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3、レオポルドの妃候補 ー その一


 ゼギアスの後に即位したゼギアスとベアトリーチェの息子、長男のレオポルドは父譲りの大きな身体と母譲りの整った顔、黒い髪に白い肌、緑の瞳に優しい声を持っていた。温和で柔らかい物腰は母ベアトリーチェのようであった。また軍事訓練で見せる沈着冷静な用兵は、突貫タイプだった父ゼギアスとは異なるものの国民を安心させた。


 即位後、レオポルドは国内国外のあちこちを視察し、視察先の人達とコミュニケーションを極力とり、サロモン王国の将来にも期待した。


 「ふう。ヴァイス、次の予定はなんだい?」


 「あとは謁見ですね。」


 転移魔法で数カ所の視察を終え、多少疲れが見えてるレオポルド。

 簡素なデザインだが座り心地良く作られた王座に座っている。

 王座の横に立つ宰相ヴァイスハイトは、これが当たり前だなと前国王ゼギアスが転移魔法をいくら繰り返してもけろっとしていたのがおかしいのだと考えていた。今日だけで十数カ所も転移魔法で移動しているのだから、レオポルだって十分化物なのだ。ゼギアスやサラと比較しては可哀想だ。


 「少しお休みを挟んでおきましょう。」


 ヴァイスハイトは即位したばかりでどうしても気負いが目立つレオポルドの体調管理にも気を配る。


 「ああ、有り難いな。お言葉に甘えるとするかな。」


 近侍に何か飲み物をと頼んで、レオポルドは椅子に深くもたれる。

 

 「やはり父上は化物だったんだな。同じことをこなそうとすると無理がくるね。」


 「レオポルド様も十分化物ですよ。ゼギアス様と比較することはありません。」


 「んー、家では母上と私達子供に甘いただの父だったからね。実際に父上がこなしていた仕事をやってみて、みんなが父上を化物と呼んでいた理由がつくづくわかるよ。」


 「ゼギアス様と同じことをなさる必要はありません。公務のご予定もレオポルド様に合ったやり方に徐々に変えていくべきです。」


 偉大な前任者に引け目を感じるようなことがあってはならないとヴァイスハイトはレオポルドに具申する。


 「そうだね。僕の様子を見てヴァイスが調整してよ。」


 「判りました。お任せください。」


 レオポルドの素直な気性をヴァイスハイトはとても好ましいと考えている。

 逆に、この国の将来を左右するのは配下であるヴァイスハイト等だと責任を感じるところでもあった。

 まあ、ゼギアスも配下の意見には耳を傾けた。たまにゼギアスの拘りとぶつかることはあっても、理があれば結局は意見を変える人だった。


 「さあ、謁見始めようか?」


 侍従から受け取ったグラスの中身を一気に飲み干し、空になったグラスを侍従に手渡してレオポルドは言う。


 

・・・・・・

・・・



 サロモン王国には宮殿などないし、そのようなものを建てる予定もない。

 謁見は、政務館二階の国王執務室隣にある謁見室で行われる。

 謁見室という名はついているし、他の部屋の三倍近い広さはあるけれど、他国ならちょっと広めの会議室程度の空間。

 王座の後ろには大きな窓ガラス一枚が壁一面にあり、首都の景色がすぐ目にはいる。


 この執務室に初めて入った者は、これが謁見室?と不思議に感じるだろう。

 だが、サロモン王国では必要だから謁見室は用意する。しかし、他国と同じものである必要はない。そういう考えでこの執務室は用意されているから、警備も近侍も最低限しか置かない。調度品など、サロモン王国の一般家庭にあるものとそう大きく違わない。サイズが大きめという程度だ。

 壁には、画家セイラン・ファラディス・・・・・・ゼギアスの妻サエラの妹ライラの夫・・・・・・が描いたサロモン王国各地の様子の水彩画が幾つも飾られている。


 その謁見室で今日は十名の謁見希望者とレオポルドは会う予定。

 レオポルドは即位してからまだ日が浅いから、他国の使者からの挨拶がほとんどだ。小さな街の領主ですら、サロモン王国とのコネクションを作ろうと使者を送ってくる。もちろん領主本人が来ることもある。

