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4、レオポルドの妃候補 ー その二


 近侍か警備の者のうちの誰かが、「レオポルド陛下に妃候補が現れた。」とでも家族か友人に話したのだろう。

 アウローラがレオポルドの妃候補に立候補した翌日には首都エルにその話題は広まっていた。そして三日後にはサロモン王国中に、一週間後には近隣諸国に、十日後にはグランダノン大陸中に広まっていた。


 サロモン王国は今やグランダノン大陸の動向を左右する。だから新たな国王レオポルドはグランダノン大陸中で、現在もっとも注目を集める人物である。


 前ゼギアスの妃を出した国や自治体の動きはさほどでもないが、他の国や自治体はレオポルドとの関係強化のために娘や国内の美女を送ることは当然であり、可能ならば正妻の座に就かせたいと考えている。


 レオポルドはまだ独身であり正妻の座は空いている。

 そこに妃候補が現れたというのだから、各国、各自治体が慌ててレオポルドの元へ美しく、家柄も良い、もしくは何らかの能力が高い・・・・・・ゼギアスの奥様達の誰かに近い要素を持つ女性を送るのは当然であった。


 さらに、サロモン王国国内の独身女性の反応も凄かった。

 

 ゼギアスは自由恋愛に価値を置いていた。

 好きな人と結婚するのが一番と言っていたのはサロモン王国国民なら誰もが知っている。政治的結婚しても、相手を大事にしていたのは周知の事実であった。家柄がどうとか種族がどうとか資産家であるかとか、そういったことには重きを置かなかった。


 そして龍体となる時に妻となったアルステーデと龍体となった後に妻となったディグレスを除いた全ての妻達と子供を作った。相手が魔族だろうと子供を複数持ったことから、なかなか子供ができない体質の魔族からゼギアスは子宝の神と呼ばれていた。

 レオポルドはその子宝の神の長男。

 サロモン王国国内の魔族女性は、隙あらばレオポルドと子作りをと狙っていた。ゼギアスの息子達は全員狙われているのだが、国王であるレオポルドなら、妻だけじゃなく側室や愛人を持つのも当然と見られていたから、実際はどうかはともかくチャンスは多いと考えられていた。


 つまり、自分の容姿や能力に多少なりとも自信を持つ女性が種族問わずに、レオポルドの妃候補に立候補し始めたのだ。


 その結果どうなったかというと、政務館とゼギアス邸の前におよそ千人近い十代の独身女性が集った。


 いずれは徳川家康並みに二十人の妻と百を超える側室を持つかもしれないと覚悟していたゼギアスを父に持つレオポルドであったし、男女比が三対七に限りなく近いサロモン王国では一夫多妻は推奨されていたこともあり、レオポルドも複数の妃を持つだろうと本人も周囲も考えていた。だが、千人という数字はレオポルドをビビらせた。


 ちなみに、政務館前に集った女性達はレオポルド狙いであったが、ゼギアス邸前に集った女性達は、本命レオポルド対抗レオポルドの年長組兄弟であった。レオポルドの兄弟のうち成人年齢の十五歳以上に達していたルドルフ、エリアス、アルバーニも狙われたのだ。


 この状況を自室で見ていたゼギアスは、


 「俺の息子だからと言ってもモテすぎじゃねぇ?やっぱ奥様達のおかげでイケメンだからか?」


 そう言って拗ねていた。

 ゼギアスもモテていたのだが政務館や家の前に妃希望者の行列ができることは確かになかった。

 この状況は、相手が息子とは言えどもゼギアスのモテナイ男子メンタルを刺激し、ゼギアスをダンゴムシ状態に追い込もうとするのである。


 「何を仰ってるんですか?私達はあなたこそ一番素敵な男性と慕っているのですよ?それでもご不満なのですか?」


 ベアトリーチェ達奥様達から異口同音に言われてゼギアスは機嫌を直す。

 そして奥様達に抱きつき「そうだった。レオ達に嫉妬する必要など無かったな。」と嬉しそうに笑う。


 チョロい!

