黒野家を訪問しよう!
駅に着き改札口から出た俺たちを見つけたのか、都ちゃんが今日の空模様のような陽だまりを感じさせる素敵な笑顔を浮かべ、小さく手を振ってくる。
それにしても都ちゃんは最初に会った頃から比べると、随分あか抜けてお洒落になったものだ。
なんて女の子初心者マークの俺が言うのもおこがましい話しだけど、こちらはこちらで七菜子と彩帆ちゃんに鍛えられてるお陰で女子としての知識が、格段と増えているのが日々実感できる。
都ちゃんが今日着ている装いにしても、ちょっと前までは種類による違いなんてさっぱり判らなかったけど、ワインレッド色のリブニットワンピースと丈高の黒いニーハイブーツを履いているこのが自然と分る。
そして可愛くアレンジされたショートヘアと小顔の相乗効果により、輝くような美少女を生み出していることも理解できるようになった。
まあ都ちゃんってこれだけでも、とてつもなくキュートなのに、あの真正面からさえもはっきりと見てとれる、存在をアピールしてやまないメロンを仕込んだかのようなふくよかな双丘......本当リアルで容姿Lvがカンストしてるよ。
「おはよう......今日は来てくれて......ありがとう」
ポツリと喋るのは出会った頃からあまり変わらないけど、自分から会話を始めるようになったのは大きな進歩だ。
俺たちが和気あいあいな挨拶を交わしている横から、ジャージ姿の男子が一言発する。
「ヒナノちゃんたち来たからオレ行くね」
都ちゃんにだけ視線がいってたため、今まで気が付かなかったが、隣に立っているのは......ボーリングを一緒にしたヒロキだった。
なんでここにヒロキが? もしかしていつの間にか付き合っていたの? 交互に二人へと興味津々の眼差しを向ける。
そんな二人は顔を赤く染めて照れ笑いしてる。
「付き合ってるとか、そんなんじゃないですよ 都ちゃんが駅にいるの偶然見つけて、皆さんが来るの待ってただけですから、オレにとっては、ここで出会えたのも凄く超ラッキーみたいな」
その興奮度からこの偶発的イベントがヒロキにとっては、計り知れない大きなものだったことが察せられた。
「都ちゃん一人で、こんな駅前に居たら、それこそ瞬く間に不埒な輩どもにナンパされちゃいますからね。ってオレが言うか!? まあ実際そういった奴らにどれほど殺意ありありの目線を投げ掛けられたことか」
うそぶくヒロキに、陽一はご苦労と上から目線で気の無い言葉を投げ掛ける。
「教官......本当にありがとう」
ぽっと頬を桜色に染めてモジモジする都ちゃん。
「焦げる、焦げ付くよ! オレのハートは焦げキュウウーン!!」
青春っていいよね。久し振りに陽一と時を同じくしてぼそりと溢した呟きがハモった。
突然、ふわりと藤の花の和的に豪華な香りが鼻をくすぐる。
「アハッ キミは彼女の立派なナイトなんだ......そういうのボクは好きだな」
紫月先輩は、キラキラ目を輝かせてヒロキを仰ぎみる。
「ひゃい!? サ、サエさんともあろう方が、何をおっしゃってるんですかい! って雰囲気違い過ぎなくない? あッ そう言えばラインしても一向に既読がつかないってリョウが嘆いてましたよ」
それを聞いて、いずらっ子が格好の玩具を見つけたかのように目を煌めかせる。
「ゴメンなさいね。私すっごく恥ずかしくて......リョウに嫌われたらと思うとなかなか返す勇気がないの返せないの......こんなんじゃ彼も愛想を尽かしちゃうよね」
しおらしくションボリする先輩、どこまで策士なんだろうか。
ヒロキは、しどろもどろになりながら、オレからリョウにはちゃんと説明しときますからと言い切った。
先輩は、そんな彼に近寄るとあふれんばかりの笑みを浮かべ、ヒロキの手に自分の手を重ね潤んだ瞳を向ける。
「ありがとう......リョウにはサエが愛しているからって伝えておいてね」
「あ、あ、あぃいい!!」
びっくりしながらも、ヒロキはこちらを気にしながら去って行く。
「あーあ 冴衣先輩にマジ切れされなきゃいいけど」
ヒロキに手を振っている都ちゃんにもその言葉が聞こえたのか。
「教官......後でラインしておく」
ナイスフォロー! 冴衣先輩の凛烈な眼差しを思い浮かべ、俺は都ちゃんが忘れずにラインしてくれることを切に願った。
「アハハー! それではそろそろお邪魔しに行きますか」
先輩は今の出来事がごくありふれた日常的なひと幕であるかのように、俺の腕をとり絡めて歩きだす。
少しして戸惑うように歩を止める。
「ミヤ......先に行ってくれなきゃボクたちじゃ場所解らないよ」
後ろから追って来ていた都ちゃんと陽一も、この一言には苦い笑いしか返せずにいた。
『この人、まず間違いなくB型ネコ科女子だよな』
俺の心の声が聞こえたのか
「ニャー ニャオ ニャニャン?」
猫のような鳴き声を出しながら、なんともファニーな仕草で、俺に甘えてきよった......先輩マジたまらんッス!
