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2、ゼギアスの旅行(サエラ同行、東京編)ー その二

 新宿御苑で予定以上に時間を使ったので、東京駅近辺で昼食をとることを諦めて、俺とサエラは新宿を歩くことにした。渋谷にも今日は寄れないだろうが、ま、また来るからいいか。


 まあ、俺もサエラも空腹になることは無い。

 有からも無からもエネルギーを作り生命活動を行うラゼハードの身体を受け継いだ俺達が食事をとるのは、食事を楽しむためで生命活動維持のためではない。


 だから食事をとらなくても問題はまったくないし、サエラも気にしている様子はないのだけれど、せっかく稼いだお金でサエラにご馳走したかったんだ。


 味は我が家の専任料理番リエラが作ってくれる料理のほうが美味しいかもしれない。

 でもせっかく地球まで外出したんだから、ここでしか食べられない料理を食べさせたかった。


 もちろんまた来れば良いだけの話なんだけどさ。


 内心、ちょっとがっかりしていたが、サエラが楽しそうに俺と腕を組んで歩いてる様子を見て気持ちを癒やした。


 さ、次は電気店に行く。


 地球に来る前に、サロモン王国にはない電気製品についての説明はサエラだけでなく奥様達には全員に説明してある。

 家電を見て驚いてくれるのは面白いのだけど、テレビを見て「な・・・・・・中に人が??」などという反応はして欲しくないからだ。

 

 そのくらい別にいいじゃないかって?

 お約束もまたいいものだだって?


 いや、驚くにしても、周囲から馬鹿にされそうな反応を、俺の大事な奥様達にはさせたくない。

 

 誰も見ていないし気にするわけはないって?


 うむ、そうかもしれない。


 だが、俺が嫌なのだ。

 もしかすると馬鹿にされてるかもしれないと想像できる状況が嫌なんだ。

 せいぜい「これが例のテレビですか?」程度の反応に留めておきたい。


 俺が馬鹿にされるのはまったく構わないが、家族を馬鹿にされるのは嫌だ。

 ただそれだけ。


 まあ、地球からDVDレコーダーなどのAV機器を複製してあり、現物に近いモノを見せながら説明したので、そのおかげで映像というものの知識はあるからテレビの説明は難しくはなかった。

 

 「サロモン王国でも可能ですか?」


 俺の説明を聞いたセリーナは興味津々で聞いてきた。


 「いずれはね。でも当分は無理だと思うよ。」


 一応そう答えておいたが、テレビは意外と早く実現するのではないかとも思っている。

 新しい技術にはすぐ飛びつくドワーフ達が居るからね。

 図書館にある情報から興味を示し、危機情報の連絡に必要ですよとか理屈をつけて訴えてきたら、今の国王レオポルドは開発を了承するかもしれない。


 まあ、口出ししないけれど、そうなったら煩いマスコミも出現するだろうし頭が痛くなるだろう。


 俺がこんなことを思いだしながら歩いている最中もサエラは目についた珍しいものを指さして質問してくる。電光の看板や掲示板など、サロモン王国では目にしないものを目にしては興味深そうに聞いてくる。


 俺はその一つ一つに丁寧に答える。

 

 サロモン王国でも水力発電と火力発電で発電しているので電気は各家庭に通っている。だが、せいぜい電灯に使用するくらいで、他の家電は無いから電気使用量などたかが知れている。


 掃除機とエアコンはあってもいいかなと思うのだが、魔法を使える者が居る家庭では必要がない。掃除や空調に使用する程度の魔法を使える者が居ない家庭もサロモン王国国内ではそう多くない。そしてそういう魔法使用者の居ない家庭相手に、掃除や空調を魔法で請け負う仕事をしている者も居るから、忙しいドワーフに家電を作らせる必要もないと考えている。


 サエラも俺の答えを聞いて、「じゃあ、サロモン王国では特に必要ないですね。」と多くの場合納得する。


 冷蔵庫や洗濯機すらも魔法を使える者が居ればいらないからねぇ。

 魔法がある世界では家電メーカーはあまり儲からないだろうと思っている。


 そういうことで、電気店に入ってからの俺とサエラの会話は「ああ、じゃあ、魔法使った方が早いですね。」とか「魔法の方が綺麗になりますね。」という内容が多かった。機械がやるということには面白さを感じていたようだが、必要かと言えば要らないという感じ。


