表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ありがとう  作者: nagoyan
1/7

1章

 春の温かい朝日を浴びて電車を待ってる。今日からまた一週間の始まりだ。ホント眠くなるくらいの快晴だな。桜の花もほとんど残ってない。

 俺は岡本健太。先週17歳になったばかりの高校2年生。自宅の最寄り駅から30分かけて田んぼの真ん中にある豊和高校に通ってる。とにかく見渡しの良い学校だ…


 そんなこんなで、平凡な高校生活を送っていたのだが、最近というかこの4月から、少し楽しみがある。朝の電車に2つ先の駅からめちゃくちゃ可愛い子が乗ってくるんだ。去年も何度か見た事あるから、2年か3年生だろう。それがこの4月からは毎朝同じ電車に乗ってくる。「男子校に通う俺にはこの上ない目の保養だな」くらいにしか思ってなかったけど。電車の30分は貴重な睡眠時間だけど、それを削ってでも見ていたいくらいとにかく可愛い。

 ほら、今日もだ。あの制服は東野高校だよな。東野高校は、俺の高校の駅より3つ先で降りるんだろう。俺が降りる駅の一つ前から、彼女の友達が2人乗ってくる。それまではすごく大人しそうに見えるのだが、友達とわいわい話していると、元気のいい近頃の子って印象だ。

 東野高校といえば、洋介と同じだ。浦田洋介。小・中と同じだった、俺の幼馴染みで、東野高校の野球部。あいつは毎日朝練だから、ずいぶん早い電車で行ってるはず。でも帰りは、部活終わる時間が同じくらいだから、たまに一緒に帰ってくるんだ。

 そうだ、あいつにあったら、あの可愛い子知ってるか聞いてみよう。


 て事で、早速その日の帰りに洋介に聞いてみた。

「あのさぁ、森島堂から東野に通ってる子知らん?最近あそこから東野の女の子乗ってくるんだけど」

「あぁ、あんな所から乗ってくるのは菅沼って子だな。菅沼綾。同じクラスの子だよ。それがどうかした?」

「同じクラスなん?えーなー。めっちゃ可愛くない?」

「まぁ普通に可愛いね。かなり人気あるし。でもうちの野球部の奴と付き合ってんだけどねー」

「…なーんだ。そりゃあんな子放っとくわけないよな。マネージャーなん?」

「いや、合唱って言ってたっけな。うちの合唱部強いから、練習大変みたいやわ。俺ら代える時もまだ電気ついてるから。で、その彼氏は練習終わるまで待ってるのさ。」

 こんな感じで洋介から色々聞いたわけだが。生まれたての恋心はあっさりと破れ去ったのであった…。話した事もなければ面識もないのに、勝手にショックを受けて、俺は何しとんねんって笑って片付けることにした。


 それからも彼女は毎朝同じ電車に乗ってきた。しばらくは、今まで程には彼女に魅力を感じなくなり、「あ、今日もいる」と確認するだけですぐに寝ていた。この時期、もうすぐ春の大会だから練習がキツくなって、眠気を誘いまくるのだ。あ、ちなみに俺は剣道部ね。幸か不幸か、部活の事とか色々と考える事があったので、彼女へのモヤモヤした気持ちはいつの間にか消え、次の週には、今までのように電車の中では寝ずに、彼女を見ている方が多くなった(怪しいか…)


 そんな感じになってからは特に何の変化もなく、部活中心の生活を過ごしていて、朝彼女を見る事も当たり前になっていったのであった。

 そんな当たり前の日々を重ね、日差しの強い夏を迎えつつある7月のある日、帰りに洋介と一緒になった。

「おっす。なぁ健太、来週の日曜暇?」

「まぁ日曜は部活無いけど。何かあんの?」

「うちの合唱部のコンクールなんだよ。一緒に行かね?」

「そーゆーのはお前の彼女と行けばいーやん」

「あいつその日大会なんよ」

「弓道だっけ?そっか…てか野球部って日曜部活だろ」

「ところがどっこい。一昨日夏の大会で負けて3年が引退してさ。夏休みまで日曜は無いんだよ。で、行くの?行かないの?」

「ん〜…ま、暇だからいーよ」

と、あまり気が進まない返事をしたのだが、内心は結構テンション上がってたんだけどね。「合唱って事は菅沼さんいるじゃん。歌ってる姿はどんな感じなんやろ」ってな具合で、すごく楽しみになってきたのであった。

 それから当日まではまた毎朝彼女に注意を注ぎ、別にデートするわけでもないのにドキドキワクワクを繰り返していた。俺って単純なんだなと思いながら、この気持ちをとても心地好いものと感じていた。


 コンクール当日。観客席にいる生徒はみんな制服だったから、俺1人だけ豊和の制服で少し目立ってしまっていたかもしれない。うちの高校は合唱部無いんよ。洋介に連れられて席に座ると洋介が指さし、

「ほら、あの前にいる3人の真ん中が菅沼の彼氏。3人とも野球部だよ」

なるほど。野球部らしく髪が短く、背も高そうだ。横顔だけ見えたが、爽やかな感じだ。あいつか。…お似合いだな…

 東野は最後から3番目の演奏だった。東野の生徒が舞台に出てきて、すぐに彼女を見つける事が出来た。

「やっぱ断トツで可愛いな、菅沼さん」

「あんま大きい声で言うと彼氏に聞こえて怒られるぞ」

「やべっ。彼氏恐いの?」

「いや、普通にいい奴だけど。彼女想いな奴だよ」

ぷしゅ〜。やっぱこーゆー話し聞くと凹むんだよな。まぁいいんだ。今日は歌ってる彼女を見に来ただけだから。

 東野の演奏が始まった。I wishの「明日への扉」だ。俺は川嶋あいの声が大好きだから、この曲を聞くと鳥肌が立つんです。合唱用にアレンジされた曲は、耳が喜ぶのが分かるくらい美しかった。しかし、そんな曲を聞きながらも、目と頭の中は彼女をしっかりと捉えていた事は言うまでもないだろう。

 心洗われる歌に酔って会場を後にしてからも、俺の目、耳、頭ん中はさっきの映像が離れなかった。久々に感動したや。そして…やっぱり彼女は可愛かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