乙女ゲームの悪役令嬢だった筈の彼女は今、別ゲームの主人公ポジションにいます。
乙女ゲームの悪役令嬢だった筈の彼女は今、別ゲームの主人公ポジションにいます。
久々に書いた為、文章が読み難かったり解りにくかったりしたら、すみません。
※2018.10/20 今作と次作を一話目、二話目として【連載版】を書き始めました。宜しかったら、そちらもお付き合い頂けたら嬉しいです。
私、アイラ・クレスターには前世の記憶がある…とは言っても、ほんの少しだけどね。
前世の記憶がある。そんな事をいきなり言われたら『え、この人。アタマ大丈夫?』と思われてしまう事、ほぼ間違いないと思う。
家族も『病院に入院させた方が良いよね、この子』と言うような方向に向かってしまうだろう事から、前世の記憶が甦った事は、それを思い出した幼少時から誰にも話した事はない。
前世を思い出したキッカケというものがある。
それは、とある牧場へ牛、羊など普段身近に見る事のない動物達を見に行った事だった。
ただ見に行くと言うだけではなく、王立学園・初等部での課題で、動物を写生するというものがあった。
他の子達は自分の家で買っている血統書の付いている犬や猫などを描く子が多かったのだけれど…この時の私は、何故か別の動物を描きたいと思った。
そして――…
「うちにいる、犬や猫達に不満はありません。皆、とても可愛らしいし、賢さもあって大好きです。でも、私は普段すぐには目にする事のない動物を描きたいのです!」
この言葉で、私は年が離れている兄達の一人。二番目の兄様(お城で騎士をやっている)の休みに合わせて付き添ってもらう事を条件に、とある牧場まで連れて行ってもらう事ができた。
…――あの時。
初めて目にした、どこまでも広がっているかのような広々とした緑豊かな地に、とても大きな牛達、もこもことした毛並みを持つ羊達。穏やかな表情で草を食む馬達を見て…兄によると、私の目は今までで一番輝いていたらしい。
(うわあ! みんな大きい! それに可愛いなぁ! どの子を描こうかな!?)
この時だ。見た事のない筈の場所が、ふと脳裏を過ぎった。
(あれ? 今のはなんだろう??)
そして――…
『さあ、ここが今日からアイラの牧場になる! わからない事があれば何でも聞いてくれよ!』
『わあ、素敵な所ね! はい! 宜しくお願いします!』
オーバーオール姿に、飾り気の無い麦藁帽子を被っている十五、六歳位だろう女の子が広々とした緑が広がる土地で、ニコニコと嬉しそうに笑っている光景が見えたのだ。
あれ? 今の女の人って、もしかして…未来の私…?
んん? でも、それなら…その“未来の私?”を目の前で見ている“私”は誰なの??
(あっ。これ、“私”はゲームのプレイヤーなんだ! だから、モニター越しに“未来の私?”を見ているんだ!)
何だか思い出せない事もあるけれど、プレイヤーの私が見ている彼女、名前はアイラ。少し先の未来の私だと思う。髪の色や目の色が、そっくりだし。
…そっかー、私は今は“アイラ”として生きているのかー。
そう思ったら、断片的にだけど。そのまま色々な事を思い出して行ったのだった。(主に牧場でのノウハウをね)
あれから、約十年。
両親を説得し、話し合い続けた末。私は王立学園を高等部進学前に辞めて、あの光景と同じ光景を目にしていた。
「さあ、ここが今日からアイラの牧場になる! わからない事があれば何でも聞いてくれよ!」
「わあ、素敵な所ね! はい! 宜しくお願いします!」
オーバーオール姿に飾り気の無い麦藁帽子を被っている私は、これから始まる牧場での生活に思いを馳せた――…
「なんで、悪役令嬢のアイラが居ないの!? おかしいわ…おかしいじゃない! この王立学園に居る筈なのに!! わたしの逆ハー計画、どうしてくれるのよ!! 悪役居なきゃ話にならないじゃない!! ……そうよ、居ない筈がないわ。だって、ここは私の為の世界だもの。ふふ、居ない訳ないのよね。アイラ…悪役令嬢なだけに面倒な子なのね、仕方ないから私自ら探し出してあげる。そして私を虐めさせてあげるわ」