都ちゃんの家は、周りも広々とした庭に家屋が建ち並ぶ、閑静な住宅街の中ほどにあった。
「へぇー これまた大きな家ッスね......儲かってまんな」
陽一が寒い関西風何かを言っていたが、皆から素でスルーされる。
「どうぞ......上がって」
俺たちを先に通すと、都ちゃんはトテトテとそれでも精一杯の早さでブーツを脱ぎに掛かった。
俺はその様子をなんの気になしに見ていたのだけど、取り外しが難しそうなブーツは、太ももにピタリと張り付いてしまい、前屈みになる度に、ぽわんぽわんと魅力的に揺れる二つの物体と、膝上までしかないワンピの裾からチラつく、真っ白な生足がとても眩しい。
気が付けば俺を含めた三人は、息を潜めてその様子をガン見していた。
悪戦苦闘していた都ちゃんも流石に尋常ならざる複数の目ぢからを感じたのか、ふと顔を上げ
「もう......見ちゃダメ......なんだから」
ぷぅっと頬を膨らませ言い募り恥じらう。
その物腰とセリフ! 俺たちは揃って胸を突き上げてくる生暖かな気持ちを抑えることができずに涙する。
「もう......しらない」
俺たちは涙をぬぐうと案内されたリビングに入るなり、そこで思わず固まってしまう。
クマ? 家の中にクマ? なんでクマがいるのおおお!?
「バウ!」
クマは大きく吠えるとまっしぐらに紫月先輩へと襲いかかった。
「ひゃひゃひゃい」
意外やあの先輩が何も出来ずに棒立ちとなってフリーズしている。
「ひゃい......い、ぬ、犬は本気でダメなの......た、たしけてえええ」
うん? クマじゃなく犬だったのか、そういわれてみると愛嬌のある仕種で、楽しそうに先輩にじゃれついてる様子は確かに犬のようだ。
「ラッシュ......leave it」
都ちゃんの透きとおる声が室内にひびき渡ると、クマと見紛う犬は素早く先輩から離れる。
「sit......いい子」
お座りして都ちゃんに頭を撫でられて目を細め喜ぶ大きな犬。
ラッシュって名前なんだ。
俺が名前を呼びながら優しく頭を撫でてみると、とても幸せそうな顔つきをする。
その表情を見ているだけで心癒されるものがあり室内は一気に和やかなムードとなった。
「ミャ......ミャーオ! マーオ! シャアアア」
若干一名、リビングの端でいっぱいいっぱいの有りさまで威嚇の声をだしている人がいる。
しかしラッシュがバウ!と大きく吠えると、ひゃあああと憐れな悲鳴をあげ、慌ててソファの裏に隠れると、こちらをチラチラ窺う。
普段の先輩からは想像できないぐらいのおっかなびっくりする姿が可笑しく、全員で大爆笑してしまった。
ラッシュも皆の興奮が乗り移ったのか一際、吠える。
「あはは......い、犬は鬼門なの......ムリ!!」
「ラッシュ come!」
ひゃいいい と絶叫する先輩の横をラッシュは疾風の如く、すり抜けて一目散にリビングの扉向こうに居る人に走り寄る。
「ふふっ いい子だね」
ラッシュは今日一番の嬉しそうな鳴き声を上げ右に左にじゃれつく。
その頭を撫でながら、入ってきた人は俺と陽一を交互にみて、この上なく目尻を下げる。
「リアルでは初めまして、WinterそしてSyuri、心より歓迎するよ」
安らぎを与える優しく透き通る声で、俺たちがプレイしているゲーム内キャラクター名を呼ぶ。
「そしてありがとう この家で楽しげな笑い声が聞こえたのは、いったいいつぶりかな」
都ちゃんと瓜二つの顔に鈴の音を思わせる声は、その容姿に似つかわしく儚くどこまでも柔らかい。
「Chrono これはゲームの中でのキャラクター名 リアルは黒野 白露と申します。あなたのような人に巡り会えた縁に例えようもなく感謝します」
ソファの陰からそおっと覗き見ている紫月先輩に向かって、春のそよ風の優しさを感じる声で自己紹介をすると、温和な顔を嬉しげに綻ばした。




