やっぱりアイスはバニラしょ!
「なんかさー『レ研』って自分たちを心底待っていたって気がするんすよね」
夕方になり初の集いが解散となった後、俺といおりん、都ちゃんの三人は駅に向かって話しながらも自然と気持ちは高揚していた。
今日は朝から身体測定でまざまざと女体の神秘に触れ、様々な体験をしたこともあり、いおりんはいつもよりさらに饒舌になって一人楽しげに喋っている。
「くっち先輩、身体的には男の子だって判っていても、好きな人のこと語っていた時の仕草や様相は、本当に夢見る乙女みたいでとんでもなく可愛かったすよね」
いおりんは愉快そうにニヒヒとほくそ笑む。
そんな彼女をチラリと見ると喉元にくっきりと薄紅色の印が付いてしまっている。
俺の方は四月も中頃とはいえまだ肌寒い日もあったので、しぃちゃんが鞄の中に入れてくれていたネックウォーマーを着ることで、首筋に付いたキスマークのような跡を隠すことが出来ていた。
実際、のようなじゃなくそのものなんだけど。
「くっち先輩が真のレディに成るために! 自分らがバックアップ出来ることを皆で思案するっすよ」
いつでもいおりんは、考え方が明るく前向きだ。
俺と都ちゃんは、三人の真ん中にいるそんな活発的な彼女を眩しげに見つめる。
「そうっすね! それじゃ今から作戦会議するために場を移すでやんすよ、二人とも時間は大丈夫っすか?」
俺も都ちゃんも門限とか特に決められていなく時間的にも余裕があり、小腹も空いていたので、その意見にうんうんと賛同する。
丘を下り夕暮れに佇む人通りの多い駅前にたどり着き、さてどこに入ろうかと悩む二人、女の子ってこんなとき何を食べようか店を選ぶことに努力を怠らない。
なんでもいいよ、任せるからって返事ばっかりしてるのもなんだし、たまには意見も出してみよう。
「わたし今はアイスが食べたい気分かも♪」
久し振りに汎用スキル上目遣いの中から『ネオ可愛い子ブル』を発動、きらめきを瞳にしのばせ二人をじぃと見やる。
数ある上目遣いの中でもこれは、ほのかに漂うやる気とポジティブさを全面に押し出すことに成功した対女の子用スキル。
「くほーっす!! 相変わらずコロしにくるっすね おっさん心臓鷲掴みにされたっすよ」
「ぽっ 陽菜乃ちゃん......可愛い」
どうやら二人を無事デレさせることができたようだ。
「アイスといえば、教室でも最近話題になってるところがあるっす! そこに行ってみるっすかね」
「都ちゃんも、そこでいい?」
彼女は、こくりと頷きながら思いはすでに何味を食するか、アグレッシブに思案中なのだろう。
「噂の......プリン味......はぁはぁ」
話のタネになっているカフェ『Adishin』をスマホで場所検索して、今から食することになる未知なる誘惑に甘い想いを馳せ先を急いだ。
店内には放課後を満喫している主に女子高生のグループがチラホラと見え、奥にある空いてる四人掛けのテーブルに座ることにした。
「あれっ? 一ノ宮さん!?」
席についた俺に少し離れたところに座っていた三人連れの女の子の一人が、こちらに気が付き声を掛けてくる。
「三成さん、来てたんだ......やっほー♪」
他の二人は、どうやら違うクラスのようで初めてみる顔だったが、正面に座る俺をびっくり仰天したようにマジマジと見ていた。
「うひょお! なんというクオリティー。噂には聞いてたけど、実際に生で見るとドキッとするね」
「ははっ そりゃ......のんが夢中になるのも頷けるわ」
「ちょ! そんなこと言ったら聞かれちゃったじゃないの!」
「本当のことだから仕方ないんじゃないの......この際だからコクってきたら」
何を喋っているのか今一つ判らなかったが、オシャレ番長の二つ名を持つ三成さんの友達だけあり、宮女の制服をこじゃれに着崩しキャッハ アハハと盛り上がる二人、対してこちらの二人......いおりんと都ちゃんはどれを食べるか熱心にメニューを眺めていて話を聞いている素振りもない。
意を決した三成さんが友達二人に見送られこちらのテーブルに来て、空いている俺の隣の席に座る。
「へへっ ちょっとお邪魔しますね」
俺をぽぉーとした目で見つめて、少しすると顔を真っ赤にしてうつ向く。
「そのネックウォーマー、一ノ宮さんによく似合ってるね」
ポツリと言葉を溢す、それを聞いて店の中なのにまだ着けたままでいることに気が付いた。
俺はキスマーク痕が見つけられてしまうことを懸念したが、もしかしたらスルーしてくれるかもっと願いながら、ウォーマーを取り外す。
その際に乱れてしまった髪を整えている様子を、うっとりとした表情で見ていた三成さんが俺の首筋のアザに目を止める。
「あれっ? なんかアザになっちゃてるけど......朝はそんなのなかった......よね?」
考えてみたら今日は朝からよく三成さんと絡んでいたんだっけ、とはいえすぐに気付かれるとは目ざといよね。
「ニヒヒ ほらここ見るっす」
いおりんは、これでもかと自分のうなじをアピールする。
「えっ!? な、なんで二人して似たようなアザ付けてるのー!」
「クフフ そ......れ......は自分らの愛の証だからっすよ!」
いおりんは、言い切るとポッと頬を染める。
おいおいおい! なにニヤニヤ笑いながら、わざとらしく照れた振りしてるんだよ!
