激闘!柳生拳 紫月VS 渚
「二者揃い踏みにて優勝!」
紫月先輩は嬉しそうに俺と白露の手を握り締め、高々と差し上げクルリと華麗なターンを決める。
それに合わせて俺の着ているキャミソールが軽やかに舞い上がり、白露も付けているシッポを右に左に揺れなびかせる。
俺達の位置が入れ替わり動きが止まると同時に、シッポはウィイインと小さな音を立てるとくるくる丸まっていく。
それ、どんな仕掛けがあるんっすか!マジックに使えると思ったのか鼻息荒く問ういおりんに、白露ではなく先輩が少し長くなるけれどと前置きすると代わりに語り始めた。
どうやらリカ姉......俺と都ちゃん、白露が敬愛してやまないMattarikaオーナーが立案、楓歌先生が自作したとのことで元々は先輩がバイト先の三周年記念イベントで着る予定にしてたらしい。
先輩のバイト先......『Existentielle』は、Mattarikaオーナーが経営している執事喫茶なんだけど、ここのバイトの執事さんって実は全員が女性で、男装でおもてなしするのが一番の売りとなっている。
もちろんここを訪れるお客さんも同性ならではの親しみ易さと店内のブリリアントな雰囲気も合わせて楽しく過ごす。
綺羅を飾る男装をこよなく愛する女の人達も店でナンバー1の人気を誇る紫月先輩......見るものを感嘆させずにはいられない美貌と相反する柔らかな中性的な雰囲気を備え、考えていることを読み取ったかのように相応しい対応をそつなくこなす話術の持ち主が、よもや男装している女子ではなく生物学的性別では男だとは夢にも思っていないことだろう。
偽装疑惑で訴えられませんのと売れっ子になるにつれ、オーナーに不安になって相談したらしいが、『ノー! プロブレム! 紫月は変わり者だけど芯はそれは女らしく、寛容な心配りと全てを受け入れてくれる優しさを兼ね備えた素敵女子なんだから、そんな些細な事は気にするな!』と一蹴されたらしい。
本人にとって些細なことでは勿論ないのだけど、そう断言してもらって随分気持ちが楽になったよ、まあ底抜けに無頼な生き方しているあの人に変わり者呼ばわりされたのは、それは心外だったけどねと心の内を明かす。
うむっ ここはツッコムのは止めておこう。
てっ 睨まれてるし!?
――話を戻すと、そんな客受け抜群の先輩だから熱狂的なお得意さん達から普段の時の装いも是が非とも見てみたいとの強いニーズがあり、記念イベントで着用するステージ衣装の一つとして計画されたのが、白露が着用しているものだそうだ。
裾全周にあつらえている尻尾の側面部にリモコンが装着されていて、プログラムで色々な動きをするとのこと。
まあ、誰が見ても普段着ではないのは明確なんですけれど......。
「結局はリカ姉の趣味なんだろうけど......なんならナギサ着てみるかい......サイズも丁度フィットしてそうだし......実際のところ想いが叶い女性の身体になれたのは本望なのだけど、現在のボクには少々サイズが合わなくなってしまったみたいだし、ヒナもミヤも違った理由で着れないだろうから」
うっ......先輩が瞬間的に俺と都ちゃんのどこに目を向けたのか判ってしまい落ち込む。
そうですね! どうせ俺にはぶかぶかで都ちゃんは入りきらないですよ!
俺の考えが読めたのか微苦笑を浮かべ、いま一度いおりんに着てみると問う。
その投げ掛けに、ふむむッと思案し
「ただ着るだけでは面白くないっすよね。というか自分と先輩の勝負もまだですし、負けた方が着るといった取り決めでどうっすか? どのみち先輩はストレートで一糸まとわぬ姿になる事が約束されてますから、いくらも待たずして着れるっすよ」
ぬおおっ!? ここに来ていやに強気な発言じゃありませんか! 先輩は......うへっ それは嬉しそうに舌舐めずりしてますよ!
