『 レ研 』二人の攻防戦 『 code 06 』
食事中はBL部発足の話に敢えて触れることもなく、フジヨシ先輩が世界を旅していた時の本人曰く自叙伝、ノンフィクションの冒険譚を面白、可笑しく語ってくれた。
「――そんなこんなで、日本に帰ってキタら丸々二年も経っていたと......イヤハヤ月日の流れるのは本当に早いッス!」
話半分としても、今聞いた内容が本当ならいったいどれだけ波乱万丈な放浪をしていたのだろう。
いったいどんな反応をして応えたらいいのか判らず、同じように目を丸くしているしぃちゃんと目が合い、意図せず二人してお手上げのポーズをしてしまった。
「オ腐ッ どれもこれも絶品でしたヨ! しかし陽菜乃っち、毎日こんなに美味しい料理ばっかり食べてたら、肥え......ないネ。ユウには要らない心配カナ」
はぁと応えるものの、その後の会話が今ひとつ噛み合わない。
「これで一通り料理は終わったわ。片付け先にしてしまうから話は後で飲み物でも入れてから始めましょうか」
しぃちゃんの申し入れに肯くとフジヨシ先輩は御馳走様でしたと元気に声を上げて立ち上がった。
「リビングでテレビでも見ときます?」
俺の誘いに、うーんと考え「せっかくだから、陽菜乃っちの部屋を見せてヨ」とあまり嬉しくないことを言ってくる。
自室......この姿になってから、しぃちゃん以外は未だ誰も入ったことないんだよな。この前、紫月先輩達が来たときも部屋に寄らずに帰ったんだ。
これといって見られて困るようなものも無いし別にいいか。俺はフジヨシ先輩を自室に招待する事にした。
「ム腐腐 ここが乙女の部屋デスカ......なんというか家具は女の子、女の子しているケド......こう生活感ってのが希薄ッスナ」
鋭いところを衝いてくる。実際暮らし始めてまだ月日が経っていないし、しぃちゃんが整理整頓にそれは厳しいから整然としているのは確かなんだけど、意外と先輩は細かいところまでチェックしているんだなと感心してしまった。
って! なに許可もなしで勝手にタンスの引き出し全開にしてますの!
「腐ム 容姿から想像した通りの愛らしい下着を履いているノダ。幾ばくか少女趣味なのはアレか、アレなのカッ!?」
ちょ! 両指使ってびろーんと広げるのは我慢しますけど、ちゃんと元通りに収納して下さいよ。
一人ウンウン納得しては次々と部屋を見回し、そしてこの部屋には明らかに不釣合いなハイエンドユーザー必達ミドルタワー型のパソコンセットを目にすると喜び勇んでクンクンと鼻を近づける。
なんだろう、この人......匂いを嗅ぐことで何かが解るという謎スキルでも持っているのだろうか?
「腐ム このパソコンからは腐に関わる匂いは残念ながらしなかったヨ。それにしても陽菜乃っち、こんなマニア御用達のパソコンでいったいナニしてアール?」
うっ......やはりそこにツッコミを入れてきましたか。しかしこの人、嗅いでそんこと解るってどれだけアブノーマルなんだか。まあ都ちゃんだって廃ユーザーだし、女の子がMMOゲームしてたって問題ないだろう。
正直にオンラインRPGゲームにハマっていることを告げる。
「ホムッ! そんな高尚な趣味があったンダ。一気にオレオマって感じキター! でやっぱりムキムキマッチョなスキンヘッドのおっさんとか薔薇を銜えたダンディな聖騎士、もちろんおっさんキャラ限定で使ってるノ?」
普通はそんなキャラ使わないだろう。 だいたいオレオマってナニ?
ツッコミを入れる気力もなく、しかしながらそこは好きなゲームの事、如何にして入手困難なレア職を手に入れたかをそれはアツく語る。だがしかし最初から右から左にすり抜けているだけなのか、これぽっちも聞いていない!
