ハラハラドキドキバスタイム
「ふう......ふわぁ、やっぱりお風呂は癒される!」
一つ大きく息を吐き、浴槽に浅く身を沈めると外壁部に向き直り手を投げ出しもたれ掛かった。
都ちゃんが入浴剤を加えてくれたようで湯舟からは小さな泡が際限なく沸き上がり、浸かっているとポカポカした安らかな気持ちになってくる。
両親どちらかの趣味なのか一軒家の高級住宅でもそうそうないぐらいに広々としたお風呂場だ。
そんな都ちゃん家で湯に浸かり、ぼおっと見るとはなしに眺めていると清潔感あふれるシックな人工大理石の造りの構造が、それは見晴らしの良いことに気づく。
そうなのです! 隅々まで一望できてしまうのです!
「ふむむッ のっちは後ろを向いていても真っ白ですべすべした肌の持ち主なのが判るっすね! いやさ! 髪をアップにしてるから、とくに首筋から背中に掛けてのラインが、こう成熟する前の何ともいえぬ際どい妖しさを醸し出していて......はふん 堪らんっすわ!」
うはっ これはまた誰もが口をあんぐりさせるほどのマニアックな呟きが背後から聞こえてきたッスよ。
チャップ、チャップンとお湯を掻き分け、はね除けて後ろから這い寄ってくる気配を感じる。
ふ、振り向いちゃダメだ! ダメなんだ!
「はひゃ!?」
神経を尖らせて何かしらのアクションが襲ってくることに備えていたのに、無防備な背中をツツツッと撫で上げられ、解っていてもどうしようもなく声を上げてしまった。
「むふっ こちらを向く気はないんっすね......さすればこれなど如何っすか!」
次の瞬間、曰く言い難し弾力を秘めた劇的にふくよかなナニかが背中にムチッと押し付けられたものだから、そのあまりに甘美な質感に「ふひゃん!?」なんてあられもない声が続いて出てしまう。
びっくりして口を半開きにしたままのすぐ横、湯で濡れた頬と頬が引っつき合う程の近さに、いおりんの笑いを含んだ顔のアップが現れ
「これぞ正に真の正銘、裸と裸の付き合いっす!」
ぬふふっ それは愉悦な笑いを溢しながら、更にプレスを掛けてくる!
「いやさ! あ、当たってるし! ぐいぐいとナニか、これは!? トテツモナイものが押し付けられてキテマスよ......い、いおりんには羞恥心がないんッスか!?」
俺の必死の訴えなど、どこ吹く風といったいおりんだったが突如
「むひゃん!?」と叫び声を上げ、いっそう強く抱きついてきた。
「お、ふっん!?」いおりんの息が耳に吹き掛かり何度かめの声が出てしまう。
「キミたち、それは楽しそうだね......ボクも交ぜてくれるかな」
どうやら紫月先輩が背後からいおりんに何かを仕掛けたようだ。
――それにしても三人が悠々と入れる浴槽、都ちゃんの親御さんって本当にリビングにしてもそうだけど寛ぐための空間にお金を掛けてるよな......いつもの事とはいえ背中から伝わってくる蕩けるような感触から現実逃避気味に、つい別のことを考えてしまう。
「うひょおお!? くっち先輩いったいどこ触ってるんすかっ! しからば......自分も反撃するっす!」
「ぬほおおっ!? キ、キミはまた、てっ! ちょっ、ちょっと......そこは本当にダメなんだって......ダメにゃん!?」
後ろで俺をそっちのけて盛大にはしゃぎ回るものだから、水飛沫が滅多やたらに降り注ぐ。
しかも徐々にヒートアップしているのか、ばたばた動きまわっているし......これ絶対収集つかないよね?
このままでは埒が明かない、どうするよと途方にくれていると控えめに浴室の扉を開ける音が聞こえてきた。
「し、失礼します......」
その声が聞こえるとあれほど騒がしかった後の二人がぴたりと黙り込み、おもむろに歓声を上げる。
「ハクやっとキター! あまりに遅いからこのまま来ないじゃないかと心配したよ。それにしても......その何ともいえず恥じらいを秘めた立ち居振舞い......ボクのハートはガツンと鷲掴みにされたよ」
紫月先輩が気勢を上げるのも如何ともし難し、それほどまでに白露の艶めかしい立ち姿。酔いが完全に抜けたのか初めて会った時に見せていた慎ましやかな照れ笑いをほのかに浮かべ、大きめのタオルで胸元を隠してはいるが、そこから一歩が進めないのか扉の前で立ちすくんでしまっている。
「失礼します......」
自分の家だというのに遠慮がちにもう一度吐露すると緊張しながら浴槽に近づいてきた。
先ほどまでの騒がしい様子から打って変わって固唾を呑み、白露の一挙一動に注目する二人。もちろん俺もおずおずと距離を詰めてくる......タオルの下側から真っ白な素足を見え隠れさせガチガチに緊張している姿から目が離せずにいる。
「――な、なんていうか、そんなにじぃーと見られているとプレッシャーが......」
白露は緊張感を漂わせながらタオルを外さないまま湯船に入ろうとた。
「ハク......湯に浸かる時はタオル外さないとね」
先輩が意味ありげな微笑を湛え、しごくまっとうな事を注意する。
