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草食系男子ですが~高校卒業と同時にTSして女子高生にジョブチェンジしました!  作者: Ciga-R
第四部 明日に続く道へ

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道の先にあるもの ~オンパレード~

  

「陽菜乃ちゃん! やっと来た! 遅刻だお!」


 ハイテンションの栞音ちゃんに呼ばれ、ペコペコしながら急ぎ皆のところに駆け寄る。


「ええっ? な、なんでオリジナルnanakoが一緒に来ているの!?」


 後ろから付き添って来ていた菜々子の姿を見つけたのか驚きの声を上げ目を見開く。


 ――オリジナルって......もしかするとムダにハイスペックの菜々子にはプロトタイプやら量産型があるのかも知れない。それはそれで自然災害級の一大事がこの身に起きる気がしないでもないけど。


 量産型菜々子......何故ゆえか、いーちゃんの姿がまぶたに浮かぶ。

 

 なんて埒もないことを考えている間に、栞音ちゃんは菜々子に向かってダッシュするとポッと頬を染め、何事か嬉しそうに話し掛けていた。


「おはよう......今日はヨロシクね」

 

 ここに集うそうそうたるメンバーの中にいても特別な輝きを放つ紫月先輩が挨拶してきた。


「ヒナ......その髪飾りとても素敵だ。それはよくフィットしているよ......どういった訳か今日のキミはいつも以上にメローな雰囲気を醸し出しているね」


 暖かな微笑みを浮かべた先輩に見詰められ、父が母に贈った思い出の品を褒めてもらい顔が見る間に赤くなってしまった。


「陽菜乃ちゃん......今日はなんだか......いつもよりずっとずっと綺麗」


「今日は僕も頑張るから陽菜乃ちゃんも一緒に、このクエストを楽しもうよ!」


 揃いの春物の袖長カーディガンに色違いのカットソーとショートブーツを合わせた都ちゃんと白露は、双子と見てすぐに解るそっくりな顔をそれは嬉しそうに輝かせている。


 白露......何かを吹っ切ったのか、くよくよした感じが前に比べて無くなっている。思い描いた形姿になって見た目は可愛らしい女の子なのに、前より男らしくなったように感じるのは気のせいだけなのかな。


 紫月先輩は、つと私の後ろに目を向け小さく頷く。その顔には全幅の信頼を寄せている者にだけ向けられる柔らかな笑みが浮かんでいるように思う。


 先輩がこんなにも気を許している誰かしらが傍に来ている、振り向こうとした矢先に声を掛けられた。


「陽菜乃、久しいな。達者そうでなにより。紫月が本懐を成し得た件では、お主に多大な迷惑を掛けたようで本当にすまなかった」


 後ろに誰が居たのか特徴のある古風な語り方で判断出来てしまったけど、実際に本人と対面するとびっくりしてしまった。


 まさか冴衣先輩が来ているなんて思いもしないよ。


 それにしても紫月先輩の本懐って言っていたよな......それは女性に成れた事をいっているのであれば、互いが納得いくまで話し合ったということか。


 眉ひとつ動かさず佇む至ってクールな冴衣先輩からはその事に関してどのように考えているのか、うかがい知ることは難しかった。


 それでも先ほど紫月先輩と交わされていた瞳には、この上もない優しさと身内だけに見せる信頼の念が宿っているように感じる。


「ほら......冴衣ちゃんが時代掛かった言い回しするから陽菜乃ちゃん固まっちゃったよ」


 軽い感じで話しかけてきたのは......前にボーリングを一緒にしたリョウだ。先輩は冴衣ちゃんって呼ぶなって顔を真っ赤にして怒っているけど、なんか照れた様子は双子なだけあって紫月先輩そっくりで見てるだけで心が和む。


 それにしても慣れ親しんだ感じが二人からする。もしかしたら付き合っていたりするのかな......。


 というかよくよく見れば隣にヒロキもいるじゃない! といっても彼は彼で都ちゃん、そして一緒にいる瓜二つの白露が気になるのか、心ここにあらずといった様子でそわそわしている。


「陽菜乃ちゃん、ご無沙汰だね。全然知らなかったんだけど姉さんが迷惑を掛けているみたいで、身内としては恥ずかしい限りで本当にゴメン」


 急にそんなことを言われてもリョウの姉さんって知り合いにいたんだっけ......考えてみたらスマホの登録もリョウとしかしていないし、彼の名字も聞いてなかった事に今更ながら気が付く。


「ああっ そうだねゴメン、名前しか教えてなかったんだっけ。俺の名前は藤澤(ふじさわ) 涼真(りょうま)、姉は美明って言えば解るかな」


 ......みあ? 知り合いに『みあ』なんて可愛らしい名前の......!? 藤澤っとなあああ!?


 うひょ それってフジヨシ先輩のことじゃないの! 両親からの愛情を独り占めしている弟がいるって嘆いていたけど、それがリョウだというのか......あんな偶然の出会いがなければ彼を知ることもなく、先輩の弟と接する機会も永遠になかったかも知れない。


 人と人を繋ぐ糸は見えないけど確かに存在している。


 ――それにしても姉弟というけど似てるところが少しも見当たらないよ。


「ああっ みあ姉は、ばあちゃんの血を色濃く受けついているから俺とは外見は全然違うだろ。あいつもばあちゃんが生きてた頃は、素直なそれこそ見た目と相まってフランス人形を思わせる可憐な少女だったんだけどな」


 可憐な少女?......それはフジヨシ先輩のことを言っているのだよね?