 完全に奥様達の手のひらの上である。

 武田信玄なら『チョロきことゼギアスのごとし』と旗に記して、将帥に持たせて戦場に向かわせたくなるほどチョロい。


 そしてゼギアスがチョロモードに入ったのを見たマリオンやディグレスが流れに乗ってゼギアスを押し倒す。


 「でも、このままにはしておけませんわ。」


 押し倒されるゼギアスに、窓から邸外を見ながらラウィーアは真面目な顔で言う。


 ゼギアスの家には、まだ幼い子も居る。

 エルザの子ダイアナはまだ二歳だし、六歳未満の子が三名、八歳から十歳の未成年も入れると、十一名の未成年の子供が居る。


 成人年齢を過ぎた年長組はまだいいとしても、未成年の子が大勢居る家の前で、「レオポルド様~~。寝室のお相手は是非私に~~。」「ルドルフさま~お好みのプレイを教えてくださいませ~。」などと叫ばれ続けてる状況は教育上宜しくない。

 いくら自由な恋愛を推奨しているゼギアスでも、現状はさすがに過激に感じている。


 「うーん、そうなんだけど・・・・・・どうしようか・・・・・・。」


 マリオンに抱きつかれたままゼギアスは言う。

 レオポルド達が見たら、まったく説得力を感じない体勢であった。


 当のレオポルド達年長組男子も、この状況には困惑していた。

 「煩いわねぇ。」と今にも家の前の集団を蹴散らしに行きそうな長女コンスタンツェを羽交い締めにして抑えつつ悩んでいた。


 

 この喧噪けんそうを首都エルの住民の多くは楽しんでいた。

 新国王レオポルドの妃が決まるかもしれないという期待で一種のお祭りのようであった。


 中にはラニエロの妻ドリスのように「私もあと二十歳若かったら参加して、他の女達を出し抜いてやるのに。」と悔しそうに思っている者も居たが。


 とにかく住民の多くはこの騒ぎを楽しんでいた。



 「なあ?レオは当然として・・・・・・この機会に奥さん貰ってもいいと考えてる人誰か居る?」


 ルドルフはエリアスとアルバーニの顔を見て、俺はまだいらないんだけどと添えて聞いた。


 「俺は貰ってもいいけれど、この状態で選べと言われると困るよ。」


 エリアスが母サエラから受け継いだ銀髪の頭を傾け、困った表情のまま言う。


 「俺もルディと一緒でまだいらないかな。」


 母スィール同様の紅い瞳に困惑を浮かべてアルバーニは言う。


 「と言うことは、レオとエリィの正妻候補・・・・・・数名を選ぶ方法を考えればいいんだけど・・・・・・何か良い案はある?」


 「欲しいものは力尽くで奪うべしよ。みんなで戦って競わせる。どう?」


 まるで自分も参加するかのように目を輝かせてコンスタンツェが意見を出す。 


 「コン、お前の夫を選ぶときはそれでもいいかもしれないけれど、王妃を選ぶのに、それじゃ種族間で不公平になるからダメだな。」


 「ああ、そうかあ。人間種が不利になっちゃうわね。」


 ルドルフの指摘に納得し、コンスタンツェは大人しくなる。


 「どんな場合でも必ずそうとは言えないけど、対人戦闘だと人間種は不利になりがちだね。まあ、競うのは戦いに限る必要はないから、まったくダメということでもないけれど・・・・・・。」


 「「「「「・・・・・・。」」」」」」


 レオポルド達が悩み無言になっていると、ずっと騒がしかった家の外が急に静かになった。そして居間に居るレオポルド達が不思議に感じていると、この世界の実質的な意思決定権者がやってきた。


 現在はレイビス国王クリストファーの正妻、ゼギアスの妹サラである。


 「サラおばさん?どうして・・・・・・?」


 サラの姿を目にした子供達は、敬愛するサラの急な訪問に驚き声をあげる。

 付き人にルミーヌだけを従えて、子供達に笑顔をサラは見せる。


 「みんな大変そうね。でも安心しなさい。」


 微笑みながら優しい声で伝え、子供達一人一人を抱いて頬にキスをしたあと、「お兄ちゃんを呼んで?」と部屋に待機している侍女にサラは頼む。


 「おお、サラ、元気そうだね。」


 ゼギアスがサラの訪問を喜び、抱きしめようと両手を開きながら居間の外から近づいていくとサラの表情と声が変わる。


 「お兄ちゃん!これはどういうこと?」


 怒られるとはまったく想像していなかったゼギアスは、一歩後ずさって


 「どういうことって・・・・・・レオ目当ての女性が・・・・・・。」


 「そんなの見れば判るわよ。そうじゃなくこのままに何故しているの?と言ってるの。」


 「・・・・・・そうは言っても・・・・・・。」


 サラの言いたいことが判らずにゼギアスは困っている。

 

