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7、GO!GO!バルトロ ー その一

 サロモン王国領ジラール。

 グランダノン大陸のほぼ中央部に位置する人口二十万都市。

 砂漠の中にある都市だが、北にガイヒドゥン、南にザールート、東にカリネリアと接する交易の盛んなところだ。


 名目上、レオポルドがジラール領主となっているが、実際は代理領主のフベルト・ラプシンとフベール駐在軍事総督バックス・クラリークの二名が担当分けして治めている。


 紡績・紡織の盛んな都市で、綿・毛・絹の生産にも力を入れている。

 綿花栽培と羊やカシミアヤギの飼育はジラール近辺の山野で行っているが、絹糸に必要な養蚕は桑の栽培と一緒にオルダーンで行われている。

 そして工業化された紡績機、紡織機を使用して安く大量に生産している。


 地球から複製してきたファッション雑誌を参考に、この世界でも受け入れられるようデザインされた衣服はグランダノン大陸の流行を左右している。


 『衣装の流行はジラールから』の認識が広まり、ファッションデザインを志す者がジラールに集まってくる。そして新たなデザインが生まれていった。


 ゼギアスが退位する頃には、人口一万にまで減った惨劇の後遺症などまったく見られない活気ある都市にジラールは変貌していた。


 ジラールの周囲にある砂漠には、デザートスネーク・サンドスパイダー・ロックアントなどの肉食系の魔獣が生息している。

 現在は地上三メートルの高さでスカイウォークが整備されている上に、上空には飛竜が、地上はサロモン王国軍が監視して移動の安全は確保されている。


 その上、ジラール周辺はバルトロが散歩を兼ねてそれら魔獣を退治して歩いているものだから、バルトロを恐れてジラールやスカイウォークにそもそも魔獣は近づいてこない。


 「最近は遊び相手が見つからないねー」


 赤い髪を風にたなびかせ、のほほんとした口調で、ゴルゴンからバルトラの身の回りの世話係として派遣されてるマーキに言う。

 バルトロは、サロモン王国第二都市グローリーオブギズムル・・・・・・通称ギズが在る土地の土地神ギズムルの子供。

 ギズムルが治めている地域の開発を許可する代わりにバルトラに世界を見せてやってくれという取引がゼギアスとギズムルの間で行われ、バルトロはサロモン王国およびその領地で生活している。


 土地神ギズムルは大蛇で、蛇系魔族のゴルゴンとラミア族にとっては畏れ多き存在。バルトロのお世話をその二種族は率先して受け持っている。サロモン王国国内はラミア族からの者が、その他の地域ではゴルゴン族からの者がバルトロのお供となる。


 「バルトロ様、ここいらの魔獣はバルトロ様が近づいたと気づいただけで遠くへ去ってしまいます。見つからないのも仕方がないかと」


 銀色の髪、紅い瞳のゴルゴン・・・・・・マーキが答える。

 

 「そうかー。この辺りのことはだいたい判っちゃったから、別の場所へ行こうかなー」


 「一応ゼギアス様へ報告し、その後ならどこへ行こうと問題はないかと」


 「そうだねー。ゼギアス様に怒られるのは困るー」


 バルトロは一度だけゼギアスから教育的指導されたことがある。

 ギズムルの子だけあって、バルトロの攻撃力も防御力もとても高い。

 そして魔法はまったく使えないが魔法への耐性がとにかく強い。

 属性魔法や状態異常魔法は効かないし、転移や転送魔法ですら勝手にレジストしてしまう。ギズムルやバルトロに魔法で影響力を持つ者など、この世界ではサラ以上の魔法力を有する者・・・・・・二十名も居ないのだ。


 バルトロが我が儘を言って周囲を酷く困らせたとき、ゼギアスはバルトロを極寒の地へ転送した。


 どんなに強くとも変温動物。

 マイナス十度を超える寒い環境では動くこともままならない。

 そんな極寒の地にバルトロは罰として三ヶ月ほど放置された。

 ゼギアスはギズムルに「一度お仕置きするけどいいか? 」と確認をとった上でバルトロに罰を与えた。


 三ヶ月程度飲まず食わずでも死にはしないバルトロだが、寒くてその場から動けないし誰も居ない上に雪と氷しか見えない毎日はさすがに辛かったようで、放置されて三ヶ月後ゼギアスに「もう我が儘言わないよー。ごめんねー」と謝罪した。


