表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
草食系男子ですが~高校卒業と同時にTSして女子高生にジョブチェンジしました!  作者: Ciga-R
第三部 部活動に参加しよう!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

90/99

『 レ研 』正体は男の娘!? 『 code 07 』

 

 ベットに腰かけたままフジヨシ先輩はローズの香りを漂わせ、すうっと音もなく身を寄せてくる。


「電話でようキュンと話した感じからすると......カレなんだか昔と様子がかなり変わっている気がスル。妙にテンション高いし、祝福されたようにポジティブなんだヨネ。劇的に変わる出来事が何かしら身の上に起き、まったくの別人になったみタイ」


 相変わらず鋭いところを衝いてくる。陽一が明るく気力溢れる男になった理由。


「背も急に伸びたし、大学生になって待望の彼女もできたから人生前向きに考えられるようになったんじゃないですかね」


 今の俺......陽菜乃と融合していたのが解け、あるべき本来の陽一に戻っただけかも知れない。


 それが真相だったとしてもここで全てを明かす訳にはいかない。


 実際のところ彩帆ちゃんが彼女のポジションにいるのかとても気になる。けど、あんなに優しく気の利く娘に好かれている現状なら陽一が男らしくなったとしても何ら不思議じゃないはずだ。


「ようキュンに、か、彼女!? ウチ以外の女子とは用事がなければ会話することもなく、モジモジと朱里ラブしていた容姿は、ずば抜けて可愛い系男子だったあの残念王子に彼女!?」


 なんか、身も蓋もない言われようなのですが......しかし紛れもなく事実だったのと、ここで思いもせぬ朱里さんの名前が出てきた事により何も言えず顔を赤くして俯いてしまった。


「ソウ、その反応がまるでようキュンそのものと向き合っているかのようでウチを惑わすんダナ。普通は陽菜乃っちの立場なら陽にぃって残念王子とか呼ばれていたんですか、とか聞かナイ?」


 そうだ。今は陽菜乃なんだから陽一がどのように過ごしていたか、呼ばれていたかなんて詳しく知っているはずがないんだ。


「そ、それは......私にとっては、ああ見えて頼りになる優しい従兄のお兄さんなんです。それに孝......さんから昔の陽にぃの話は聞いていたし、最近は見違えるように男らしくなったんですよ」


 俺はベッドの上に放り出したままだったスマホをそそくさと取り、保存していた『Diapason』で写してもらったウルフカットにした時の陽一の画像を見せた。


「これがようキュン? なんじゃコリャ! 受けキャラから攻めキャラへと規格外にクラスチェンジ!? もしかするとこのあまりの変貌ぶりに、たかキュンはやり切れない思いを抱いたのカナ?」


 腐夢ムッ 何かとんでもない考えが閃いたのか、おもむろに顔を間近に寄せ俺の全身に上から下まで目を走らせる。


 だから近過ぎですってば!


「あいつはガチで同性しか愛することが出来ないハズ。ウチの期待を一心に背負った超新星ナノ。そんな真性な男が女子を好きにナル? アリエナーイ......となるともしかシテ!?」


 どうやら、この人の中では孝はガチでBL攻めキャラ認定しているようだ。


「陽菜乃っち......ユウの正体は男の娘? 言われてみればこんな可愛い子が女の子のわけないじゃナイ!」


 ずずぃと迫ってくるや、そのままやんわりと押し倒されてしまった。

 

「腐ム 上は有るような無いような微妙な手触り、肝心のこちらは......ナイ!? エッ 無いノ!? 隠してもいナイ?」


 だから......今は正真正銘の女ですよ! 上は無いようでもこう見えて実はしっかりあるんだからね!


 あるのだから......って! 貴女はさっきからどこを執拗にまさぐっているのですか!? いくら探しても無いものはないんだからね!


 押し合いへし合いしている俺の耳に微かに扉を叩く音が届いたような気がする。

 

 続いて扉がガッチャと音を立てて開かれた。


「二人ともお茶の用意が整っ......ふ、藤澤さん! そこでいったい貴女は陽菜乃に何をしているの!?」


 しぃちゃんが扉を開け部屋の中に入ってくる。そしてベットの上でもつれ合っている俺たちを見るなり言葉を飲み込み、続いて大きな声を張り上げた。


「貴女! 今すぐその身を陽菜乃から離しなさい! さっきからこの娘に何をするつもりでいるの!?」


 ふはっ 怒髪天を衝いているとは今のしぃちゃんの姿を見れば誰もが思うだろう。


 ここに来てフジヨシ先輩も憤怒の形相で迫るしぃちゃんに得も言えぬ恐れを感じたのか、すぐに俺から身を離す。しかしあくまでも陽気な口調を留めたまま


「いやあ、陽菜乃っちが実は男の娘じゃないかと確認してま......」


 バチーン


 部屋の中にひと際大きな音が響き渡った。俺はびくっと身を震わせてしまい、愕然とした面持ちで頬を押さえているフジヨシ先輩を目にする。


「貴女は言うにこと欠いて、私の大事な一人娘を男の子呼ばわりするの! この娘を踏み躙るような言動は何があろうとも許さない」


 しぃちゃん、たぶん思い違いしている。とはいえ男の子扱いには変わらないのだけど、こんなにも冷静さを失くしている......母を見たのは陽菜乃になってから初めてのことかも知れない。


