激闘!柳生拳【斬鉄截釘】
紫月先輩といおりんは、ヘロヘロ状態になっていたが、しばらくすると覚醒し二人して食べ切れなかったのが殊のほか悔しかったのか、その後は目を白黒させながらも捨て身で完食させていた。
「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあ......れええっ!? ってこれ思ってたのと違うし!」
形が崩れてきた具材を読み間違えたのか、またも奇想天外なものを引き当て、この世のものとは思えない叫び声が響き渡る。
俺と都ちゃん、白露も食べることが不可能なハズレを引くことなく、気が付けば用意されていた食材を大むね平らげるに至る。先輩は最後の最後に都ちゃん特製、おからのみ爆ダンゴを見事に選り抜き、それは目を剥いていたけど......。
「ぜえ、はあはあ 寿命が三年は縮んだかも......特に最後のおから爆弾は偽ることなく生命を大いに削られた気分だよ」
鍋の後片付けするために席を立った都ちゃんが居なくなると、先輩は息も絶え絶えに小さく溢す。その横ではいおりんも力尽きたのか背もたれに寄り掛かったまま動きを止めていた。
「また、同じ天井......今日で何回目っすかね、こうやって見上げるの......自分こんなに弱キャラじゃなかったはずなんっすけど」
顔を上に向けたまま、か細い呟きを漏らす。
――二人ともお腹はいっぱいになったみたいだけど、HPはかなりの勢いで減少していそうだ。どうせこれから寝るまでにゲームやら女子的トークなどまだまだ盛り沢山なはず、元気が有り余ってる二人にはこれぐらいで丁度いいかも知れない。
「口直し......する」
都ちゃんと白露が鍋一式を片付けて、すっきりしたテーブル上にトレイに載せてきた果物やアイスを置いていく。
「このアイス、美味しいっすね。こっちが作ったっすか?」
瞬く間に復活してのけたいおりんは、別腹とばかりにフルーツを遠慮なく食べ尽くし、〆とアイスに口を付けると感じ入った声を上げる。
皆もその独特の得も言われぬ風味にダイナミックに首を縦に振り同意する。
「おから......アイス」
「ぶぼっ!?」
それまで美味しそうに味わっていた紫月先輩が堪らず噴き出す。
「し、失礼......ミヤは、つくづくおからが好きなんだね。美容にはいいって言ってたけど、今後はホドホドに頼むよ」
普段のバイタリティー溢れる姿からはとても想像するのが難しいほどの精根尽き果てた様子に、つい皆で声を出して笑ってしまった。
デザートも食べ終わり、寛いだ雰囲気になると紫月先輩は、さてっと呟き。
「それではアグリーメント......言い交わしを約するとしよう、ボクとナギサで罰ゲームをする......よもやこの二人が行う羽目になるとは思ってもみなかったけどね」
確かに......俺とか白露が当たってたとしても何ら不思議じゃなかった。まったく時の運とは非情なものです。そんな事を考えていたら先輩が俺に箱の中から一枚引くように指示をしてきた。
俺達はダイニングルームからリビングに戻り、いったんソファに座り直す。
「ボクとナギサは、たぶん自分の書いたの判ってしまうから......公平を期するためにもヒナが引いてくれるかな」
ある意味チート級の能力持ってるしな......この二人。俺はまずは先輩の分である一枚目を箱から取り出し読み上げた。
「えっと、『柳生拳を行う』......何ですのこれ?」
紫月先輩は、さも驚いたようにあちゃ、それ引くかっみたいな顔をしているけど、なんか仕草ひとつとってもわざとらしさが滲み出ているのですけど。
「それは代々、桐原家に伝わる由緒正しき秘儀なんだ......二人で対決するのだけども物理的、精神的に敗者にとてつもないダメージを与える......恐ろしき対戦もの」
眉をひそめ肩を落とすが、目はキラキラ輝いている気がして、俺は先輩がこのゲームにひとかたならぬ自信を持ってる事を確信する。
「ナギサはルールを知らないだろうから、運を天に任せてボクと勝負するのは荷が重いだろうね......練習がてら、まずヒナとハクで模擬戦してみてくれるかな」
急にふられて俺はビックリマークを浮かべるが、ハクはまだ酔いが残っているのかニコニコしながら了解にゃ!と陽気に返事をする。
俺は渋々ソファから立ち上がると先輩の指示のもと白露と二人、向かい合う。
「それでは、いくよ! 歌が終わったらジャンケンね♪」
先輩は威勢よく宣告するけど、秘儀とか確かに言ってたよね。なのにジャンケンって......いったい俺たち何しますの!
ボクに全てを託しなさいとばかり、先輩は手拍子を始めると音頭をとり歌いだす。
「やあ~ぎゅう~す~るうのなら~こうゆうぐらいにしにゃ~しゃんせ~活人刀! 斬鉄截釘! 八箇必勝! よよい~の・・・よい!」
――これってまんま野球拳......ですよね?
とは思ったけど、悲しいかな歌が終わると同時に俺と白露はつられて手を出しあう。俺がチョキで白露がグー......負けてるし!
「ああっ ヒナの負けだね......それじゃ、ひとまず一枚脱いでくれるかな」
へふっ!? 今、脱げとかいいました?言いましたよね、これってたしか練習って言ってたよね!
「たった一回きりだと、ナギサもルール把握できてないみたいだから......取り敢えず勝負付くまでやってみよう! そうそう正式には活人刀で上段に構え、斬鉄截釘で切り捨てて、八箇必勝でジャンケンだからね」
だからとか取り敢えずじゃねえよ!羞恥心さえも切り捨てろと仰っているのですか?
いおりんは呆然としている俺に、難し過ぎてよく判らんかったっすとか言ってくるけど、これ程シンプルなルールなくない?しかも何を脱ぐんやと、盛んにはやし立てているし!
都ちゃん貴女が最後の頼みの綱です!輩なこの人達に、是非とも剣突を食わせて上げて下さいませ。
「陽菜乃ちゃん......それ行けッ!」
それは、ほっこりする声援をありがとう。
突如、何処からともなくメラメラとヤル気が吹き上がってくる。
都ちゃんは俺に逝けと言っている。その気持ち汲もうじゃないですか、貴女の大切な家族で大事なチームメートではありますが、こうなったら俺の持てる力を全て出し尽くして戦っちゃいますよ。
改めて対戦相手の白露に目を向ける。その装いは一体型の猫耳パーカーとホットパンツ、タイツも靴下さえも履いていない白い素足が眩しい。
対して俺の今日のコーディネートは白のタートルカットソーの上に、黒のシフォン素材のキャミワンピをレイヤードして、ボーダーソックスを履いている。なおかつカットソーの中にもキャミをもう一枚はいてる重装備、パッと見た目は都合四つしか着用してなさそうな白露に比べてアドバンテージは我にあり!なおかつ俺には切り札もあるしね。
ふふっ この勝負もらっちゃいますよ。
「のっち......酔いが回ってきたせいかもだけど、いつになくアクティブでいけてるっすよ!」
「まあ、あんなに顔を真っ赤にしちゃってるんだから、理性を保ってはいないだろうね......いつの間にやら本人ノリノリだし」
何を仰る!ってよくよく考えてみたら普段からは想像出来ないほどハイテンションな気がするし、地に足が着いてる感じもしない。
でもね。今はそんな事は関係ないんッスよ、負けられない戦いがここにあるのです!けっして酔ってるわけじゃないんだからね。
俺はソックスをそそくさと脱ぎ捨てるとファイティングポーズを固め、白露を見据えた。