 それ以降はゼギアスの許可なく動かないようになった。


 「今夜ジラールに戻った時に、ゼギアス様にご報告し了承をいただいておきます」


 「判ったよー。お願いねー」


 バルトロは、半袖の白いTシャツ、チェック柄の半ズボン姿でスカイウォークをザールード方面からジラールへ向けて歩いている。人間の年齢で言えばそろそろ十六歳になるのだが、バルトロの外見は十歳から十二歳程度に見える。


 幼い顔に幼い態度なこともあって、バルトロのことなど知らない旅行客や商人は「まだ子供なのに・・・・・・砂漠の移動は大変でしょう? 頑張るんだよ」と果物を渡す。そうして貰った果物片手に、時折口に入れながら歩いて行く。


 

・・・・・・

・・・



 「ゼギアス様からお願いがあるそうです。」


 マーキは与えられてる宿の一室でバルトロに話している。

 

 「ん? なーにー? 」


 「魔獣が出なくて退屈なら、ヴァンレギオスへ行って肉食系の魔獣と遊んできてくれないか? とのことです」


 「ヴァンレギオス? 」


 「はい。元エドシルド連邦ライアナの北にある国で、サロモン王国と深い繋がりがある自治領です。樹木系精霊のマドリュアスと魔族が治めています。ヴァンレギオスにはジラールのように人や亜人は住んでいません。ですが、いずれはジラールのように人や亜人も住める領地にしたいとゼギアス様は考えていらっしゃるようです。」


 「何をしたらいいのー? 」


 「魔獣狩りです」


 「倒しちゃっていいってこと? 」


 「はい。肉食系の魔獣が増えすぎて、ライアナやカンドラの周囲の村にまで被害を出してるようです」


 「・・・・・・ほう・・・・・・手加減しなくていいのか? 」


 倒してもいいと知ってヤンキーバルトロが顔を出し、表情も口調も変わった。紅い瞳の色も濃くなったように見える。


 ジラール近辺では命を奪わない程度でという条件がゼギアスから出されている。だから痛めつけてジラールやスカイウォークに近づかないようにするだけで止めていた。


 バルトロは殺しが好きなわけではないが、手加減に神経を使うのは面倒でとても嫌っていた。倒してもいいということは、命を奪う結果になっても良いということだから生きるか死ぬかは魔獣次第ということ。バルトロがいちいち魔獣の様子を確認して手加減に気を遣う必要はなくなる。


 「そうです。あと、ジラールからヴァンレギオスへ到着するまでの間に見かけた肉食系魔獣も倒しちゃっていいそうです。ただし、盗賊などは殺さないようにと念押しされました」


 「賊の相手はマーキに任せる。俺は魔獣と遊べればそれでいい」


 「ではジラール周辺の魔獣対策のこともあるので、明日、バックスさんと相談したあとヴァンレギオスへ向かいましょう」


 バルトロは満足そうに頷き、マーキは自室に戻る。




◇◇◇◇◇◇




 バルトロ達はジラールから東のカリネリアへ向かう。

 ジラールからカリネリアまではスカイウォークで移動する。

 何度も歩いた道で、通り過ぎる商人達の中にも見覚えのある者が居る。

 

 人々から声をかけられてもバルトロはいつも通り無表情で歩き、マーキは挨拶を返しながらバルトロの後ろを歩く。


 ここではバルトロが遊べるようなことは滅多に起きない。

 魔獣は近づいてこないからひたすら歩いて、夜になるとスカイウォーク途中に建てられた宿で休む。


 そうして数日後にカリネリアにバルトロ達は到着する。

 カリネリアはサロモン王国東部の軍事拠点となっており、軍事総督ホーディンが領内および周辺を警備している治安の良いところ。

 つまり、バルトロにとってはどちらかというとつまらない地域。

 

