『 レ研 』レ則決定!『 code 01 』
楓歌先生が新たに入れ直してくれたアールグレイの紅茶が醸し出す柑橘系の爽やかな香りと温かみのある湯気の効果もあり、すっかり室内は寛いだムードとなっていた。
「くっち先輩『レゾンデードル研究室』って結局はどんな活動していくつもりなんっすか」
テンション高くいくには、やっぱりこっちっすと最前、渚はいおりんに戻っていた。
紫月先輩はその言葉を受け、笑顔を取り繕うものの頬が僅かにぴくりとひきつる。
「アハハ......前にも言ったと思うけど、実際なんにも考えてないんだよね」
先輩はお手上げのジェスチャーをして
「まさか君たちのような逸材に出逢える......ボクを受け入れてくれるこれ程までの存在......思いが現実のものになる可能性が出てきたなんて今でも信じられない」
しみじみ感じ入る先輩に、まあそれはいいんですけど、それじゃ会則とかルールは本当にないんすかと確認するいおりんに、特にないよと観念したとばかりに肯定する。
「では、まず部活動を行う上での規則、不文律を決めるとしますか」
意気揚々話すいおりんに先輩は仰け反り気味に
「あはっ......ルールとかに縛られるのは苦手......というか無理!」
顔を真っ赤にして叫ぶ先輩が可愛らしくついつい皆で笑ってしまった。
確かに見た目もやんちゃな猫みたいな先輩には、がんじ絡めの規則とかは頭が痛いのだろう。
「先輩もあんまり難しく考えずに皆がこれからの活動を、気軽に楽しく続けていくための決めごとだと思って、一緒に考えるっすよ」
紫月先輩はやれやれと小さく手を挙げて、やっぱり君はしっかり者の委員長だよと小声で呟く。
「そう言えば先輩、執事喫茶でバイトしてますけど今日は大丈夫なんですか」
俺のその問い掛けに今日は休みもらってるから問題ないよ、普段は17時からだからそれまでに行けばいいし、遅れると連絡すれば梨花さんは何も言わないからと応えた。
まあボク目当てのお嬢様方はヤキモキするだろうけどね。
アハハと、はつらつとした顔で軽快に笑う。
そうだそれに『Existentielle』の一室を、ここの活動に使わしてもらえる約束もしてたんだ。
ゲームにもINしてないからMattarikaオーナーと、ここ最近会えてないんだよな。
俺は今晩ぐらい久し振りにINしてみようかなと考えていた。
「思いが現実のものになる、それをするにはさて何をしていくっすかね......皆で思い付くままどんな意見でも大歓迎のブレーンストーミングでもしてみますか」
楓歌先生は、いおりんを感心したように見る。
「庵さん良い提案をするわね、ちなみにBS技法を行う上で人の意見に批判は禁止。そして内容重視より量、自由奔放に言いたいことを語り、人が言ったことに便乗したり一部を変えたりするのはありよ」
その一言を受けて種々様ざまな意見が無造作に飛び交い、活発に持論が語られ、時に斬新な切り口上が飛び出すこともあった。
脱線しそうになるといおりんや楓歌先生が軌道修正して、本来の話題に戻していく。
先生はともかく、いおりんの場を支配する手腕に俺はひたすら感心してしまった。
どうみても高校三年間の記憶を持つ俺よりも、何倍もしっかりしているよね。
「それじゃ、出揃ったものをまとめていくっすよ」
いつの間にか、いおりんが場を仕切っていたが先輩はその事に関しては、まったくの無頓着で逆に助かるわといった態度で、にこやかに微笑んでいた。
いおりんは先生にレポート用紙を貰うとそこにスラスラ鮮やかな文字で書き連ねていく。
『レゾンデードル研究室 室規則』略称(レ則)
大原則:思いを現実のものにする。
第一則:「なくてはならない人」に成る。
第二則: そのための力をつける。
第三則:「強者」ではなく「本物」をめざす。
第四則: 人の器はみな平等、注ぐものを探しだす。
第五則: 現象に惑わされず、常に本質を吟味する。
第六則: 少数意見を大事にする。
第七則: 戦うことだけが強い生き方とは限らない。
第八則: 喜びも悲しみも共にするチームと成る。
チームとしての指標
壱: 大戦略レベル
『右か左かの方向性を定める』
弐: 効用レベル
『そのために達成すべき中間目標を決める』
参: 手段レベル
『最終的に活用するツールや戦術の優先順位』
不文律
全体の流れを感じながら『目の前にある事象』を見極めて、その存在する意味を受け入れる。
「まあ、ザッとこんな感じでやんす」
いおりんがしたためたレポート用紙を皆がよく見えるようテーブルの上に広げる。
しかし本当に達筆だよね。
「されとて君は本当に御前上等の手腕を発揮するね......その歳の割りに卓越したスキルをいったい何処で磨いたのか......興味が尽きないよ」
紫月先輩は実直にいおりんを褒め称える。