「言うね......言うね。でもボクそういった自信過剰な考え方、嫌いじゃないよ......フフッ キミが描く未来と今から実際に起こるギャップ......その結実を楽しもうじゃないか」
ひゃあああっ 想像を絶する艶っぽさで濡れているかのような唇にチロチロと舌を這わせ、白い歯を煌めかせる小悪魔ガール......いな、そないな可愛いものにあらず、闇夜を支配する不死族の女王ともいえる佇まい。髪型をアップにしたことにより優美なうなじが照明を受け白々と眩しく映える。
片やいおりんも三つ編みを解き、ダテ眼鏡を外し渚となり、炎吹き上げるお嬢さまといった備えで剥き出しの闘志を瞳に宿している。
ビジュアル的にも決して負けることなく爛々と先輩を見据える。
「ぼ、僕......いつの間に、こんな姿になってるの」
気が付けば二人の発する鬼気に当てられたのか、白露はアルコールが抜け正気に戻るも、現実を把握することが出来ずに茫然自失の態で呟く。
このタイミングで酔いが醒めるなんて......南無。
「陽菜乃ちゃん......あの二人、なんだか緊迫した感じだけど何かあったのかな」
アルコールが入ってからの記憶を無くしているのか、寒そうに両手を肩に置き、震えた声を出す。
いつもの様子に戻ったようでニャアニャア言わなくなったけど、白黒虎柄の猫を模したタンクトップにショーツのみといった露出度の高い姿に、俺は目のやり場に困ってしまう。
――それにしても白露の胸の谷間、すごく綺麗な形してるよな。
フワッ
つい、胸元をまじまじと横から覗き込んでいた俺に、ふわりとタオルケットが後ろから被せられた。
「陽菜乃ちゃん......これ使って」
もう春とはいえ窓を開けているからやっぱりまだ肌寒い。
下着だけの俺を心配したのか都ちゃんがタオルケットを持ってきてくれたようだ。
「あと......なんでもない」
うはっ ガン見してたのバレていたようだ。
気を付けないとです......それじゃ、お言葉に甘えありがたく使わせてもらおう。
じろじろ見ないように、チラリと横にいる白露に目を向けると同じように寒そうにしている。
「えっ......ひゃい!?」
俺は白露の後に回るとタオルケットを広げて包み込む。
寒そうだったから、と言い訳じみた言葉をゴニャゴニャ呟き、そのまま二人してフローリングの床に座り込む。
「あっ......陽菜乃ちゃん、ありがとう......なんだろう二人でいるからなのか、とても暖かいね」
うつ向きポツリと溢す白露から、今まで都ちゃんがいるとはいえ自分だけでかかえていた一抹の不安な気持ちが胸に伝わり、俺は思わず後ろからギュッと抱き締めていた。
「くすぐったいよ......それに陽菜乃ちゃん、薄着だから......そ、その、直にあ、当たってるよ!」
それは恥ずかしそうに捩る白露が堪らなく可愛いく、大して当たりはしないしと更にピタリと身を寄せる。
自然と顔が白露の髪に埋まり、その芳しい香りと触感に鼻息がフガフガ荒くなるのを止めることが出来なくなる。
「......いいな」
ボソリと洩らす都ちゃんに一緒に入る?と尋ねるとすぐに白露の横に座り込む。
何故か体育座りだけど、そこはツッコミを入れないでおこう。
一枚のタオルケットを広げると仲良く三人でまとう。
「......暖かい」
俺はもっと暖かくなるよと二人の真ん中に位置を変え、力強くもたれ掛かる......ほっかほかだよね、聞くと同時にコクンと頷く。その仕草を見るとやっぱり二人が双子だと再認識する。
三人でこそばいような一体感を満喫していると、コホンという咳払いが聞こえてきた。
顔を上げると紫月先輩と渚が、それはじぃとおおとした視線をこちらに向けている。
「やれやれ......これほどボクという存在がスルーされたのは、いつ以来だろうか」
「イチャイチャするのは、別にいいのですけど......いえ、私も一緒に......いや、いや! そんな事ではなく、私達の真剣勝負にもそろそろ注力して下さると嬉しいかなっと思います」
渚の時って、やっぱりお嬢様だよな。そんな事を考えながら俺たちは気持ちを切り替え二人に歓声を送る。
「それでは、気を取り直して......いざ、果たし合いを始めよう。やあ~ぎゅう~~」
対峙する二人......渚はマジックの天才とはいえ、紫月先輩は人の考えている事を瞬時に読み取るスタンドポイントという能力を持つ。それってアドバンテージは圧倒的に先輩にあるんじゃないだろうか。それが証拠に先輩は負ける要素なしといった顔付きしてるし......。
「~八箇必勝! ......ボ、ボクが......ま、負けてる!?」
先輩の顔が驚愕にゆがむ。
俺たちもその結果に思わず大きな声を上げてしまった。
「な、なんで......チョキ出すはずじゃ......ナギサはどんな、マジック使ったっていうの......マ、マジック!?」
先輩は自分が放った言葉の内容を瞬時に理解したのか、唖然と渚を見詰める。
「ふふっ さすがに先輩とはいえ......違いますね、ここは先輩だからこそと言うべきですか。読めば読むほどに私の施したミスリードに嵌まってしまう。どうします? このまま続けると本当に身ぐるみ剥がされるサイの目しかありませんよ」
「ぐぬぬ......負けないにゃ! 次はボクが勝つ番なんだ!」
勇ましく吠えるが、にゃ!とか言ってる時点で、いつもの冷静さを影も形も無くしている。
渚の宣告通り、先輩はその後一勝も出来ずに負けていく。
一枚また一枚剥がされ、ついには昼間買ったばかりの赤色と黒色のレースをダイナミックにあしらった揃いのブラ、ショーツ姿を曝す。
アップにしていた髪も片側からほどけてしまい、まさに満身創痍の有り様だ。
しばらくするとペタリと崩れ落ちてしまった。
「くすん......ボクもう、こんなのじゃ、お、お嫁に行けないよ!」
泣きじゃくる先輩......勝負の世界は非情とはいえドンマイッス!
そして目の保養、ありがとうございました!
それに本気で泣いていないのは判ってますよ。
俺たちは声を揃えて「「ごちっした!」」と心の底からの雄叫びを上げる。
「負けて得るものもある......ボクこそ自分のスキルを過信していたようだ......それを気づかせてくれたナギサには......感謝するよ」
先輩は、女の子になると涙が思ってた以上に簡単に出るね。
あっけらかんと言い放つと自分の姿に思いがいったのか、肩を抱き締め、さ、寒いと身を震わす。
「それじゃ......みんなで......お風呂......入る」
ポツリと溢された一言で、場は瞬時にフリーズする。
「みんな......ポカポカになる」
都ちゃんは一人、満面に堪らないほどの笑顔を浮かべ佇んでいた。