やっぱりそうだよね......致し方ないよねと呟きを重ねハラリとタオルを外す。
堪らず瞳を凝らしてしまう。
どこからかゴクリと大きな音が聞こえたと思ったが、どうやら自分の喉が鳴ってしまっていたようだ。
白露は急いで、それでも何度か丁寧にかけ湯をすると湯船に沈み込む。
そしてそのまま体育座りとなり、見える部分が最小になる鉄壁な防御姿勢をとって一同を見渡す。しかし、立ち上がったままの先輩といおりんの生まれた時と同じ姿に目が行き、自分を凝視する二人と目が合うとすぐさま顔を伏せてしまった。
俺はそんな白露に湯の中を座った状態でにじり寄り、同じく体育座りで並ぶ。
「――女の子になった初日で、自分でも納得がいくまで確認することすら出来ないのに、大勢で一緒にお風呂に入るなんて......まさに身の置き所がないよね」
顔を上げられずに、それでもチラッとこちらを盗み見てまた慌てて目を伏せ
「――陽菜乃ちゃんも、その......女になった時に自分の裸を初めて見た時は、やっぱり恥ずかしかったの?」
その問い掛けに俺たちの向かい側へと同じように膝を抱えて座り込んだ先輩といおりんも興味を持ったのか相槌を打つ。
白露は目のやり場に困ってかモジモジ身悶えている。
広い湯船とはいえ四人が座ると密着しそうになりながら、俺は鍋を始める前に説明した時は省いていた陽一から陽菜乃に変わった際の状況を詳しく語った。
「マッパでこの実世界に戻ってきたわけっすか......とはいえ、そんな状況だったら動揺して全裸だからとか気にするゆとりはなかったかもっすね......ということはその後、初めてお風呂に入った時に見た一糸纏わぬ姿はどうだったんすかっ!」
流石いおりさん! 攻める、ぐいぐい言葉でも攻めてきます!
とはいえ初めて女の子の裸をマジマジと正面から見た時の衝撃は、それが自分の変わり果てた姿と気持ちの中では判っていてもあまりにインパクトでかかったのは覚えているッス。
その時ふっと現実に思いが馳せる。
目の前に座るいおりんは、この中ではオリジナル......俺たちが偽物とかレプリカといったわけでは決してないのだけど、彼女は生まれた時から当たり前のように女の子として育ち、男としての感覚や思考とは無縁の存在。
つい膝と膝の間から垣間見える谷間に目がいってしまいそうになりながら、先ほど背中に受けた感触がありありと思い出され、こんなことを考えてしまう自分だから元は男だったという記憶を忘れる事が出来ないんだと受け入れてしまう。
そんなことを考えているとこの体になって初めてお風呂に入った時の映像が浮かび、しぃちゃんからダイナミックな肌触りの洗礼を受けたことを思い出される。
考えてみたらしぃちゃんって都ちゃん以上にボリュームあるのじゃないだろうか......あるよね。それにしてもすんごく柔らかかったよな......。
「ヒナ......またしても遠くへ飛んでいちゃってるよ」
紫月先輩の呼ぶ声にふと我に返える。
危なく逝ってしまうとこだった。
しかも長く湯に浸かっていたせいか、なんだかぽぉとしてる。そして鼻の奥の方がツーンとしてきた?
『こ、これはっ!? くる? くるの久し振りに来ちゃうの!?』
ポタッ 湯の中に紛れた雫は僅かな波紋となり、色を無くして無限に広がる。
そんなポエム的発想を思い浮かべていると正面に座るいおりんが目ざとく見つけ
「のっち!? 鼻からブラッド! じゃないっす、ぶうっす! って、垂れてきてるっす!」
ひときわ騒ぎ立てながらも肩を抱き、湯船から出してくれた。
「結構、長い間湯に浸かってたからのぼせたっすか? いったん出るっすよ」
――いや、それだけが理由じゃないのですけど、今も直でほら、ぴったり引っ付いているでしょ......ああッ とはいえ頭がぼおっとしてるのも事実かも。
いおりんは扉を勢いよく開け放ち、俺を抱えながら洗面室に出る。
「こっち! 大変っす! のっちがあああ!?」
都ちゃんを呼ぶも、声が途中で止まりそのまま固まってしまった。
鼻を押さえて血が垂れ落ちないよう上を向いた状態だった俺も、息を呑むいおりんに怪訝なものを感じ正面に目を向ける。
そこには......。
上に着けていたものを全て外し終わり、絶妙なポーズで今まさに純白の小さな布切れを片足を上げてくるりと脱ぎ去ろうとしている都ちゃんのあられもない姿が目の中に飛び込んできた。
完璧な曲線を描くたわわに実った双丘の先には、小さ過ぎず大き過ぎない限りなく理想的な桜色の蕾。下げた手の隙間から垣間見える淡い陰りが目を射ぬく。
「......えっち」
「ぶほっおおおおおお!!」
都ちゃんの憂いを帯びた呟きが耳に届くやいおりんが盛大に鼻血を噴出する。
それに負けず劣らずの勢いで俺の鼻から飛び散った赤く細かな粒子が周りの空間を朱に染めてゆく。
「こっち......い、一緒にお風呂に入りたかったっす......無念」
いおりんのぼやきに同意と頷き、俺の意識も都ちゃんの呟きを微かに聞きながら残念だがフェードアウトしていく。
「......えっち」




