。じゃなかった、別に凄いなんて思ってないしー。入試トップなんて当然のことだしー。自慢なんてしてないしー。頭を撫でるんじゃない! 別に褒めてもらいたいなんて微塵も思っておらんわ! センスの分際で図に乗りおって、後で恥ずかしい記憶でも漁ってやるからな。覚悟しておけい。


「よっしできたー!」

「では放課後にナナ先生に持っていきましょう」

「いやー、なんかワクワクするなぁ。部室できたらうちらの城みたいなもんやろ?」

「部費は野球部と同じくらい請求しましょう」

「いやだから部費は出ませんって…」

「でもほれ、学費全額免除の学力特待いうたら学年で数人やろ? ほたら学年トップクラスに優秀なんが二人おるっちゅうことやし、案外認められるんちゃう?」

「あ、私も全額免除だよー」

「…!?」

「はぁっ!?」

「っ!?」

「――!?」


 嘘ぉ!? あっ、やば、つい『はぁっ!?』とか言ってしまった。いかんいかん、美少女にあるまじき失態だな。レミーの学力に驚きすぎて誰も気にしなかったことが幸いだった。しかし偶然とはいえそんな優秀な人間が集まるとは……なるほど、優秀な人間の側には優秀な人間しか集まらないということだな。ふふふ、ということは残る二人もさぞ優秀なんだろうて。これなら確かに認められないこともないかもしれないな。


「もしかしてみらいちゃんとセンスも一部特待だったりしますか?」

「勿論! 補欠合格や!」

「…追加合格」

「あ、はい」


 あ、はい。そうですか。優秀な人間類友論は私の間違いだったようだ、失礼したな。“補欠”合格ではなく“追加”合格と言ったあたりにみらいちゃんのプライドが垣間見かいまみえる。可愛いな。


「ま、まあとにかくこれで準備は整いましたし、後は私達の熱意と先生次第です。頑張りましょう!」

「おー!」

「おー!」

「おー」

「ぉ、ぉー…」


 ノリ悪いぜー、みらいちゃん。さ、いざ職員室にレッツゴーだ!


 ――あれ? 誰もついてこない…


「アオやん、まだ昼休みやで」

「あ…」


 …お前らのノリのせいだよ! ちくしょう、笑うな補欠合格の赤紫コンビ! 覚えとけー! 

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