『 レ研 』女子会? 『 code 05 』
マンションの自室に戻ると晩御飯の用意をしぃちゃんに任せ、手早く私服に着替えると洗濯物を取り込むため乾燥ルームに向かう。
最近になって少しづつだけど掃除や買い物、覚え始めの為まだまだ未熟だけど料理の手伝いもするようになってきた。
陽一だった時は舞花母さんに家の事を一切任せてゲーム三昧だったんだよな。
その頃は母が家事をすることが当たり前だと信じきっていた。だけど、しぃちゃんと二人で暮らしているうちに女性ならではの意識の在りようといった物事すべてに対する感覚が昔とは明らかに違ってきていることに思い至る。
それは朝起きてすぐに鏡を見て髪の乱れに気をもんでしまったり、制服の着崩れが妙に気になって直すのに時間をいっぱい使ってしまう、そんなありふれた日常の一つひとつが男の時からは想像もしなかった習性として現れる。
自発的に家の事を手伝うようになったし、料理の材料や作り方にも興味が出てきた。洗濯物ひとつにしても干す時や畳む際にはコツがいる事も学んだ。
母娘、二人暮らしのため華やかな下着類......主にしぃちゃんが好んで着用している高級感漂う大人のショーツを手に取り、教えて貰った型崩れしにくい四角を作るように折っていく。ブラジャーもワイヤー有と無しでは収納の仕方も違うため折り方にもコツがいる。
綺麗に並んだ色とりどりの下着を眺めていると未だにドキドキしてしまう。さすがに毎日見ているとそんな事はないけど、新品の可愛らしい物を買ってきては嬉しそうに差し出されるとやはり赤面してしまう。
まあ、その反応が母性本能を堪らない程くすぐるらしく頻繁に新しいのを買ってくるのもどうかと言いたい。
折り畳んだ洗濯物を形が崩れないように予め乗せていたトレイを注意しながら持ち上げ、それぞれの部屋まで運ぶため乾燥ルームから出る。
今住んでいるマンションは最高級のグレードを謳うだけあって、天日干ししてもゴワゴワ固くならないよう全面のガラスで覆われた乾燥ルームなるものが全室に設置されている。
PM25や花粉を完全に防ぎ、雨天時は部屋全体で乾燥機の役目もしてくれる。なおかつガラスにはミラーフィルムが貼られているため、たとえ他の建屋から見下ろせる階に住んでいたとしても覗かれる心配をする必要がない、セレブな女性にも人気の物件だ。
マンション自体がしぃちゃんの持ち物だから俺にとっては住み良い快適な住処だけど、フジヨシ先輩ここに一人で暮らしているってことは実家はかなりのお金持ちなのかも知れない。
言われてみればあの行動力に言動、好きな事に関しては糸目をつけず湯水のようにお金使ってたしな。世界を旅してくると言って独力だけで出来るわけでもないし、相当な助力がバックにあるのだろう。
「陽菜乃、洗濯物の収納は終わった? そろそろ、こちらを手伝って欲しいのだけど」
しぃちゃんの呼ぶ声に考え事に埋没していた俺は返事をすると残っていた分を仕舞いダイニングに向かった。
「うわあ いい匂いだね。今日はどんな料理?」
キッチンエリアから、それは食欲を誘う匂いが漂ってくる。
「そうね。今日は前に作り置きしていたズワイガニのトマトクリームパスタにするわ。惣菜をあと何品か作るから陽菜乃はサラダを作ってね」
広々としたキッチンのお陰で二人が並んで支度をしてもお互いが邪魔にならないスペースがあるため、おのおの準備をしていく。
「キュウリとかトマトなどの野菜を切るのも上手になってきたわね。初めて包丁を扱ってる姿を見た時は本当に気が気じゃなかったわ」
穴があったら入りたいとは正にこの事です。最初に切った時はキュウリがそれは歪な形になってしまい、急遽サラダからもろきゅうに変更になったんだ。
「そうね。これならお菓子の作り方を教えても大丈夫かな。陽菜乃もそろそろ孝君に手作りをプレゼントしたいと思っているでしょう?」
急に孝の名前を出されてドキッとする。
「そ、そんな事ないよ......た、孝だって手作りなんて貰ったて重いだけだし」
昔からモテてたアイツはバレンタインの時も手作りの物を貰っては、『手作りとかないわ。迷惑なんだよな』と俺ふくむ取得率ゼロのクラスメートのうらみ骨髄を一身に受ける言動していたんだっけ。
女になって初めて判る。好きな人に何かを作って上げることってワクワクする気持ちと宙ぶらりんの不安がない交ぜになり胸を衝く。
それにいざ出来上がったとしても渡すのには、すごい勇気が必要だと思う。
「ふふっ 自分が大好きな娘から貰ったら、喜ばない男なんて絶対いないわよ。陽菜乃も勇気を持って作ってみなさい」
断言されて、今度......教えてねと小さく返事をしてしまった。
「さあ、出来たわ。あとは藤澤さんが来たらパスタを茹でて完成ね」
その言葉が聞こえたわけではないだろうけど、タイミングよく玄関のチャイムが鳴る。
ドアを開けに行った俺に陽気な挨拶をするとフジヨシ先輩はむんずと紙袋を差し出した。
「お土産なにも無いのもアレだから、ウチの秘蔵の逸品を持ってキタのダヨ。ヌ腐腐」
ありがとうございますと言って受け取るも、この紙袋......なんか明らかに男同士と分かるキャラがそれはイチャイチャしているイラストが全面に描かれているのですけど!