 但し、AV機器だけは別だった。

 

 うちの奥様達は音楽が大好き。


 だが、俺は我が家でしか手に入らないモノは奥様達にも渡さないようにしている。

 だから俺の部屋にあるDVDプレーヤーは時間予約制で皆で使用している。子供達や家人も使いたがるので俺が自由に使える時間など就寝前の数十分。


 他のことでは少しの不満も漏らさない奥様達が、こと音楽のことになると我が儘を言いたそうにする。だが、俺は心を鬼にしてダメと切り捨てている。

 

 今もサエラは、目の前で洋楽のデモが流れているディスプレイに張り付いて、ヘッドフォンを耳にあててうっとりとしている。サエラのその様子は大好きなおもちゃと戯れる子犬を連想させほのぼのとした気持ちになる。


 (これはしばらくここから動かないな。)


 サエラの様子を見て、俺は当分他へ移動するのは諦める。

 俺としてはパソコンやゲームを見たいのだが、まあ、次回にするさ。


 実際、三十分以上は動かなかった。

 夢見心地でリズムに合わせて銀髪を揺らしながら音楽を堪能していた。


 これを用意した店員、サエラの様子をチラ見している店員も購入を期待していることだろう。

 だが買わないからね・・・・・・すまぬ、見事に冷やかしだ・・・・・・。


 「お待たせしました。でも、もっと聞いていたかったです。」


 ペロッと舌を出して謝る姿が可愛いから、俺は許す。

 可愛いは正義という不文律に俺は必ず従う男だ。


 この程度待つのなんか何とも思ってないから許すも何もないんだけどね。


 俺は時間を確認し、そろそろ居酒屋へ行こうと伝えた。

 日本での時間九時には遅くても帰宅しようと考えている。

 サエラからの土産話を皆が待っているからあまり遅い時間に帰宅したくない。


 居酒屋へ連れて行こうと考えたのは、日本の居酒屋が誇るメニューのユニークさと多様さを経験させたいと思ったからだ。


 サロモン王国の飲み屋にある酒の肴のメニューは少ない。

 飲食店も専門店のようなもので、肉料理、魚料理、野菜料理と店毎に分かれている。肉など、牛や豚に鳥、そして食用魔獣など種類毎に店が分かれている。

 一つの店で様々な種類が置いてある店はない。


 別に日本の居酒屋を見せ、サロモン王国の店も同じようにしたいと思ってるわけではない。

 ただ、こういう店もあるんだよとサエラに教えたかった。


 目についた大手チェーンの居酒屋に俺達は入る。

 長らく居酒屋に入ってなかった俺でも中を想像できるから安心。


 外人のカップルが来たと感じた店員が一瞬戸惑うような表情を見せたが、俺達の流暢な日本語を聞いて安心したようだった。


 案内された席でサエラにメニューを渡し注文を決めようとすると、想像していたように、メニューの豊富さに驚き、そしていくつかの変わったネーミングに笑っていた。


 サロモン王国でもグランダノン大陸でもお酒はある。

 焼酎も日本酒も、ワインやビール、ウイスキーなど種類もかなり増えている。


 だが、その味は上等とはまだまだ言えない。

 地球の高級酒のレベルどころか、居酒屋で手軽に飲める程度のレベルにも達していない。マズイわけじゃないけど、お酒の味をじっくり楽しむところまでは至っていない。

 

 それは今、地酒を口にしたサエラの反応からも明らかだ。

 

 「主様、これは危険ですね。」


 俺もサエラも特殊な身体を持ってるから、いくら飲んでも酔っ払うことはない。

 だが、国民は違う。

 だから美味しいお酒があったら、飲み過ぎてしまう奴らが増えてしまうかもしれない。酔っ払いすぎて問題を起こしてしまうかもしれない。

 サエラはそのことを心配している。

 

 サエラが口にしてるお酒は美味しいけれど、それでも酒好きだった前世の俺の感覚から言えば並だ。そのレベルでも危険を感じるほど、グランダノン大陸の酒のレベルはまだまだだ。


