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6、レオポルドの妃候補 ー その四


 (最終選考に二人か・・・・・・どちらを正妻として選ぶのかな)


 ゼギアスは息子レオポルドがどちらを選ぶか完全な野次馬状態であった。

 目の前でベアトリーチェ達がレオポルドにも同じようなことを話しているが、奥様達と異なりゼギアスの姿勢は下世話である。

 

 「私達は、アウローラとアイリーンのどちらを選んでも、二人を同時に妃に選んでも構いませんよ。ただ、二人を妃にとした場合でも正妻をどちらにするかは決めなければなりません」


 十一名の母親達の前でレオポルドは神妙な顔をして話を聞いている。

 

 「判りました。母上。で、いつまでに決めれば宜しいのでしょうか?」


 「・・・・・・そうですね。国民に知られている以上あまり時間をかけては二人に迷惑がかかるでしょう。・・・・・・十日というところでしょうか」


 ベアトリーチェは期限を決めてレオポルドに伝える。

 レオポルドは「はい」と答えて了承した。


 (まあ、日本でのお見合いみたいなものと考えれば妥当なところかな)


 ゼギアスもベアトリーチェが決めた期限に納得していた。


 翌日からアウローラと二日、アイリーンと二日、この四日は公務後夕食を含めて四時間ほど過ごす。そして残り六日は二人と一緒に公務をこなしながら過ごすとレオポルドはベアトリーチェに告げた。


 どうやらレオポルドにも考えがあるようなので、奥様達は了解した。


 ヴァイスハイトへも、この十日間はレオポルドの公務は夕方四時までに調整して貰えるよう伝え了承を貰う。




◇◇◇◇◇◇


 

 ゼギアスと奥様達は、この十日間決して覗きをしないと決めた。

 はっきり言うと、覗きはしないようゼギアスに釘を刺した。

 

 「レオポルドのことだから二人きりになったところでエロい流れどころかキャッキャウフフな流れにもならないだろう。だから覗いてもいいじゃないか」とゼギアスは抵抗したが、氷の笑顔のベアトリーチェに「ダメよ、あなた」と即座に却下された。


 ゼギアスに暇を与えては碌なことにならない――レオポルドが妃候補と逢っている時間、この理由で奥様達がゼギアスを押し倒したのは言うまでもない。


 さてレオポルドだが、アウローラとそしてアイリーンと二人で会う時間は、どちらとの時も首都エルの住民達が大勢居る公園で語らったり、リエラの弟子が開いているレストランで食事をし、そして彼女達の住まいに送り届けて帰宅した。


 現在、お妃を決める為の催しが行われていることを知る、レオポルド達を目撃した住民の多くは見て見ぬ振りをした。いつもなら見かけた途端「いつでも声をおかけくださいね~」と誘う肉食獣達ですらレオポルド達に声をかけなかった。  

 住民達がどれだけ気を遣う雰囲気になっていたかわかろうというものである。



 (え? そんなもんでいいの? )


 帰宅したレオポルドからのあまりに健全な報告を聞いて、お見合い経験のないゼギアスにはレオポルドの対応は意外であった。


 さすがに押し倒せとか壁ドンしとけよとまでは思わないが、照れながら手を繋いで歩き、ちょっと肌が触れた程度で顔を赤らめるような甘酸っぱい時間を過ごすとか――世俗にまみれて汚れた大人の心をちょっと切なくさせるような・・・・・・いや、思春期男女の性欲と好奇心なめてんじゃねぇみたいなイラッとさせる状況があってもいいんじゃないかとゼギアスは考えていた。いや、DT(どうてい)のデートはそうでなくてはいけないと考えていた。


 奥様達が「紳士的でいいわ」とゼギアスの期待を裏切る反応していたので、ウブなデートの経験がないことに気づきゼギアスは期待を抑えて微笑んでいた。


 三名で過ごす後半の六日は、ゼギアス邸でレオポルドの家族や兄弟達と過ごした。年少組と遊んだり、母親達や年長組等と会話していた。


 (これはもしかするとイケメンの余裕って奴なのか? )

 

 レオポルドの紳士的で家族愛を強調してるかのような対応はゼギアスにはその可能性を感じさせた。


 (おのれ、イケメンめ・・・・・・)


 ゼギアスだったら親や兄弟の目の届かないところで、その時点で可能な範囲のスキンシップをしていることだろう。


 レオポルドの対応が想定とは異なるものだから、勝手にネガティブな方向へ想像してゼギアスは歯噛みしていた。


 ・・・・・・最終日の夜までそれは続いたのだった。




◇◇◇◇◇◇


 アウローラとアイリーンは妃候補に決まったと知らされたとき、ゼギアスの奥様達から「二人のうちのどちらか、もしくは二人とも妃として選ばれる。それに異論ある場合は言って欲しい」という内容も伝えられていた。


