潤いレディとふわふわガール(前)
「で! オレはどこに駐車したらいいんすかね」
目的地も近づき陽一が俺に問い掛ける。
物思いに沈んでいた俺はその言葉で我に返り、前に都ちゃんの服を選んだ後......今思えば不思議な結びつきで知り合った冴衣さんやリョウたちと一緒にボーリングをすることになった、駅前の総合アミューズメント施設に停めるよう持ちかけた。
ここなら『Diapason』まで歩いていけるし、先ほどの高井戸ベルパークで買い忘れてしまっていたものがあれば、後からショッピングも出来る。
「りょッス!」
陽一は軽快に返事をすると幾ぶん慣れてきたハンドル捌きで道を進み、ほどなくすると目的地へ無事に到着することが出来た。
しばしのドライブから開放され、軽く伸びをすると俺たちは連れだって施設の外に向かう。
――何というか、道行く老若男女問わず、俺たち一同を立ち止まったり、振り返りながらポカンとした表情で見ていく。
あっ、また一人......前から来た社会人と思わしきカップルの彼氏の方が、都ちゃんと白露を交互に頭から爪先まで視線を走らせ、都ちゃんに目を戻すと一点を凝視して固まり止まる。
「あぐはっ!?」
突如、その男性はうめき声をあげるやくたくた崩れ落ちる。
どうやら彼女の見事な肘打ちが、彼氏の鳩尾へとクリーンヒットしたようだ。
「ぐふっ!」
こちらは、紫月先輩に見とれていた身長差のある高校生カップルが、相方の頭突きを背中に受け仰け反っている。
「なにデレデレしてんのよ......このデカブツがっ! 駆逐してやんよ!」
「ああっ こっちこそ捕食するぞ! チビ助め!」
見るとポカポカ殴り掛かる彼女の頭をその伸長差を有効に生かし、むんずと押さえつけている。
彼女......可哀想に振り回す拳がひとつとしてかすってもいない。
先輩は裏表のないそれは楽しそうな表情で眺めていたが、ボソリと溢す。
「恋人て無邪気にじゃれあえて......羨ましいね」
あれを見て......じゃれてるって? どうみても修羅場じゃないでしょうかね......。
目的地に到るまでに様々ないざこざを偶発させながら、俺たちは『Diapason』がやっと見える所まで近付いた。
「アッ......イタッ」
紫月先輩は新しい装いに合わせて買ったミュールが靴擦れしてしまったのか、小さく声を上げてしゃがみ込んでしまう。
「大丈夫っスか!?」
陽一が慌てて先輩の腕をつかんで手を貸す。
「タハハッ......ボクとしたことが、これでもローヒール選んだつもりだったんだけど......ありがとう、ちょっとの間だけつかませてね」
先輩は陽一に支えてもらい腕に手を重ね歩きだした。
サロンのドアを開けて内に入ると俺たちの到着を待ちわびていた彩帆ちゃんが、ダッシュで駆け寄ってくる。
「陽菜乃ちゃん! ヤッホー♪ 待ってたよ」
その嬉しそうな表情がラッシュを彷彿させ、やっぱり彩帆ちゃんって犬系女子だよなと妙に納得してしまう。
「あっ......陽一さん、いらっ......えっ! 冴衣さ......ん?」
ご機嫌だった彩帆ちゃんの表情が陽一の腕につかまっている先輩を見るなり、やにわに曇った。
「彩帆ちゃん、こんにちはッス! 今日も一際かわいいッスよ!」
陽一は、微妙な空気などものともせずに爽やかに挨拶を返す。
先輩はそんな二人を交互に見て目を煌めかせている?