 レオポルドも父ゼギアスと似ていて、こういう形式張ったことは面倒と思うタイプなのだが、なんだかんだと理由を作って逃げてヴァイス等に任せるゼギアスと異なり律儀に会う。


 ところが今日は使者とは違う謁見希望者が居た。

 

 「レオポルド国王陛下。私はくだんの地竜騒ぎの際にフェンニーカ大陸からサロモン王国へ移住してまいりましたアウローラ・ファジオーリと申します。お初にお目にかかります。」


 アウローラは、ザンフレッディアの首都エル・ドラードの貴族の娘だったという。栗色の髪と大きな緑の瞳。美しい母達ややはり美しく育った姉妹を見慣れているレオポルドの目にも美しいと感じる容姿を持つ物腰の柔らかい女性だった。


 両親はコーネストの威を借りて好き放題していたメサイア教教会の手にかかり刑に処されたという。

 地竜騒ぎが収まり、サロモン王国へ移住した者達の中にはフェンニーカ大陸へ戻りたいと希望する者達が数千名居るという。

 レオポルドもその話は報告で知っていたし、戻りたいと希望する者達には支援している。テンダールに到着すれば、現地でダヤンが対応しているはずだ。


 「はい、そのことには大変感謝しております。ただ・・・・・・。」


 フェンニーカ大陸へ戻り、サロモン王国領のテンダールから出て旧ザンフレッディア領で暮らした場合、サロモン王国との関係はどうなるのかと不安を訴える者が出てきたという。


 「戻って暮らす為に多少は支援できるが、我が国から離れた者にできることは限られている。それはご理解いただけると思うのですが?」


 「ああ、申し訳ございません。私の説明の仕方に問題がございました。支援の話ではなく、関係の話でございます。」

 

 要は、サロモン王国とは友好的でいたいが、ザンフレッディアは国としても、地方の村としても体制は整備できていない。国であれ村であれ、自治体としてサロモン王国と交渉出来ない状態だ。

 だから、しばらくの間はフェンニーカ大陸という地域に対しての友好的な姿勢保つとサロモン王国に公表して欲しいという。


 「なるほど。私は問題無いと思うけれど、ヴァイスはどう思う?」


 アウローラの話を聞き、レオポルドはその程度なら何の問題もないと考えた。領土的野心があるわけじゃないし、サロモン王国に害をなすほどの力を持つ国は今やグランダノン大陸にもフェンニーカ大陸にもない。


 「アウローラさん、二つ質問して宜しいですか?」


 レオポルドから求められた意見に答える前にヴァイスハイトはアウローラの陳情に感じた疑問を解消しようとしている。


 「はい。」


 「サロモン王国はフェンニーカ大陸全体に友好的姿勢で接すると公表するだけで宜しいのですか?それとアウローラさん、貴女も戻られるおつもりですか?」


 ヴァイスハイトの朱色の瞳がアウローラに向けられる。

 落ち着いた声、口調も丁寧で、厳魔の強面の顔を除けばアウローラを威圧するようなところは見られない。


 だが、アウローラはヴァイスハイトの視線を受け止め、少しの間を置いてニコッと笑う。


 「ヴァイスハイト様。お感じになってらっしゃる通りです。私共の希望を受け入れていただいた場合の交換条件に気づいてらっしゃいますのね。」


 ヴァイスハイトとアウローラの会話を聞いて、レオポルドはどのようなやり取りなのかまだ判っていない。


 「ヴァイス、どういうことかな?」


 「アウローラさんは、フェンニーカ大陸の状況を利用してご自身を売り込みにいらっしゃったのです。」


 横に立つヴァイスハイトと目の前で跪いているアウローラの顔を交互に見ながらレオポルドはまだ理解していない様子を見せる。その様子を見てヴァイスハイトは説明を始める。


 「アウローラさんは、サロモン王国がフェンニーカ大陸に対して行う宣言の代償としてご自身を陛下の妃候補になさろうとしているのです。」


 「はあ?」


 予想もしていなかった答えにレオポルドは驚きの声をあげる。

 

 「先ほどからアウローラさんが言われたことは全て本当のことでしょう。ただ、その代償としてご自身をお妃候補にというところはアウローラさんのお考えだと思われます。」


 「さすがはヴァイスハイト様。私の考えなど全てお見通しでしたか。」


 アウローラは笑顔で 感嘆の声をあげる。

  

