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草食系男子ですが~高校卒業と同時にTSして女子高生にジョブチェンジしました!  作者: Ciga-R
第三部 部活動に参加しよう!

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紫月と白露のモードチェンジ

 

「ラッシュ house!」


 白露がとても優しい声音のなかにも鋭さを含ませ指示すると、クマにも似た巨大な姿からは想像できないぐらいの速さで、リビングの端に急ぎ駆け戻る。


 設置された大型犬用のゲージに入ると少しだけ寂しそうな鳴き声を上げて、こちらを盗み見ている。


「ラッシュ...good」


 都ちゃんがゲージに行き優しく頭や首根っこを撫でると、甘えた声を上げて嬉しそうにじゃれつく。


「どうぞ、こちらにお越し下さいな」


 白露はソファの陰からチラチラこちらを窺っている紫月先輩の所に行くと、手を差し伸べてその腕をやんわりと握る。


 手を取り合って並ぶ二人は、顔かたちの違いや持って生まれた人となりは違えど、根本に流れる本質的なもの、なりかたちが極めて似ているように思えた。


 その事は、手を握りあった刹那に何ものよりも互いが感じたのだろう。視線を交わすと瞬きすることを忘れ、しばし言葉を失い見つめ合う。


「アハハッ とてつもなく優々たる人がいたものだ......ボクは紫月、桐原 紫月と言います。 初めてお目に掛かります。そしてこれから宜しくね」


 こぼれるばかりの笑みを湛え、心の底からこの邂逅に心が満たされていることが見てとれた。

 

 それは白露にしても同じだったようで、しばし二人は紡ぐ言葉を必要としない仲睦まじい、つがいのように手を取り合ったまま時を止める。


「飲み物......入れてくる」


 都ちゃんの一言により、止まっていた時間が再び動き出す。


「あっ 僕も手伝うよ、失礼しました。 皆さんはソファに座って待っていて下さいな」


 都ちゃん以上に白い顔を上気させて、名残惜しそうに先輩の手をはなすとキッチンスペースに向かう。


 広々としたリビングの一画に据え置かれた品の良いソファは、三人がゆったりと並んで座れる広さがあり、先輩の正面に俺、その横に陽一が腰かける。


 リビングを見るともなしに眺めていると端に設置されたゲージの中から、こちらを注視しているラッシュと目が合う。


 手を振って応えるとバフウウッ! と元気な鳴き声が即座に返ってきた。


 前に座る先輩の肩がびくんっと震える。


「あははっ......犬ってなんて愛らしいんだろうね。うん、本当に癒される」


 これぽっちも思っていないであろうことを、白々しく強がって言うものだから、ついそれでは連れて来ましょうかと席を立とうとすると、慌てふためいて引き留められた。


「お待たせしました。温かいうちに召し上がって下さいな」


 トレイに載せ運ばれてきたホイップクリームを添えた、美味しそうなホットココアが、順番に俺たちの前に置かれていく。


 並べ終わると先輩の横にそこが指定席であるかのように白露が座り、都ちゃんは俺の隣に腰を落ち着ける。


 温かく芳醇なココアの香りと味を楽しみ、少しして落ち着くと俺は疑問に思っていたことをそのまま口にした。


「今日は、ご両親は不在なの?」


 その問いに対して、二親とも外国にある研究所に長期滞在しているため、滅多にここへは戻って来れないんですよと、本意ではない口調で言葉少なく返答する。


 正面に座る白露を改めて見直していると、双子だと判っていても驚くほどに都ちゃんとそっくりだ。


 違いを挙げると紫月先輩と同じぐらいのロングヘアーと、白の長Tシャツの胸元に緩急がまったく無く、ストレートでシンプルといったところだろうか。


 まあ、女の子はそのちょっとした差に一喜一憂するのだけれども、白露は特に女の子の格好をしているわけではなく、平らな胸板のせいか全体的に性別がはっきりしない、中性的な佇まいとなっていた。


 俺の視線を受けて真摯な眼差しを向けてくる。


「都から聞いていると思いますが、僕にとってこの身体は仮初めのものでしかない。女性になりたいのではなく、己の中では自分という存在は女性そのものであり、自己意識に基づいた性別として今を過ごしている。その思いを信じ実直に生きていく只それだけのことなんです」


 紫月先輩もその話しの内容には、随分と感じるものがあるのか、口を挟まず神妙な顔付きをして聞き入っている。


「子供の頃からトゲのようにチクチクと心を刺し苦しめる拭えない違和感、都や周りの女の子たちが華やかな洋服を着て、可愛らしいスカートを履いているのを、黙って指を食わえて見ているだけだった寂しさ。僕は男なんだから、もっとらしくならなきゃと思い悩んだ中学時代、そして都の兄なんだからしっかりしなければと悩んで......僕は自分を見失ってしまった」


 意気消沈してしまったのか、そこで言葉が途切れ項垂れる。


 横に座る紫月先輩は、そんな白露を思い遣りのこもった眼差しで見守っていた。


 とてもよく似た境遇の二人。


 語られる内容、またその生い立ちや一卵性の双子の妹がいる点が、紫月先輩と驚くほどに極似している。

 