――またまた、よからぬこと考えてるんじゃないよね。
「陽一さん......なんで冴衣さんと、それは嬉しそうに腕を組んでるんですか......」
うへっ 彩帆ちゃんのモードが切り替わったのが判った。
バチバチと火花が飛び散る勢いで目を合わせる紫月&彩帆。そして先輩はこれ見よがしに陽一の腕に更に体をぴたりと寄せ付ける。
ゴゴゴゴオオッ
彩帆ちゃんの目から炎が吹き出たような幻影が見えた気がしたが、長くは続かず少しするとショボンと項垂れてしまった。
それを目にすると先輩もお茶目が過ぎたことを反省したのか、陽一から手を離し彩帆ちゃんの元に行くと、彼女の手をやんわりと握る。
「ゴメンね......ボクは桐原 紫月、冴衣じゃないんだ。ヨウくんとは無論のこと、今日知り合っただけだから心配しないでね......あのようなシチュエーションに遭遇すると、つい悪い癖でボクは茶々を入れたくなってしまうんだ」
「ボク......? 桐原......? もしかして冴衣先輩の双子の!?」
彩帆ちゃんは驚き無意識に手を口に持っていく。
「そう......お嬢さん初めましてだね......キミはヒナの師匠なんだってね」
先輩が俺の方に目を向けたので、陽一の手に掴まっていた経緯を説明する。
彩帆ちゃんはそれを聞いて安堵したのかハタっと手を打ち、パタパタ店の奥に行くと手に何かを持って急いで駆け戻ってきた。
「紫月さん、そこのソファに座って下さい。私も最近ダンス部入って新調したシューズの擦れが酷くって、ちょうど靴擦れ専用の絆創膏を買ったばかりなので......消毒するから少し染みますけど」
彩帆ちゃんは、先輩のミュールを脱がしテキパキと応急処置をしていく。
先輩は彩帆ちゃんの他意を感じさせない、先ほどまでよい感情を抱いてなかったはずの初対面の自分に対してさせ、思い遣りのある態度を感心したように目を細くして見ていた。
「さっきは本当にゴメンね......キミは真にインクレディブル......彼が羨ましいよ」
屈んで先輩の足の処置をしている彩帆ちゃんの首筋が、真っ赤に染まるのが見てとれ、モゴモゴと私たちそんな間柄じゃないですし、なんて言葉も漏れ聞こえてくる。
陽一は、どう思ってるのだろうと気になりそちらを向くと、我関せずといった様子でジョーさんが今まさに仕上げようとしている女性客のスタイリングを、真剣な面持ちで見ていた。
彩帆ちゃんほどの女性に好かれていて......流石、空気が永遠のヨメの陽一だ。
都ちゃんと白露も夏江さんやサユさんの舞うかのような指捌きに見とれている。
「はい! 応急処置は出来ましたけど、家に帰ってからしっかり洗浄して下さいね」
彩帆ちゃんは元気よく立ち上がると陽一の方に目を走らせたが、こちらを見ていないことが判ると、少し残念そうな表情をした。
しかしその横に立っている都ちゃんと白露に気がつき目を丸くする。
「ええっ! 都ちゃんが二人いるよ!?」
彩帆ちゃんが驚くのも仕方がない、都ちゃんの家庭事情を知っているのは『レ研』のメンバーだけのはず。
「私の......双子の姉」
都ちゃんが姉と呼んだ際に、白露はハッとなり頬が桜色へとみる間に染まる。
「へえっ そうなんだ! 都ちゃんに一卵性の双子のお姉さんがいたなんてまるで知らなかったな......二人ともそっくりでしかも綺麗でいいよね」
白露は、これ以上ないほどに照れながら彩帆ちゃんと自己紹介を交わす。
「紫月さんもだけど都ちゃんも双子の姉妹か......ひとりっ子の私には羨ましい限りだな......そういえば一卵性の双子って確か同性しか生まれないんだったよね」
えっ!? そうなの、俺は初耳のことに言葉を失う。
「――本来ならば一卵性の場合同性しか産まれないらしいわね。でも、至って稀に男女の一卵性双生児が産まれることがあるらしいわ......世界中でも珍しいケースらしいけど」
カットを終えた夏江さんが途中から聞こえていたのか、彩帆ちゃんの話しを補足する。
そんな事実があったんだ......待てよ。とすると先輩達って異性での双子というレアケース......当時は随分と話題にもなったのではないのだろうか。
俺が何を疑問に思っているのか見当がついたのだろう、先輩はその話しは後でといったジェスチャーを送ってきた。
「見目麗しいお嬢さん方、本日は当サロンにお越し頂き、ありがとうございます。期待以上の貴女だけのスタイルを創作できるように『Diapason』誇るスタッフが腕によりを掛けますので、今しばらくお待ちください」
夏江さんは、優雅に挨拶をすると先ほどまで担当していたお客さんを見送りに彩帆ちゃんと席を外した。