「うーん......実は彼女は古の吸血鬼で既に二百年は私たちより生きているのですよ! 齢二百十五才だったけ? 」
いおりんは俺のベタな冗談に何故か顔を伏せ
「フフフッ ただの小娘と思ってあまーく見ていたが、いやはやワラワの正体を看破するとは、はていつの間にバレたものか」
何者かと入れ替わってしまったかのように、うつ向き尋常じゃないオーラを発しながら時代かかった物言いをするものだから、まさかと思わなくはなかったけど、ついついごくりと唾を呑み込んでしまった。
「ま、ま、まさか......いおりん、いえ庵さん? じょ、冗談だよね」
この世の者とは思えぬほどの妖艶な仕草で顔を上げ、ニタリと口許を尖らしながらねめつけられ、俺の心臓がばくばく音を上げる。
「美味しそうな血の匂いじゃ......どれご馳走になるかの」
いおりんは、オドロオドロ言い切ると俺の首筋目掛けて襲いかかってきた。
「キャー!? キャアアアア」
突然のことに抵抗できず室内に俺の悲鳴が響き渡る。
かぷッ うなじに牙が突き立てられ、そこからエナジーらしきものが吸いとられていく。
意識が遠のき、人ではない何かに変じていくことに対する畏れから、一筋の涙が零れて、首に吸い付いているいるいおりんの頬を伝い流れる。
熱を持ち執拗に張りついていた唇が離れ、潤んだ瞳で俺を見上げるいおりん......ともすれば俺の大事な人。
「御主人様、なんなりとご命令を」
自然と頭が垂れかしずく。
「うむ 良きに計らえ」
俺はよく仕付けられた番犬が愛情いっぱいに飼い主を見上げるような気持ちが判った気がして、大人しく命令を待つ。
「えっと......いつまで続けるのかな」
先輩が唖然とした表情を浮かべて問い掛ける。
俺はもう吸血鬼と化しているんだから、自分の身を守ることを優先に行動するべき状況で何を呑気にしているのだろう。
御主人様、次はどうしましょう。投げ掛ける視線にじぃと俺を注視するものだから、はからずも顔がぽぉっと赤くなるのが自分でも判ってしまう。
「てぇえいーす!」
「えっ?! ひゃっ!? いたあああい」
いおりんが目にも止まらぬスピードで放ったデコピンが俺の額をビシッと音をたてて直撃する。
「御主人様......ひどいですぅ」
うるうるしながら見上げる俺を何ゆえか溜め息をもらし、やれやれと見据え
「ここまで天然とは......持ってかえって家宝にしたいぐらいっす!」
俺は言われた意味が判らずそれでも家の宝にしたいぐらい大事に思われていることにモジモジ恥じらい身を震わせる。
「真のナチュラル......この性格はある意味貴重な存在かも知れないね」
「陽菜乃ちゃん......ピュアすぎるところ好き」
「お母様もこれでは、気が掛かるでしょうね」
楓歌先生のそのひと言で一気に現状を理解してしまい、どよーんと落ち込む。
いくら人並み以上の能力を持っているとはいえ、いおりんが人外の者だなんてことが実際にあるわけないよね。
「あ! ごめんなさいね、けっして悪気はないのよ......純な育て方されたんだなて感心してるんだけだからね!」
なんかフォローになってないような気がするけど慌てて言い繕う先生にさらなる好感を覚えた。
「陽菜乃ちゃん......痣になってる」
「アハッ まさしくこれぞキスマークだね」
ええッ!? そないなものが付いてますのん?
先生が手鏡を渡してくれて確認すると首筋にくっきりと痕になっている。
「い......お......り......ん」
ゴゴゴゴゴオオーン 効果音を伴い睨みを利かせる。
「なははっ 真にすまないこってす!」
ちっとも反省した様子がなく澄ました顔をしてるものだから、思わず我を忘れいおりんのうなじに、お返しとばかりかぷッと吸い付いた。
いおりんの身体能力なら、たぶん俺を避けることも出来ただろうに、律儀にも抵抗らしきことを一切せずに、身をさらけ出す。
「あッ そんな強く吸われたら......んんッ」
いつになく弱々しげに言葉を洩らす、ピタリと密着した状態のため、いおりんの吐息が上から降りかかり、その息も絶えだえな囁きに飛んでいた理性が戻ってくる。
はうッ 考えてみたらなんということをしているのでしょうか。
いおりんとはいえ女の子の首に唇を......意識するとよけいにサラサラとしているのに、それでいてしっとりとした肌の感触が際立って感じられ、知らず舌を這わして舐めていた。
「ひゃ......んッ」
堪えきれずにいおりんが声をもらす。
パッカーン! バシッン! 音が室内に二度響く。
「いったい君たちはいつまでじゃれ合ったら気が済むのかな」
俺たちの頭を丸めたパンフか何かで叩き、手を腰に当てて言い募るが、次の瞬間破顔する。
「アハハー! 人生捨てたものでもないね 何にしてもこれから楽しくなりそうだ......みんな改めてよろしく!」
俺といおりんは抱き合ったまま、うんうん頷いた。