 アウローラもアイリーンも二人一緒に選ばれる可能性は考えていなかった。 しかし、あのゼギアスの息子でもあるレオポルドが妃を一人しか持たないはずはないと勝手に二人とも納得し、異論など持たなかった。


 だが、二人同時に選ばれる可能性があるのに妃になれなかったら自分に問題があるのかもとアウローラは緊張した。


 アイリーンは「ベアトリーチェ達の面接で妃候補として合格とされたのだ。今回もし妃になれなくてもこれからレオポルドの妃になるチャンスはいくらでもある。だから自然な気持ちでレオポルドと逢ってきなさい」とアルフォンソから言われた。

 これまで十年以上片思いしてレオポルドに気持ちを伝えられなかったが、今回告げることができる。これからはもう少し積極的に動けるとアイリーンの気持ちは前向きだった。


 レオポルドと十日間過ごしたあと、二人の気持ちの差が結果に現れる。




◇◇◇◇◇◇



 周囲からは、レオポルド本人が結果を伝えなくてもいいと言われたが、レオポルドは自身の口で二人に告げたいと言った。

 最終日の夕食後、三名だけとなった居間でアウローラとアイリーンにレオポルドは自分の気持ちを話した。


 この時ばかりは、ゼギアスの部屋に奥様達も全員集まり、力を使って様子を伺っていた。


 「あの母達が妃候補として認めたお二人ですから、私とよほどウマが合わないことでもない限り、きっと妃としてそばに居て欲しいと私は感じるだろうと思っていました」


 一人用ソファにやや前傾姿勢で座り、真剣な緑の瞳でベアトリーチェ譲りの優しい口調でレオポルドは話し始めた。


 「そして・・・・・・父ゼギアス譲りなのでしょうか・・・・・・私は優柔不断にもお二人のうちから一人を選ぶことはできませんでした」


 「痛い! 胸が痛い! 」とゼギアスが騒いでいるが、奥様達は無視してレオポルド達の様子をじっと視ていた。


 アウローラは目を輝かせ、アイリーンは両手を口にあてて驚いた瞳で、レオポルドの言葉に喜びを感じていた。


 「・・・・・・お二人には私の妃になっていただけますでしょうか? 」


 レオポルドの問いに


 「「喜んで!! 」」


 二人同時に興奮した声で答えた。

 そして二人で顔を見合わせて笑顔を作っていた。


 「ありがとうございます」


 レオポルドはブラウンの頭を下げて礼をする。

 

 「ですが、正妻は一人です。家族と過ごしていただいた六日間、どちらに正妻をお願いすべきかずっと考えていました」


 二人の承諾の返事を聞いて、レオポルドは多少表情に柔らかさが出てきた。

 

 「私にとって正妻とはどういう人であって欲しいか考えました。そしてやはり母ベアトリーチェのような方に正妻になって欲しい・・・・・・そう思いました」


 アウローラとアイリーンは喜びを抑え、真剣な表情でレオポルドの言葉に耳を傾ける。


 レオポルドの言葉を聞いて、ベアトリーチェは目を丸くして固まっていた。

 ゼギアスと他の奥様達はベアトリーチェの肩や背中や頭を微笑みながらなでている。

 

 「私も兄弟も、父と母達全員を尊敬していますし愛しています。平和で楽しいこの家が大好きです」


 「他国の王家では妃同士の仲があまり良くないところもあると聞きますが、我が家では・・・・・・父や母達の努力のおかげで家族仲はとても良い。その中でも母ベアトリーチェが家族に対して心を砕いている様子には、成人年齢に達した兄弟達なら皆が感謝しているのです」


 ベアトリーチェは号泣と言っても過言ではない状態になっている。

 ゼギアスの胸に顔を埋めて、声をあげて涙を流していた。

 ゼギアスはベアトリーチェの背中を優しくなでていた。

 うれし涙だからとゼギアスも他の奥様達も温かく見守っている。


 「母ベアトリーチェが私の生みの母だからではありません。母ベアトリーチェがしてくれたように、父ゼギアスが家のことをまったく心配せずにいられたように・・・・・・それと同じ環境を作ってくださる方に正妻になって欲しい」