 「でもね?それより美味しいお酒はたくさんあるんだよ。」


 俺が教えるとサエラは


 「主様は日頃サロモン王国はまだまだだと仰りますが、今実感しました。」


 何か思うところがあるのだろう。

 真剣な表情で地酒が入ったお猪口を見つめている。


 俺とサエラは酒を数種類、酒の肴もサロモン王国では見たこともないものを幾つか食べた。サエラは異世界の飲み物と食べ物を十分楽しんでくれたようだ。


 今日歩いて感じたことを楽しそうに話すサエラを見て、連れてきて良かったと俺も嬉しくなっていた。


 そして会計を済ませみんなのところへ帰ろうと、転移しても誰にも見られないよう人影の少ないところへ行こうと場所を物色しながら歩いていたときちょっとしたトラブルが起きた。

 せっかくこれまでトラブルもなく気持ちよく過ごせていたのに・・・・・・。


 サエラの色気ある美しさに惹きつけられたのか、やや酔っている様子の、態度の悪い輩が二人絡んできたのだ。


 「よう、ガタイのいい兄さん。いい女連れてるじゃねぇか。俺達の相手もさせてもらえねぇか?」


 「なあ?いつもそのねぇちゃんに相手して貰ってるんだろ?今日くらい俺達に貸してくれ。」


 格好はヤンキーという感じではない。

 一人は黒のポロシャツにジーンズ、もう一人はデザインシャツにスラックス。

 だが、俺には威圧的な視線を、サエラには下卑た笑いを向けて近寄ってくる。


 身長百九十センチで相当鍛えている俺の体格を見ても、恐れることなく喧嘩を売ってくるのだから腕に自信はあるのだろう。


 「主様、どうしましょうか?っちゃっても構いませんか?」


 うん、とっても優しく可愛い日頃は大人しいサエラだけど、こういう時は弱肉強食社会で場数を踏み、建国から俺達と戦いを多く積んだ魔族の反応を示す。


 これがサエラじゃなく武闘派のリエッサだったら、俺に対処を確認する前に男達は既に蹴り飛ばされてるかもしれない。蹴り飛ばした後に、「どこに埋めます?それとも燃やしちゃいますか?」と聞いてくるかもしれない。


 うちの奥様達は家族や仲間以外にはみじんも容赦しないからね。


 「こっちの神との約束もあるから、一応殺さない方向で・・・・・・。」


 そう話してる最中に俺は面白いことを考えついたのでサエラに伝える。

 

 「それはいいですね。」


 俺とサエラは悪い笑顔を浮かべて顔を見合わせる。

 サエラの笑顔にはとても妖しい魅力がある。

 これはこれで男達を刺激するだろうと思いながらサエラの動きを見ている。


 「私と遊んでくださるんですって?それもお二人で?嬉しいですわ~。」


 サエラはそのしなやかな身体を揺らし、ゆっくりと男達に近づいていく。

 サキュバスモード全開だ。


 「ほう、話がわかるじゃねえか。」


 男達は顔を崩してサエラの姿と動きを追っている。

 服装の上から品定めしているのだろう。

 俺はイラッとしたが、ここはサエラに任せておく。

 

 サエラが一瞬動きを止め、そして男達に背を向けて俺の方へ戻ってくる。


 すると男達はその場で服をすばやく脱ぎだした。

 次に、真っ裸になった男達はお互いを抱きしめキスし始める。


 そう、サエラの魔法で、お互いのことをサエラだと思い、そして今居るところはどこかのラブホか何かだと思わされている。


 推定年齢二十代後半から三十代前半の男同士が、人もまだ大勢歩く通りで、裸で抱き合い、お互いの身体を舐め合い、そして腰を振っている。


 見たくないよね?

 絶対見たくないよね?

 中には見たい人も居るかもしれないが・・・・・・。


 俺も見たくはないが、彼らに痛い目を遭わせるならこの程度でいいかなと。


 うん、風俗店の多い場所とはいえここは路上。

 捕まるよね。


 「時間はどのくらいにしたの?」


 「四時間です。」


 そうかあ、四時間もこのままか。

 

 こんなおかしな事件だもの、ニュースとなって世間に流れるだろう。

 顔や名前も世間に晒されるかもしれないね。


 俺が考えたこととはいえ、この後のことを考えると少しだけ気の毒になった。


 でもさ?