三成さんは呆然自失となり虚空を見上げている。
都ちゃん! 貴女だけが頼りだよ!
このことに関してお願いだから何かフォローを入れてくれ!
「キャラメルプリンアイスシュー......ホワイトチョコレートマカデミア......季節限定サクラ&ラズベリー......むむ悩む」
人の願いを叶える気がねえええええ!
「一ノ宮さん......庵さんのこと好きなの? ということは女の子同士でも問題ないって考えていいのかな」
三成さんはボソボソ呟くが、内容はとても肯定できたものではない。
「チッチッチ! ちょっとそこは違うっすね のっちは女の子のことは勿論大好きっすけど、愛しているのはウチだけっすよ」
いや間違っても貴女を友達として大好きではあるけど、けっして愛してはいないですよ、俺は声を大にしてその事を告げる。
ぐぐっと三成さんが俺の方に身を寄せてくる。
近い、近いよ! なんとも芳しい女の子の匂いが鼻をくすぐり、潤んだ瞳で見詰められて、ドキドキが止まらなくなる。
「じゃ私にも......チャンスはあるのかな」
チャンスは本当にチャンスなんだからね!
いや違う。女の子同士で仲良くなることはやぶさかではないのですけど、親密過ぎるのもそれはそれで困るのです。
「一ノ宮さん......私のこと愛してくれる?」
直球きたー! しかし泣きべそをかいてるような切羽詰まったウルウル目の面差しで注視され二の句が継げなくなる。
「のんも性急に結果を出しても、後で思い返しては身悶えすることにもなりかねないんっすから、先ずはお互いをよく知ることから始めるべきっすよ」
いおりんは真面目にそんな三成さんを諭す。
「のんは、のっちを憧れの存在としてみているっすけど、実際のところ、こやつけっこうな俗物だと思うんっすよ」
そうです。 俺はこう見えてこれでもかなりの腹黒なんですよ。
あはは と乾いた笑いを振りまくと三成さんも、くすッと何かをはね飛ばすかのように、柔らかく微笑む。
「なんかすっきりしたかな 一ノ宮さん急に変なこと言っちゃってゴメンね」
素直に謝る彼女がいじらしい。
「別に気にしてないし、クラスメートなんだから、こちらこそ仲良くしてね......私のこと陽菜乃って呼んでくれる?」
その言葉を受けて、パアッと花が咲きほこったかのような明るさを顔に滲ませる。
「それじゃ、私のことは栞音......みんなからは、のんと気軽に言われているから、陽菜乃......ちゃんもそう呼んでくれるかな」
「栞音ちゃん。良い名前だね、三成さんのイメージにぴったりだよ」
俺に名前で呼ばれキュンとなったのか、ほおっと一つ大きく息を吐き
「へへっ 今日はチョー佳い日だよ......陽菜乃ちゃん、ありがとうね。よかったら今度一緒にショッピングでも行こうよ」
えいやーと明るい掛け声をだすと席から立ち上がりながら、素早く俺の耳元に唇を寄せ囁く。
『果せるかな......想いはいつか形に成る......きっと築かれる日がくると信じている』
栞音ちゃんは、友達のところに戻って、キャッキャッ誇らしげに語り、俺たちに手を振ると店から出ていった。
「ある意味、のんは『レ研』に欲しい人材でやんすよ......にしてものっちはモテモテで、自分としてはライバル多く妬けるっす」
軽い言葉とは裏腹に、シリアスな流し目で俺を見るものだから、ドキリとしてしまう。
都ちゃんまで俺をうるっとした目で見詰め差し迫った声を出す。
「キャラメルプリンアイスシュー......ファイナルアンサー」
不退転の決意を込め言葉を紡いだ。




