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ありがとう  作者: nagoyan
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6章

 2日後、治療室から出て個室に移ったと洋介から聞いた。が、相変わらず意識は戻らない。綾のお母さんに、会わせてほしいとお願いしたら、特別に行ってもいいということだったので、変な緊張はしたけど、会いに行った。

 病院に着くと、ロビーまでお母さんが迎えに来てくれていた。案内され、少し大きめの個室の前で手を消毒した。お母さんの後について中に入ると、一つしかないベットに、オレンジの入院着を着た綾がいた。もちろん目は閉じている。ベットの横にはいくつもの機械が綾を囲んでいて、額には事故の時の傷と思われるものがいくつもあった。そんな姿を見ながら、いつの間にか涙がこぼれていた。痛かっただろうに…あの日もいつもと同じように元気に電車に乗ってくるはずだったのに…なんで綾なんだよ…他の人じゃなくてなんで綾が痛い思いをしなきゃいけないんだよ…


 しばらく病室の窓から外を見ていて、気持ちを落ち着かせていた。お母さんが「今日は帰ったら?」と言ってくれたが、頑なに「嫌だ」と言った。そして、お願いもした。

「これから毎日ここで勉強させてもらえませんか。綾の隣で」

「毎日って、あなた学校は?」

「明日からは補習だけになるんで行きません。どこにいても綾の事が気になるので、ここにいさせてください」

「そうねぇ…そう言うのならいいわよ。でも、ちゃんと勉強しないと帰ってもらいますよ。綾は、自分のせいで健太君の勉強の邪魔をしてしまう事が一番嫌だと思うから。それだけはこちらからお願いします。綾のお願いとしてね」

「わかりました」

 こうして、綾の病室で過ごすようになった。面会時間の最初から最後までずっと。時々綾に話しかけたり、手をにぎったりしながら。綾につながっている機械の音しか聞こえないけど、俺には綾が必死で頑張っているのが分かった。「勉強しろよ〜」と言いそうにも見えた。

 日曜には、綾のお父さんがいきなり来て、めちゃくちゃ緊張することもあり。お父さんは大学の先生だそうだ。風格がある…

 色々ありながらも、病室で2週間ほど過ごした。依然綾は変わらずだ。俺に余計な事を考えさせないように、詳しい病状は教えてもらえないのだ。両親とも、とても気を使ってくれている。

 

 そして、俺の大学2次試験までちょうど1週間になった日。綾の両親が話があると言ってきて、お父さんが話し始めた。

「健太君の試験まで1週間だね。だが綾は変化がないのはよく知っていると思う。ずっと綾の側にいてくれて、とてもありがたく思っているんだ。ただ、大学受験というのは、君の人生を大きく左右するものだ。今まで、君が頑張っていた事は十分知っている。しかし、やはりこの最後の1週間は100%勉強に集中してほしいんだ。君が大学に合格する事が、綾にとって、我々にとって一番の願いなんだよ。だからこの1週間、ここには来ないで、勉強の事だけ考えてくれ。もし綾に何か変化があっても、君の試験が終わるまで連絡しない事にする。悪く思うのなら思ってくれて構わない。試験が終わってからまた会いに来てやってくれないか」

 このお父さんの言葉から、提案ではなく、強い気持ちが感じられた。綾の事を考えないなんて出来るわけないが、「俺が受かったら綾は元気になるんだ」と思うようにすると決めた。

「わかりました。綾に手紙だけ置いて行きますね」

そう言って、綾に手紙を書いた。


“綾へ

 おはよ。大変だったね。頭痛くないか?

 俺は今から来週の試験に向けて勉強します。綾の近くにいたいけど、綾のために合格目指すよ。綾のお守りはすごい効果だから、今回も力を貸してね。

 それじゃ、行ってきます。      健太”

 

手紙を書いてから、綾のカバンの中から筆箱に付いてるお守りを取り出した。そのお守りと手紙を、ベットの横の机に置いて「行ってくるね」と言って病室を後にした。


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