 他の誰にも大きな被害を出さずに懲らしめるにはいいと思ったんだ。


 そりゃあ、見たくないもの見せられて気持ちの悪い思いをする人はいるかもしれない。


 彼らもこれから社会復帰に辛くなるかもしれない。


 だが、俺達にちょっかい出して命があるだけ良かったと思って貰いたい。

 サエラの自由にさせていたら、気持ちよく、本当の意味で昇天させられていたことだろう。


 まあ、人の噂も七十五日と言うし、新宿から離れてどこかで静かに暮らしていれば、社会復帰もきっとできるよ。


 路上で熱烈に性行為に励む男達を眺めながら、君たちの未来に幸あれかしと俺は両手を合わせて祈った。

 

 「主様、この辺りは随分と男性の強い精気を至るところから感じます。娼婦街ですか?」


 男達から既に関心をなくしたサエラが子供のような汚れ無き素直な瞳で聞いてきた。


 「ああ、ここらは風俗店が多いんだ。」


 俺は風俗店の説明をその種類の多さも含めて説明した。

 すると何かを思いついたのかサエラは聞いてきた。


 「ちょっと悪戯してもいいですか?」


 「誰も傷つけないならいいけど・・・・・・?」


 俺がそう答えるとサエラは胸の前で手を組んで何かの力を使っている。

 

 やがて目を開け、


 「さあ、帰りましょう。」


 可愛らしい笑顔を見せるサエラに俺は聞く。


 「何をしたんだい?」


 「精気の強い男性に催淫効果が増すようにしたんです。」


 「え?それじゃ性犯罪誘発しちゃうじゃないか?」


 慌てた俺に安心してくださいと言ったあと、


 「私の魔法に影響された男性は、その場で果てると・・・・・・・。」


 「・・・・・・え?・・・・・・その場で?」


 「はい、その場でです。」


 「歩いてるだけでも?」


 「はい。」


 惨事が起きてることを俺は知った。

 確かに怪我はしないだろう。

 でも精神的ダメージは相当なのではないだろうか。

 ちゃんと話を聞いて、止めなかった俺の責任だ。


 にっこりと笑うサエラ。

 うん、どうやら男達に報復しただけでは気持ちが収まらなかったようだね。

 ラゼハードの力を使えるようになったサエラの魔法力で催淫されるとレジストできない男性は一瞬で果てるらしい。


 ・・・・・・なんて恐ろしい。


 ああ、デート中や、単に帰宅途中の・・・・・・いえ、今日この近辺に居た数千数万人の男性陣・・・・・・ごめんなさい。

 怒った元サキュバスが近くに居た不幸を恨んでください。


 いや、これから愛し合うこと楽しみにしていた女性陣にも謝らなきゃな。

 急にビクッとなって果てたパートナー作っちゃってごめんなさい。

 相手の年齢や体力次第では今夜は無理かもしれません。


 今夜、ここらの風俗店の売り上げ落ちるだろうなと、怪奇!何もしてないのに果てる男性が続出した夜とかネットで流れるのかもと思いながら、俺はサエラを連れて通りの脇に急いで入る。


 ばれる心配は無いとは言え、この場にもう居られない気持ちだったんだ。


 俺はサエラを連れて自宅へ転移した。




◇◇◇◇◇◇


 

 帰宅すると、サエラの土産話を楽しみにしている奥様達が迎えてくれた。

 

 「どうでした?」

 「とっても楽しかったですよ~・・・・・・。」


 今日一日の感想を朗らかに、サエラは興味津々で目を輝かせてる奥様達に話している。


 うん、楽しかったよね。

 また必ず行こう。


 奥様達全員必ず一緒に行こう。


 でも、悪戯したくなっても少しは自重して貰おう。

 地球の神が怒るほどじゃなくても、俺がいたたまれなくなる。


 でも、サエラがとっても嬉しそうだから、まあ、いいか・・・・・・。


 まあいいかじゃねぇよ!!

 ふざけんなよ!!!


 そんな声が地球方面から聞こえてきそうだが、サエラが幸せなら俺の耳には届かないのである。


 ・・・・・・こうして、俺とサエラの初めての地球旅行は終えた。

次話投稿は日が開くかもしれません(2017/05/31)

しかし、必ず投稿しますので。

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