人の話を全く聞いていなかったのか、興味は既に違うところに向いたみたいで、ベット脇のサイドテーブル上に置いているフォトスタンドを取ろうとしていた。
それはっ!? 先輩が手にする寸前で奪い取ることに成功し、背中側に隠す。危ないこんなの見られたらどんだけ茶化されるか解ったものじゃない。
「なんでそんなに慌てて隠すのカナ。しかもナンカ知ってるヤツが写っていた気がスル......アヤシす。さあ、恥ずかしがらずにお姉さんに有りのままを曝すのデース」
俺はブンブン首を振って拒否をするが鼻の穴を膨らませて、じりじり近づいて来る。
「イヤあああ」悲鳴を上げるものの前から圧し掛かられて二人してベットに倒れ込む。
「オラオラ! いい加減に観念するのジャ!」
なんか、押し倒されて服も乱れてしまっているし傍から見たら絶対勘違いされる状況なのですけど。こんな所しぃちゃんに目撃されたらまた眉間にシワが増えちゃうよ。
ダメだ。いつまでも若々しい自慢の母親でいてもらう為にも、これ以上は気苦労を掛ける訳にはいかない。俺は観念して写真立てを差し出し、乱れてしまった服や髪を整えるとベットに先輩と並んで座った。
「腐ホオ! こ、これはたかキュンと陽菜乃っちじゃないデスカ!? も、もしかして二人は付き合ってるデスカ」
いえ、まだ付き合ってないですよ......って、俺まだとか考えちゃってるけど、将来付き合うことになる未来なんてあるのかな。
「腐フ腐 怪しい、アヤしいナ。ウチのメモライズによればたかキュンはようキュンにそれは一途なハズ。どんなシナリオがあって二人は結ばれたのデスカ」
結ばれてねえ!それに孝が昔から俺に一途だった? そんな訳はない。そりゃいつも愛してるだ、かけがいのない存在だって言ってたけど、あれは冗談であって本心のはずがない。
続いて発せられたフジヨシ先輩の一言で真っ赤だった顔が素に戻るのが解ってしまう。
「やっぱり、陽菜乃っちって本当のところ正体はようキュンじゃないノ?......ウチの直感は今まで外れたことがないのヨネ。そもそもたかキュン、あいつは自分でも気が付いてないかも知れないけど、本気でようキュンの事を愛してイタヨ」
腐の伝道師の通り名を持つフジヨシ先輩の言葉には、もしかしたら真実を語っているのではと思わせる重みがあった。
「それに陽菜乃っちコンビニで会った後すぐにウチのことフジヨシ先輩って呼んだヨネ。その呼び方知ってるのも謎だけど、呼び掛ける時のニュアンスがようキュンそのものだったノダ」
ずいっと体を寄せて正面から顔を向けると上目遣いで見詰めてくる。
近い! 近すぎ! 目が泳ぎそうになるのを必死で抑え、なにか辻褄の通った言い訳を考えていると、俺のスマホから着信音が鳴るのが聞こえてきた。
ナイスタイミングと先輩に断りを入れ電話に出る。こんな偶然ってあるんだ......相手はタイムリーなことに陽一だった。やれば出来るヤツだとは昔から思っていましたよ。
要件は今日の晩、ゲームにイン出来るかといったお誘いだった。お泊り会で疲れていることもあり今日はちょっと無理と伝え
「実は今、とある人と話していてちょうど陽兄の噂してたんだ。ちょっと代わるね」
俺はスマホを先輩に差し出す。陽一とは昔の知り合いに万一会った時で連絡を取り合う必要がでた場合は『ようにい』と呼ぶことを決めていた。
陽一頼むから上手く話を合わせてくれよ。
「エッ!? ようキュン!? そうですアナタのフジヨシデス! アリャ? となるとウチの直感も錆び付いたものダ。そうそう今、陽菜乃ちゃんの家にお邪魔してるノ......」
腐ハハハッと生き生きと笑い陽気に喋るフジヨシ先輩は本当に楽しそうに見える。
「ウンウン 今度、会おうヨ。絶対ダヨ......ウン、陽菜乃ちゃんに代わるネ」
別れを惜しむようにスマホを渡され、陽一といくらか言葉を交わして通話を終えた。
先輩の方を見ると親指を口に当て、これまでにない真剣な顔をしている。
「陽菜乃っちは、ようキュンではなかっタ。となると次に考えられるとしたら......」
フジヨシ先輩は今一度こちらに向き直り、真顔になるとどんでもない事を言い出した。