「まあ、あんな変わり者の姉だけど決して悪いヤツではないんだ。ばあちゃんが亡くなってオヤジたちと何かと衝突してしまっちゃいるけど、根は寂しがり屋のいつまで経っても夢見る乙女ってヤツなのさ」


 夢見る乙女?......そうだね......まだこちらの二つ名の方がフジヨシ先輩には合っているように思う。


「それが最近は前と違って俺とコミニュケーション取るようになったんだよな。きっと陽菜乃ちゃんと出会えて何かが変わったんだと思う。ラインやツイッターでは結構な勢いで陽菜乃ちゃんの事を話題にしてるよ」


 ぶほっ!? 思わずむせそうになる。


 知らぬ間にいったいあの人は何を呟いているの!?


「陽菜乃ちゃんって本当に分り易くて可愛いよな。冴衣ちゃんも、これぐら......いぶあああっ!」


 冴衣先輩は首筋を手刀で打たれ悶絶したリョウを脇に抱え、紫月先輩に手加減しなさ過ぎ、桐原流円月刀はやり過ぎ!と揶揄され、そんな事はない! この不届き者を成敗しただけだ!と言い返す。


 賑やかに言い合う二人は深い絆で結ばれた仲のよい姉妹にしか見えなかった。


 紫月先輩、冴衣先輩と元の鞘に収まったみたいで本当によかった。


「陽菜乃も最近ゲームにINしないからめっきりお久し振りッス! 元気してたッスか」


 感慨に耽ていたこともあり声を掛けられるまで気が付かなかったけど、どうやら陽一も来ていたようだ。いったいどれだけの人が今日ここに集まっているのだろう。


 それにしても珍しいな、陽一がこんなイベントに顔を出すなんて。


 てっ! な、なんで......!?


「やあ......陽菜乃ちゃん、久方振り」


 な、なんで孝がここに来てるんだ!?


 陽一の横に立つ孝が目に映るも実感が湧かずにぼんやりとしてしまった。


 視線が徐々に定まってくる。相変わらず包帯を巻いている姿は痛々しいけど前に会った時よりは完治に向かっているようでホッとする......だけど変わらずに松葉杖をついているのは見ているだけで胸が締め付けられそうになってしまう。


 頭が真っ白になり何を言ったらいいのか、言葉も出なく孝と瞬ぎもせずしばし見詰め合う。


「この人があの一世を風靡したツーショットの本人さんですか! そして陽菜乃ちゃんの彼氏さんであると......はううっ めっちゃイケメンさんですやん!」


 あちらこちらで忙しく誰かしらと交友を深めていた栞音ちゃんが、こちらに興味を示し駆け寄ってきてくれたことで黙り込んでしまった私は思わずホッと息をつく。


 彼氏さん......じゃないのだけど。今のを聞いて孝はなんて思ったのだろう。しかめ面で彼氏じゃないから、なんて断言されたら......立ち直れないかも知れない。


 つい気になって自然と上目遣いで様子を窺っていた。


「初めまして、陽菜乃ちゃんの友達? 俺は上原 孝、ここにいる陽一とは悪友の関係。ちょっとドジ踏んでこんな無様な姿だけど、陽菜乃ちゃん共々よしなに」


 あれ? 彼氏云々に関しては否定しなかった......肯定もなかったけど、それでも感じのよい顔見せのセリフに思わず安堵する。


 そうだ、今日はあの人は付き添いで来てないのだろうか......緊張が解けると途端に違うことが気になってきてしまった。


「孝......さん? 今日は更科さんは付き添ってないんですか」


 孝の名前を呼ぶときは、どうしてもドキドキしてしまう。それについ癖でいまだに呼び捨てにしそうになる。


「ああっ 舞さんなら先に『Diapason』に行って準備しているよ」


 予想もしていなかった返答に、えっ?となって孝を見詰めたまま言葉を呑み込んでしまった。なんで今日、更科さんが来ていて、しかも『Diapason』に既に行っている? それってどういった事なんだろう。


 それに舞さんって......名前で呼ぶほど親しくなったってことなの......。


 へこんでいる私に気付く事もなく、女子と喋る時は大抵は無愛想なのに、今日に限って陽一と栞音ちゃんと三人でそれは楽しそうに会話を進めている。


 ドーンと落ち込み、更科さんの事を聞くタイミングを逃してしまった。こんな時に限って心の支えのいおりんも、今日は来る予定の心々菜ちゃんの姿も見当たらないのはなんでだろう。


「それでは......役者も全員揃ったことだし、そろそろ『Diapason』へ出向くとしよう」


 紫月先輩の力強い呼び掛けに、目立ち過ぎていた集団は更に目を奪う華やかさで応える。


 これから始まるイベントに心躍らせる一同と朗らかに笑っている孝を横目に、暗雲垂れ込める心境になってしまった私は、予期せぬ何かが待ち受ける場所に向かってふらふらと歩を進めていた。



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