 頬を押さえたまま茫然自失の先輩、しぃちゃんはその姿を目にとめて少し落ち着きを取り戻す。何を自分がしてしまったのか今更ながら気づく。


 叩いた手の平を目の前にかざしポツリと洩らす。


「私は......学校に通う生徒一人ひとりが自信と誇りを持ち、日々生活していく目標と心意気を身につけるべき教育者として自分なりに励んできたわ。人に何かを教えるには包容力を持ち相手を認め、受け入れる寛容な心が必要。それは人そのものを好きであること、その人の全てを信じることが出来なければ教育者として成り立ちはしないわ。人に恥じることのない教育者であらんと勉めていたの」


 いつしか顔を真っ直ぐフジヨシ先輩の前に向ける。


「教育者として自分の考えや主張を無理やり相手に押し付けるべきではない。そのことはよく解っていたわ。それでも私は教育者である前に娘を思うたった一人の母親として、貴女に手を上げてしまったようね」


 心を決めたのか力強く言葉を発した。


「貴女が叩かれた事を公にすれば目障りな人物である私を排除できる。小寺教諭を助けることができるわよ」


 しぃちゃんが言わんとしていることが朧にしか理解出来なかったけど、それを黙って聞いていたフジヨシ先輩はゆっくりと顔を上げる。


「叩かれたことなんて......今まで一度として無かった。親は私にお金を与えるだけで無関心。弟だけがあの人達の子供なの。理事長がどんなに陽菜乃ちゃんの事を大切に思っているかが痛いほど感じられた......今になって痛みはするけど、これが子を思う親の本気なんだって叩かれたことより、そのことに気が付いた自分にびっくりしちゃった」


 いつもの享楽的なイントネーションでなく、ぽつりぽつりと呟き少し赤くなってきた頬を力なく撫でる。


「誰かに本気で叱られるって、思ってた以上にボルテージが上がるネ。ウチも誤解を招くことをしたのは事実だし、ここで起きたことは三人の内緒......陽菜乃ちゃん失礼なことして本当にゴメンナサイ」


 フジヨシ先輩は俺に向き直り謝ると続いてしぃちゃんに深々と身を屈めて詫びを入れた。


「お願いだから顔を上げて......常に冷静であれと念頭においていた私なのに、こちらこそ取り乱してしまってごめんなさい。そしてそんな私を許してくれて本当にありがとう」


「どういたしましてですヨ。それに今日ここに来たのは理事長に是非とも知っておいて欲しい事実とウチの真意を打ち明けるためなのデス。誤解がないように言っておきますがウチは理事長のことを立ちはだかる壁とは考えてませんヨ。どちらかと言えば味方と思っていマス」


 しぃちゃんは意外な事を聞いたとばかりに少し怪訝な顔になる。


「そう。詳しい話しはリビングで聞くとしましょうか。紅茶を淹れるから座って待っていてね。陽菜乃、冷やしたタオルを藤澤さんに用意してあげて」


 しぃちゃんに言われるまま先輩をソファに案内してから氷水を作り、ハンドタオルを取ってくるとしばらく浸し固く絞ると先輩に差し出した。


 フジヨシ先輩はまだぼぉっとしたままそれを頬に乗せ


「あんなに怒られるなんて思ってもみなかッタ。そりゃ陽菜乃ちゃんみたいな可憐な美少女捕まえて男の娘だよネは、自分でもアリエナイ思い込みだったヨ。本当にゴメンネ......それとアレが母の強さなんダネ」


 わずかに憧れの響きを含んだ声で再び謝ってきた。


 ポットを持ってきたしぃちゃんが用意していたカップへと順々に紅茶を注いでいく。最後の一滴まで余すことなく入れ各自の前に配る。


「藤澤さん、貴女が主催する『貴腐人苦ラブ』とあの生徒の『乙女ロード開拓ラブ』、二つの自主サークルが対立している理由。それと小寺教諭が抱えることになった難題、これらの真相をそれでは教えていただけるかしら」


 しぃちゃんは皿で受けた紅茶のカップからそれは優美な仕草で一口ふくみ、フジヨシ先輩を静かに見据えた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