 ゼギアスもベアトリーチェを除く奥様達もレオポルドの言葉に大きく頷いている。


 「今、母達は私の手が回らないところを公務として務めてくださっている。その公務を引き継いでも、お二人なら立派に務めてくださるだろうと私は確信していますし、私の自慢の妃になってくださると信じています」


 レオポルドは慎重に言葉を選んで、だが、自分の気持ちを率直に伝えようと話を続ける。


 「ですので、先ほどまでどちらに正妻をお願いするか悩んでいました・・・・・・アイリーンさん、正妻になっていただけますか?アウローラさん、アイリーンさんと共に私を支えてくれませんでしょうか?」


 今にも気を失いそうなほどアイリーンは動揺し震えていた。

 アウローラはアイリーンに負けたとは思わず、正妻の座をお願いされたアイリーンに笑顔を向けていた。


 「・・・・・・私で宜しいのでしょうか? 」


 しばらく間を置いて、しっかりしなくてはと気を取り直したアイリーンはレオポルドに聞いた。


 「お願いできますでしょうか? サロモン王国国王の正妻という立場はとても大変です。それは母ベアトリーチェを見てきた私には判ります。ですが、アイリーンさんなら・・・・・・いえ、アイリーンさんにお願いしたいのです」


 アウローラは「私もアイリーンさんを支えますし、お手伝いいたします」と言って、アイリーンの肩を抱いた。


 「・・・・・・はい・・・・・・精一杯・・・・・・レオポルド様の正妻を務めさせていただきます」


 震えながらもしっかりとアイリーン答えた。

 そして「宜しくお願いします」と長いブラウンの髪を揺らして頭をさげた。


 アイリーンの感激した様子にアウローラの瞳にもうっすらと涙が浮かんでいた。


 「父が母達に言う言葉ですが・・・・・・私とずっと一緒に居てくださいね? 」


 レオポルドはアイリーンとアウローラの手をとってお願いする。

 アイリーンとアウローラはその手を握り


 「私の愛と忠誠の全てを陛下に捧げます」

 「陛下に生涯の忠誠を誓います」


 誓いの言葉をレオポルドに伝えた。


 ・・・・・・ゼギアス達は、居間の様子を視ることを止めた。




◇◇◇◇◇◇



 翌日からサロモン王国は喜びに包まれた。


 ゼギアスとレオポルドの二人から、王位を世襲するのはこれが最後で、レオポルドの次の国王は国民から国民が選ぶのだと言われている。

 それでもゼギアスの子供達、特に現国王レオポルドへの愛情が国民にはあり、二人の王妃が誕生すると喜んでいた。


 ヴァイスハイトは結婚式の準備で忙しく、ラニエロは新居建設に気合いを入れている。レオポルドが生まれた時から知る他の仲間達も、レオポルドのためならと貴重な樹木を探して家具を製作したり、陶器やガラスで食器などを作り少しでも出来の良いものを送ろうと日々励んでいた。


 アイリーンを送り出したアルフォンソに至っては、泉の森だけでなく他の一族にも声をかけ、二代続けてエルフから国王の正妻を出したお祝いを祭日の形で残そうと飛び回っていた。

 ・・・・・・まあ、それはベアトリーチェ等子供達から止められてしまうのだが・・・・・・。


 友好国各国もお祝いの準備で忙しい。

 フラキアとレイビスは縁戚関係もあることから、サロモン王国並みにお祝いムードに包まれた。


 フラキアは家族総出での結婚式参加を決めお祝いに頭を悩ませていたし、レイビスでもクリストファーがサラの意見を参考にして選んでいた。


 ゼギアスはサラからの


 「お兄ちゃんの時より全然安心して見ていられるわ」

 

 その言葉の意味を理解し苦笑していた。

 奥様達も、もう家族の手を離れ大陸規模のお祝いになってる様子を見守っていた。


 レオポルドは兄弟、友人、知人達からのお祝いに毎日忙しく対応し、妃となる二人も今更ながらサロモン王国国王の妃となる大変さを実感していた。


 この状況下、「次は私の番」と第三王妃の座を虎視眈々と狙う肉食獣達が大勢居たことを、首都エルの独身男性達は後に伝えている。


 騒ぎの度合いが日に日に大きくなっていく中、ベアトリーチェは静かに幸せを噛みしめ、「ルドルフ達の時もきっと大変そうね」と自立していくその時に向けて気持ちを整理していた

  

 式当日、本来は正妻とだけ行う夫婦の契りをレオポルドはアイリーンとアウローラの二人と行い、そしてずっと仲睦まじいゼギアス家と同じような家庭を築こうと美しい二人の妃達と誓い合った。

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