「あっ やっぱり気が付イタ? それ超限定のSPバックなンダ。頑張ってゲットしたんだけど、御近付きになった記念に奮発してア・ゲ・ル♪」
そんな大事な物もらっていいの? ではなく激しくお断りしたいのです!
――しかも、この軽さからして中に入っているのって洋菓子の詰合せとかじゃないよね?
チラりと中を覗いて、見てしまったことを激しく後悔する。
「腐腐ン! それはウチの最新作! 製本なり立てのホッカホカ、ウチ以外が初めて読む名誉を授けようゾ! 心して愛でるがヨイ! 愛でるがヨイ!」
それはドヤ顔で押し付けられたけど、すんません。全く興味がないのです。
俺が対応に困っていると一向にリビングに来ないことを訝しがったしぃちゃんが様子を見に来てくれた。お土産だそうですと言って紙袋を差し出すと、途端に眉間にシワが寄ってくる。
何かピシャリと言いそうになったが、玄関に掛けている鏡に映った自分の姿を見て自己を省みたのだろう、紙袋を受け取ると料理が冷めるから先に食べちゃいましょうと言い残しリビングに戻っていった。
フジヨシ先輩を見ると俺に向かってペロッと舌を出してお道化ている......この人、しぃちゃんが嫌がることが判っていて敢えて持ってきたのなら、その性根叩き直してやる!
――心に誓ったものの鏡に映ったプウッと膨れた自分の顔を見てしまい、先ほどのしぃちゃんと同じく心を落ち着かせなきゃと思う。
アツくなったらダメだ。ここは冷静に状況を判断するんだ。『レ則』第五の現象に惑わされず、常に本質を吟味するを実践する時だ。
もしかするとフジヨシ先輩に悪気は全くないのかもしれない。趣味趣向が違うからといってその事を否定するだけじゃダメだ。
リビングに案内しながらそんな事を考えていた。
「食欲を誘う良い匂いですね。本日はお招き頂きありがとうございます」
先輩はテーブルの前に来ると一礼して丁寧な挨拶をする。
おっ この人がまともな挨拶したの初めて聞いたかも知れない。
しぃちゃんは少し苦笑いになったけど、すぐに気持ちを切り替えたのか、こちらも「お越しいただき有り難うございます」と挨拶を返し席へ誘った。
「一人暮らしだとコンビニのお弁当通になっちゃうんデスヨ。今日はどこのコンビニにしようカナ。なんて寄る度にコラボのヤツを余分に買っちゃうんデスヨ。そんな訳で今日は久し振りの豪華なディナー! どれも美味しそうデス」
「時間が押してたから有り合わせで作ったの、今度はきちんとした料理でお持て成しするわね」
いやいや十分豪勢ですけど、次も是非ともお願いしますと気遣いをみせる。
「さあ、紆余曲折が予想される話は食後においといて、まずは料理を楽しみましょうか」
しぃちゃんのその言葉にフジヨシ先輩は元気よく返事をして三人での食事会が始まった。