 だが、カリネリアはカカオの大産地であり、チョコレート系のお菓子が幾種類もある。見慣れないお菓子を見つけてはその都度マーキにねだっている。


 マーキが持つ鞄に入るだけお菓子を購入し、カリネリアから北のフラキアに向かう。


 カリネリアからは人々が通る街道を避け、森や山に入って移動する。

 街道そばを徘徊する魔獣や、賊を見つけたら倒しつつ移動するためだ。 

 

 カリネリアでホーディンから魔獣の生息域や賊の出現情報を聞いてきたので、出会う確率の高い場所を選んで歩いて行く。


 「バルトロがそっち行ったら、魔獣討伐は任せていいよ。本人もそのほうが楽しいだろうから」


 ホーディンはゼギアスからそう言われていたので、フラキア方面の魔獣情報を伝えた。


 「どのくらい強いのー? 」


 ホーディンはバルトロにデザートスネークと比較して説明した。


 ホーディンからの説明で知った・・・・・・デザートスネークより強そうな魔獣と出会いそうな地域を選んでバルトロは移動している。


 時折、山や森の方から


 「オラオラオラオラオラァァァァァァァ!!! 」

 「もっと俺を楽しませろおぉぉぉ・・・・・・キャハハハハ! 」


 叫びが聞こえ、その翌日には叫びがあった場所から数多くの魔獣の皮がカリネリア警備隊によって持ち運ばれ、革職人達によって加工される。


 「人手の足りないときはバルトロに巡回してもらえたら助かるな」


 ホーディンは、運び込まれた魔獣の皮の報告を見て感想を漏らした。


 また、石化魔法で石化された賊も、警備隊が連れ帰りというか運んできて、牢に入れられ石化解除されている。出会った賊の情報はマーキから情報伝達魔法によって逐次報告が警備隊の元へ届く。


 バルトロ達が通った地域の治安は当然良くなった。

 手加減することなく遊んだバルトロの機嫌も日増しに良くなっている。


 「ねえ、マーキ。グランダノン大陸中の魔獣出没マップを誰か作ってくれないかなー? 」


 バルトロは魔獣討伐ツアーを企画して欲しそうだった。

  

 「そうですね。ゼギアス様に聞いてみましょう。各地の警備隊から情報を集めたら作れると思います」


 お供のマーキもバルトロの機嫌が良いことを喜び、ゼギアスに依頼してみようと考えていた。


 バルトロはサロモン王国の枠組みから外れている。

 ゼギアスとギズムルとの間の契約下の存在で、バルトロの行動はゼギアスの管理下にある。だからバルトロの希望が叶えられるかどうかはゼギアスの考え次第。

 

 まあ、ゼギアスは極力バルトロの自由にさせようとするので、バルトロも今の状況に不満はない。どこに行っても食事は提供されるし、魔獣を倒すバルトロに皆笑顔で接してくれる。

 ゼギアスが地球から持ち込んだ知識や設備もバルトロは関心を持ち楽しんでいる。


 たまに親であるギズムルに経験したことを報告すると「もっといろんなものを見て学ぶのだぞ」と満足そうに言う。


 通常、表情にあまり変化のないバルトロで何を考えてるか判らないのだが、今の生活に満足していたのだ。


・・・・・・

・・・


 カリネリア~フラキアを通り過ぎカンドラ領内からライアナへ向かう頃には、魔獣討伐しているバルトロの噂はジラール同様に知られていた。

 ゴルゴン連れの赤髪紅い瞳の子供を見かけたら挨拶するようにとでも言われてるのか、バルトロを見かけた人達はほぼ必ず礼をするし、食べ物を手渡して感謝する者も居る。


 「僕が魔獣と遊ぶとみんな喜んでくれるねー」


 「ええ、人間種は特にですが、魔獣より弱い者が多いですからね」


 「そうかー。じゃあ、もっといっぱい遊ばなきゃいけないんだね」


 ストレス解消になる上に、皆が喜んでくれるものだからバルトロは調子に乗っていた。


――見かけた魔獣は皆殺しだぁと気合を入れていたバルトロが想像していなかったことがライアナで起きる。

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