王立学園・高等部(廊下)では、桃色の髪を肩まで伸ばし、少し垂れ目がちな目の、見た目は可愛らしい少女がヒステリックに叫んだ後。何やらおかしな事をブツブツと呟いていた姿が複数の男子生徒に目撃されていた。
また、王立学園・高等部(一年生のとあるクラス)では…
「あれっ? アイラじゃないか! 君も王立学園に進学していたんだね! 確か君の家は大きな牧場を親族で経営しているだろう? てっきり跡を継ぐのだとばかり思っていたよ!」
「あら、アーク。町の学校での卒業式以来ね。ああ、牧場の事? そうそう、一応私が跡継ぎって言われていたから、私もそのつもりではあったんだけど…何でも遠縁にあたる家の女の子が牧場をやりたい! って昔から言っていたらしいの。それが…まあ、本気だったらしくてね」
「えっ、もしかして?」
「そう、もしかする。その子が継いでくれる事になったみたい。勿論最初から任せる訳じゃなくて、叔父が持っている牧場の中の小さな牧場から始めるみたいだけどね。まあ、そんな訳で。私はずっと勉強したかった事を学べる事になったって訳」
牧場で働き始めたアイラと同じ髪と目の色を持つ、アイラと同じ名も持っている、彼女と同い年の少女が、隣席の学生に答えを返していたのだった。
「よ〜し、よし。皆、今日も良い子だね! 今から順番にブラッシングするからね〜」
日が昇り、空気が清々しい朝。二頭の牛と、二頭の羊。そして、二羽の鶏。彼女達(羊達以外は雌だ)を放牧した後。
『さ! 皆、まずはブラッシングしようね〜』と、動物達にブラシ片手に近寄ろうとしていた時だった。
「アイラー! おはよう! 頼んでいた物は出来ているか?」
牧場の入り口の方から、警備隊の制服姿の青年が大きな声で呼びかけて来た。
「ルッツさん、おはよう! 今日も早いわね〜。頼まれていたプリンなら冷蔵庫に入っているから! 今持って来るわね!」
「バッ、大きな声で言うなよ!?」
彼。ルッツは、この街をおじさん(幾つかの牧場の持ち主で遠縁にあたる人だ。確か、ゲームでも“おじさん”と呼んでいたんだよね)に案内して貰っていた時に紹介されて、話の流れから『牧場の動物達のミルクや卵を使ったお菓子も作って売り出そうと思っているんです』な話になると、少し恥ずかしそうな顔で『…その、プリンとかも作れるか?』と聞かれて頷き、後日。
試作品を持って行ってみたら大層お気に召したらしく、その後。プリンを販売する時には必ず予約を入れてくれていたりするうちの一人だ。
「誰かに聞かれたらどうするんだ!?」
「いやいや、こんな朝早くからウチに来るのは警備隊に所属しているルッツさん位よ?」
朝の見回りの後に寄ってくれているらしい。
「あ。それもそうだな」
少し恥ずかしそうに笑っていたのだった。
「別に、甘いものが好きだって公にしても良いんじゃないの?」
ルッツさんは甘いもの好きな事を他の人にあまり知られたくないらしい。
「いや。俺みたいな厳ついのが嬉しそうに菓子食ってるところなんざ、見たくもないだろうし、見せたくもないんだよ」
「うーん、そういうものかなー? 私はプリンを食べてくれている時のルッツさんの嬉しそうに笑った顔、好きだけどなぁ」
見たくないとは思わないよ? と続ける私に対し、ルッツさんは顔を少し赤くしながら――…
「バッ! 何言ってるんだ! オッサンをからかうんじゃねぇ!」
「オッサンて。ルッツさん、まだ二十代じゃない」
「い、いいいいから! 早く! 注文の品!」
「ハイハイ、ただいまお持ちしますよー!」
ンモー! コケッ、コケッ! メェ〜
あ。いけない。
「みんな待たせちゃって、ごめんね! もう少しだけ待っててね!」
動物達の声でハッとなり、私は急いで注文を受けていたプリンを取りに向かったのだった。
「おい、アイラ! 急いでくれるのは有難いが、慌てて転ばないよう気をつけろよ!」
「はーい!」
新しい生活は何もかもが今までの生活とは違っていて、毎日が新鮮で楽しい。勿論、楽しいことばかりではなくて、大変な事もあるけれど――…
私は今、この牧場での生活が大好きだ!
(いやぁ、前世を思い出して良かったー!)
ここまでお読み下さりありがとうございました!