「白露......ごめんなさい」


 都ちゃんは、なにも力になれない自分を責めるかのように小さく呟く。

 

 白露は、その言葉に俯いていた顔を即座に上げる。


「違う! 違うんだ、都は何も悪くない......全ては不甲斐ないまでの僕の罪、家からさえも出れなくなった兄をどうか許してくれ」


 飼い主たちの心が痛む嘆きにラッシュは、哀しくクウーンと鳴き声をあげる。


 先輩と白露、自分のことを女性と信じて止まないのに、ボクと自称する、もしかしたらそれは、二人に共通して双子の妹という生まれた時から、けっして解き放つことの出来ない運命の楔、兄としての意識、妹という存在を大事にしなければという思いが起因しているためだろうか。


 痛切なまでの身を切る想いと、片翼ともいうべき双子の妹を思い遣る絆の重み。


 俺は目を閉じて、しばし深く考える。


 想いを力に......巾着袋越しに伝わる暖かな波動を放つ水晶球(おまもり)


「何も起こらない、変わらないかも知れません。ただ現状を変化させることが出来るかも知れない試みがあります」


 唐突に語る俺に皆の怪訝な視線が集まるのが感じられた。


 静かに目を開けて一同を見渡し、都ちゃんにテーブルの上に置いている飲み終わったカップを片付けてもらい、大切なペンダントを取り出す。


 巾着の中から水晶球を出すと転がらないようテーブルの中央に袋を置き、その上に乗せる。


 ただならないまでの神秘性を秘めた、その存在に皆が一様に言葉を失う。

 

「ハハッ こいつはびっくりしたよ......これほどまでの霊力を宿した神具ともいえる依代は、未だかつて目にしたことがないよ」


 桐原流の仕え手として幾多の依代を目にし、その不思議ともいえる人の心を読み解くスキルを身に付けた先輩が、その存在に今までに聞いたことがないほどの驚嘆した声を上げる。


「なんとも美しい、そしてどこまでも優しいオーラが心を満たす」


「綺麗......想いが息づいている」


 常人ならざる感性を秘め持つ二人からも感嘆の声がもれる。


 陽一は何かを語ろうと口を開き掛けたが、俺と目が合うと黙って頷くだけに止めた。


「強い思いを現実に、想う気持ちは力と成る......都ちゃん、もし白露が真の女性になれたとしたら、貴女は気持ちに整理ができる?」


 俺の問いする意味を紐解くのに幾ばくかの時間を要したのか


「白露が望むこと......気持ちは同じ......大切な人が心から幸せになれるなら......私は切に願う」


 そこには胸に迫る慕情があるのみ。


 紫月先輩の真摯な瞳と意思を込め見交わす。


「キミは......思った以上にボクの類い稀なる包括者となった......今から何が起こるか判らないけれど、それがどのような結果になったとしても......陽菜乃と貴女の母君には感謝しても感謝仕切れないよ......本当にありがとう」


 頭を垂れ、深々とお辞儀する。


 頭を上げた先輩に俺はそれは違うと首を横に振った。


「違うのですよ、紫月先輩。決めるのは先輩と白露の強く想う意思、二人の純粋な気持ちが結果をつくり上げるのです」

 

 俺は先輩にお茶目にウインクを投げ


「先輩は成りたい自分に成るだけです。そして貴女の存在する理由を、これからこの世界に築き上げていくのです」



 巾着袋の上に置かれた水晶球を覆うように、先輩と白露の手が重ね合わさり二人は、静かに目を閉じると祈るように想いを心にそして球に込めていく。


 俺たちはソファから離れ、同じように二人の想いが叶うよう強く願う。


 短いような長いような感覚を忘れ去る時間が経過していく。


 どれぐらいそうしていたのか、突如として白く眩しい神々しい光がリビングを埋め尽くし、パァーンと何かが弾ける音がするとテーブル中央から、幾多もの光の粒が先輩と白露に降り掛かり、二人の内へと吸い込まれていった。


 途方もないほどに真っ白に染められた光の中で、俺は清流父さんがとても優しい微笑みを浮かべ、力強く頷くと光とともに徐々に薄れていく姿を確かに感じる。


 消えていきながらも大きく俺に向かい手を振る父さんに、こちらも精一杯手を振り返す。


「ありがとう! 父さん! 本当にありがとう!」


 知らず涙を流しながら俺は何度も手を振り続ける。


 俺を思う愛情がさざ波のように伝わり、最後にその姿が本当に消えてしまうまで、その感情の波は消えることがなかった。

 

 リビングから白く輝く光が消え、うららかな春の日差しとそよ風が、再び窓から優しく入ってくる。


 光に動揺するラッシュの吠え声に我に返り、ソファを見るとテーブルにうつ向きで倒れる二人の姿が目に入った。


「先輩!?」

「白露!?」


 俺と都ちゃんは同時に名前を叫ぶと、二人に急いで駆け寄った。


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