4章
さて、年末が近くなってきた頃。世の中は完全にクリスマスモード。去年は部活のみんなでカラオケしてたな…独り身の男ばっかで。でも今年はみんなに、
「悪い、クリスマスは予定あるんだ」
と言って、お決まりの冷やかしを受け。24日は俺も綾も部活が夕方までだから、終わってから街のイルミネーションを見に行く事にした。キラキラピカピカしてる物が好きらしい。ロマンチックやなぁ。
24日。天気予報では、夜に雪がちらつくらしい。いいムードやん。そして夕方、待ち合わせた街の時計台には人があふれていた。人込みは苦手だが、上手く会えた。
「すごい人やなぁ。迷子にならんといてな」
「手つないでたら大丈夫やろ。健ちゃんこそ勝手にどっか行かんといてよ」
「俺方向音痴だから」
とても寒かったけど、綾の冷たい手をにぎっていると、心地良い温かさを感じられた。
綾の好きな、ピカピカ光るツリーの形のイルミネーションがよく見えるベンチに座った。
「きれいよね。私こういうの大好き」
ベタでクサいセリフが頭をよぎった…が、言わなかった。
「はい、健ちゃん。メリークリスマス」
と言って、袋を取り出した。マフラーだ。
「昨日ギリギリで出来たの。クリスマスカラーにしてみた。」
真っ赤な手編みのマフラーだ。俺らはちょっと前に、「まだ学生だから、何か買ってプレゼントってのは無しにしよう。物より気持ちって事で」と決めていたのだ。実際、どんな高価なマフラーより、綾が作ってくれた方がいいに決まってる。本当に嬉しかった。
俺は何も作れないから、手紙を書いてきた。4月から綾を意識するようになってから、話すようになり、とても楽しくて、付き合っているなんて信じられないくらい幸せだ、といった感じの事を、汚い字ではあるが本気で書いた。綾のマフラーの後に渡すのは少し恥ずかしいけど、その場で読んでもらった。
綾が静かに読んでる間、とにかく落ち着かなかった。が、少しすると綾が寒そうにして鼻をすすった。
「大丈夫?暖かい所行こっか?」
「ううん。大丈夫。もうちょっとだから」
そして、全部読んだみたいで、手紙をカバンに入れた。けど、何の反応もない。
「綾?」
「…うぅ。せっかくのクリスマスに女の子を泣かさないでよね」
と言って、目に涙を溜めながら、いたずらっぽく笑った。
「あ…え…ごめん。泣かそうとは思ってなかったけど…」
「感動してるのに『ごめん』は無いでしょ〜。ありがとう。とーっても嬉しいよ」
「よかった。マフラーありがとう。これから毎日するよ」
寒さと、クリスマスの雰囲気も後押しして、少しでも温かくなるように近づき、2人の初めてのキスをした。照れ隠しに笑い合って、家路についた。
その後も、とにかく綾の事ばかり考えて生活をしている感じだ。正月、バレンタイン、ホワイトデー。そして春になり、3年生になった。
4月は俺の誕生日があるが、なんと綾は俺の5日後が誕生日だった。2人の誕生日プレゼントとして、2人とも好きな川嶋あいのライブに行った。最初に聞いた綾の歌は「明日への扉」だったなと思い、懐かしくも感じた。
綾が応援に来てくれた、高校最後の試合も終わり、俺は一足先に受験の事を考えるようになった。綾は最後のコンクールが夏前だから、もう少し時間があったが、一緒に進路の話しもするようになった。
「俺のやりたい事が一番出来るのは、関東の大学になるんだよな。綾は県内に残るん?」
「う〜ん、県内の看護大になるかなぁ。外には出したくないって親が言ってるから」
「そっか。なら俺も県内で探してみよっかな」
「こら。そりゃあ県内でもやりたい事ちゃんと出来るんなら近くにいれる方が嬉しいけどね。妥協して県内に残っても口利いてあげないかんね〜」
綾は妥協が嫌いな子なんよ。だから、俺が本当は関東に行きたいと知って、県内に残ったらダメって言うのさ。「遠距離になったって、3時間あれば帰って来れるんだし、寂しくなったら遊びに行ってあげるよ」って。ホントしっかりしてるわ。
綾の部活も終わり、夏休み。受験生にとって、勝負の時期だ。学校の補習は受けたが、それ以外の時間は市の図書館で綾と勉強した。時々、洋介カップルも一緒になったりした。
相変わらず進路は悩んでいた。どうにかして県内に残る理由を考えようともしたが、全部綾はお見通しだ。
「こら。私じゃなくて問題見て勉強しなさい」
とよく注意された。でも、自分の勉強してる時より、綾に教えてる時の方が楽しいんだもん。こういう時は、数学得意でよかったと思う。世の中に数学好きが増えたら、俺の出番がなくなってしまう…まぁ、どっちみち綾しか教えないけどね。
夏休みが終わると、冬まであっという間だった。あと2週間で、2回目のクリスマスも見えてきた。
「今年はさすがに予備校だね…あ、クリスマスにお守り作り合って受験に持ってくのはどう?」
「お、いーね。でも…あの…俺縫い物できんけど…」
「ん〜、任せた。健ちゃん流のやつね」
俺流か。指を刺す覚悟で縫ってやる。