 「また悪い病気が出てる。レオの話を聞いて絶対こうなってると思ったから飛んできたわよ。」


 「悪い病気って?」


 居間の入り口から中に入れないままサラの前で立ち、ゼギアスは怒られている。ルミーヌも子供達も見慣れた光景だ。


 「どうせ子供の自由に任せるとか考えて放置しているんでしょ?」


 「ああ・・・・・・まあ、そうだが、それが?」


 「それが?じゃないわよ。大勢の女の子の中から正妻をレオに選ばせるの?」


 「そのつもりなんだが。」


 「あのね?レオは国王なのよ?レオに選ばれなかった子の中には選ばれなかったことを恨む子も出るかもしれないのよ?」


 「そんな理不尽な・・・・・・。」


 「そんなことは判ってる。選ばれなかった子だってきっと判ってる。それでも感情は理屈じゃないことくらいお兄ちゃんは判ってるでしょ?」


 「・・・・・・ああ。」


 「だから、レオと相談しながらも、表だって選ぶのはお兄ちゃん達の役目なの。憎まれるのはお兄ちゃん達じゃなきゃダメなの。」


 「・・・・・・なるほど・・・・・・。」


 「なるほどじゃないわよ。国王じゃなくなっても親なんだからしっかりしなさい!」


 「・・・・・・はい。」


 サラに叱られて小さくなってるゼギアスは子供達の拍手しそうな様子をちらっと見る。ゼギアスの視線に気づいた子供達は手を後ろに隠す。


 「あなた達、サラ様が助けの手を出してくれたからと浮かれていてはいけませんよ。」


 ゼギアスの背後に、ベアトリーチェを先頭にした十一名のゼギアスの奥様達が、子供達の母達が立っていた。母親達の姿に、子供達は緊張した態度に成る。母達はゼギアスほど甘くはないと子供達は身に染みている。


 「サラ様、仰るとおりですわね。私達が前に出なくてはなりませんでした。情けないところをお見せして申し訳ありません。」


 ベアトリーチェと共に奥様達全員が頭を下げる。


 「いえ、お兄ちゃんがしっかりしていればいい話なんです。」


 ゼギアスに鋭い視線を向け言い訳できない空気を作ってから、ベアトリーチェ達には微笑んで言う。


 なんで俺ばっかりとつぶやくゼギアスを再び睨み


 「言いたいことがあるならはっきり言いなさいよ?お兄ちゃん。」


 「いえ、何もありません。」


 上官の前に直立不動で立つ兵士のようになって、ゼギアスは答える。

 奥様達も見慣れた光景で、誰も特段の関心は持っていないようだ。

 

 「サラ様、これ以上ご心配をかけることのないように、これから私達が選別いたします。」


 「あなた、それとレオ、この件は私達に任せてくださいね。」


 締まった表情のベアトリーチェがサラとゼギアスに伝え、他の奥様達と話し合いを始めた。取り残された感が強いゼギアスだが、奥様達の「女に弱いあなたはダメ。」という空気を感じて黙って頷いた。


 しばらく見守っていると、人間社会に詳しくないディグレスをゼギアスの相手に残して、奥様達十名は「私達が面接します。」と言い家の外に集っている女性達に告げにいった。

 日頃温和なベアトリーチェやサエラ、幼い表情を残すラウィーアの表情もキリッとしていた。


 「お前はいいのか?」


 ルドルフは横に座っている・・・・・・この機会に妻を貰ってもいいと考えているエリアスに聞く。


 「ああ、いいさ。今回はレオの正妻が決まればいい。俺は別に急いじゃいないから。」


 「そうか。」と答え、実際気にしている様子が見えないとルドルフもその話題からは離れた。


 そして開いた扉のおかげで家の外の母達の声が聞こえるので、子供達は耳を澄ました。


 「みなさん。息子レオポルドを生涯支えようとこんなに集まってくださり、母として大変感謝いたしております。ですが、皆様全員を息子の嫁にするのは現実的に無理ということはご理解いただけると思います。ですので、三日後から私達母全員で皆さん一人一人とお話させていただき、大変申し訳ないのですが数名を選ばせていただきます。場所は、迎賓館、午前十時から行います。私達が選んだ方から、その後、レオポルドと接していただいた上でお一人を決めさせていただきます。ですので、本日はお帰りください。三日後迎賓館でお待ちしております。」


 ベアトリーチェの毅然とした、だが透き通るような美しい声が居間にも聞こえる。

 サラは満足そうに「やはりベアトリーチェさんね。」とルミーヌに話している。  

 

 (うーん、いきなり役員面接か・・・・・・大変そうだな。)


 サラの前でいまだに直立不動のまま、今日集まってくれた女性達の三日後をゼギアスは想像している。


 レオポルドは兄弟達から「母さん達が選ぶんじゃ、下手すると誰も残らないかもよ?」とからかわれていた。



 この日、ゼギアス邸と政務館前に集まった婚活女性達用にベアトリーチェ達による面接の知らせが張り出された。   

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