 「陛下、アウローラさんにはご両親が既にいらっしゃらない。つまり、アウローラさんのお相手を探す責任ある方がいらっしゃらない。アウローラさんはご自身のお相手をご自分で探し、話をまとめる必要があるのです。」

 

 ここまで聞いてレオポルドもアウローラの考えが判ってきた。


 「ご両親の紹介なりが無いから、フェンニーカ大陸の事情を利用してきっかけを・・・・・・。」


 「左様でございます。陛下はまだ独身。これから娘を妃にと申し出てくるところは日増しに増えるでしょう。アウローラさんは、妃選びに陛下がお忙しくなる前にご自身を妃候補として見て貰おうとお考えになったようです。」


 「はあ・・・・・・なるほど。」


 アウローラの意図がやっと判ってレオポルドは納得する。


 「アウローラさん、失礼ですがおいくつですか?」


 「十六歳になりました。」


 ヴァイスハイトから目を逸らさずにアウローラは質問に答える。


 「この策はアウローラさんお一人でお考えになったのですか?」


 ヴァイスハイトからの質問が続く。


 「はい。」


 「もし貴女が妃候補となった場合、フェンニーカ大陸の住民に恩を売る形になりますが、貴女はその気持ちを利用するお考えは?」


 「まったくありません。私なりに前国王ゼギアス様の為人ひととなりを調べました。恩を利用するようなことは好まれない方だったと思っておりますし、レオポルド様もそのようなことはお嫌いではないかと。」


 「王妃になったら、あなたはどうなさろうと?」


 「レオポルド様のお心とお身体を支え愛したいと思います。」


 「政治に関わろうと?」


 「いえ、思いません。この国の図書館で別の世界の歴史を学びましたが、政治に妃が口を出して良いことはありませんから。」


 淀みなくヴァイスハイトの質問に答えるアウローラの様子に大層感心し、珍しく大声で笑い出す。


 「ワッハッハッハッハッハ・・・・・・なるほど・・・・・・もしレオポルド様のお妃になれなかったら、私のところで働きませんか?」


 「有り難いお申し出です。その時は是非。」


 アウローラは深々とヴァイスハイトに礼をする。


 「陛下。私はアウローラさんをお妃候補として陛下がお考えになろうと反対いたしません。あとは陛下のお気持ちにお任せいたします。」


 ヴァイスハイトはアウローラの賢さを認める。


 「・・・・・・うーん、どうしようか。」


 レオポルド自身もそう遠くないうちに妃を必要とするだろうと考えていた。公務を分担して貰う意味でも、今年十八歳になる健全な男性としても、妃の必要は感じていた。


 だが、突然、予想外のところから出てきた話にレオポルドは判断に困っている。



 レオポルドの困っている様子を野次馬のごとく楽しんで見ている者達が居る。


 ゼギアスとその奥様達だ。

 以前のエルザークがしていたように、その気になればこの世界のどこであろうとゼギアス達は視ることができる。

 この日、たまたまレオポルドの様子を視ていたエルザから、妃候補が現れたかもしれないと聞いたゼギアス等は、全員ゼギアスの部屋に集まりレオポルドの様子を見ながら話し合っていた。


 「あの娘凄いわね。」


 自分とは異なる手段で押しているアウローラにマリオンは驚いている

    

 「レオはあの娘に落とされるだろうな。まあ、あのくらいしっかりとしていて賢い娘ならレオの相手として俺は不満はない。」


 レオポルドはさほど時間かからずにアウローラの手に落ちるとゼギアスは読んでいる。


 「あとはお父様達だわ。お父様はエルフから妃を貰って欲しいようなことを言ってましたから。」


 ベアトリーチェは父アルフォンソ達の反応を考えている。


 初孫のレオポルドをとても可愛がっていたアルフォンソ、そして祖父等のことが大好きなレオポルド。

 さてどうなるかしらとベアトリーチェは考えている。

 心配するほどのことは起きないとは思っているが、ベアトリーチェ自身がエルフの将来を考えてゼギアスとの結婚を急いだのを思い出すと、レオポルドがどう考えるか関心があった。


 今のベアトリーチェならレオポルドやアルフォンソ等の考えを読むのは簡単だが、それはやらない。


 さてどうなることかとゼギアスも奥様達も興味津々であった。


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