決戦! 第3新レーン(中)
冴衣先輩はボールを持つと背筋をまっすぐに伸ばし、その足取りをしっかりと地に着けて、音もなくスススッと移動する。
俺たちは、その動作を息を潜めて見守る。
テンポよく二歩ほど進みながら、とても優美な仕草でボールをあわや後頭部に当たるほどの高さまでバックスイングし、鋭く振り抜く。
スッパカーーン!
13ポンドのボールは、陽一が投げたよりも速いスピードで一番ピンの側面を捕らえ、全てのピンを後方に吹き飛ばす。
冴衣先輩はセミプロの人とほぼ同じ投球フォームにてビシッとその長い脚を交差してポーズを......決めた。
そこまでは、よかったのだが先輩はその人がズボン姿で流麗に足をクロスしていたのを見ていたため自分の服装がウエストから腰にかけて、ぴたりとフィットした裾までストレートなタイトスカートを穿いていることを失念していたのだろう。
ビリッ 何かが破れる音が小さくだが響き、華麗なターンを見せ終え、みんなの方に振り返った先輩のフロントスリットが入ったタイトスカートは、あわやパンツが見えちゃうの!?
といった際どさで縦に裂けてしまっていた。
「「せ、先輩! や、破れちゃってます!」」
俺と彩帆ちゃんの悲鳴をものともせずに先輩はニンマリと口元に笑みを浮かべ
「ふふッ タイトスカートでは身振りが制限されてしまうからの キャロットパンツでも穿いてくればよかったのだが、致し方なし......これで動きに支障はなかろう」
高価そうなスカートを自らの意思で割けるよう投げた時に力を加えたのだろう、狙ってそうなるよう実施する技量も並外れているが、それ以上に先輩の勝負にかける執念、その実行力が半端ない。
愉しげに優美な動作でひとつクルリと回る。
裂けた左右のスカートがふわりと舞い上がり、白くすべやかな内太ももがチラりと見え隠れしたため男性陣は何も言わずにゴクリと唾をのみ込む。
「もう! 陽一さん、すんごく顔ニヤケさせて、デレデレしちゃって嫌だな」
彩帆ちゃんがぷぅっと頬を膨らませる。
陽一のことが気になり無意識の内に先輩に対してやっかみに似た思いを、抱えてしまったのだろうか。
「よっしゃあ! 2フレーム目にいくッスーよ!」
そんな彩帆ちゃんの想いなど感じるわけもなく、陽一はゲームを進めていく。
――もし陽一にモテ期が来てたとしても、そんなじゃすぐに愛想つかされちゃうよ?
パッカラーンン!
またしても陽一は見事にストライクを決める。
ハイタッチして喜ぶ面々、次のコウタも今回はスペアを取ることが出来て、場は盛り上がるものの彩帆ちゃんだけ表情がぎこちない。
出番となり何かを吹っ切るかのように1フレーム目より大きなモーションでボールを放り投げた彩帆ちゃんは、しかしバランスを崩してしまった。
なおかつ新調されたばかりのピカピカに磨きあげられたレーンは大いに滑りやすくなってしまっていたようだ。
「ひゃあああッ?!」
なんとも可愛らしい悲鳴を上げながら足をもつれさせて、後ろ向きに倒れそうになったが、どうにか踏みとどまる。
「きゃあああッ?!」
靴底が如何ともしがたく滑ったのか、再びかわいく高い声を発し後ろ向きに堅いレーンへと倒れ込んでいく。
ドッダーンンン
息をのみ瞬間的に目をつぶってしまった俺の耳はレーンに大きな音をたてて倒れ込む音を聞き取っていた。
恐るおそる目を開けると彩帆ちゃんの下敷きになりながらも彼女を抱き止めている陽一の姿がそこに見えた。
「すっげぇー! 陽さん、あの一瞬でイロハちゃん倒れ込むのを庇うなんて、神降臨? はたまた何かに憑かれているの?」
コウタが唖然と捲し立てる。
俺が目を瞑ってしまったのに対してレーンに一番近くに居たとしても陽一のその反応は、ずば抜けて速かったと思われた。
「あっ......えええッ!?」
倒れ込んだ際に彩帆ちゃんの向きが変わったのか陽一の胸に顔をうめる形で重なりあっている
。
「ひゃひゃひゃああッ」
彩帆ちゃんは、かあッとなり耳まで真っ赤にさせ意味不明な驚いた声を上げて、パニクったのか手足をバタバタさせる。
「ちょ! ストップ、そんなに暴れないッスよ!」
落ち着かせようと陽一が彩帆ちゃんを、ギュウッと抱き寄せる。
「あッ...」
陽一の胸に顔をうずめたまま大人しくなる彩帆ちゃん。
「お主ら! 何時までそんな所で抱き合っておるんだ! 恥というものを知らんのか!」
皆を代表して冴衣先輩が怒鳴りつける。
夢から覚めたかのような顔をして、もつれ合いながら立ち上がる。
二人とも顔が真っ赤なんですけど。
その後は、特にハプニングなどなく、さくさくゲームが進んで行き、6フレーム終わった時点で先輩がリョウを僅差で上回るスコアとなっていた。
「よし! 次サービスフレームといきましょか!」
リョウが勝敗にはあまり拘りがないのか陽気に提案する。
内容はラッキー7に、ちなんで7フレームで男たちがストライクを出した場合は、ペアの女の子から祝福のキスが贈られる。女の子はスペア以上で、これもペアから何か記念品が買って貰える! どないやっと得意顔で意気揚々とオファーする。
ちょ! なんて男連中にとっては調子のよい提案なの出れば棚ぼた、仮に女の子が出した場合でも、仲良くなるトリガーとなる。
リョウがナンパ馴れしてないと考えていたのは、大きな勘違いだったのだろうか。
俺はキョロキョロと仲間の様子を物問うよう流し見る。
なんたることか! 陽一は既にニヤニヤ勝ち誇ったように笑っている。
彩帆ちゃんは、こちらもきわめて嬉しそうにハニカンでいる。
勝負を通してリョウを見直したのか先輩ですら満更でもなさそうだ。
最後の砦! 都ちゃん、貴女は裏切らないよね?
「教官......ぽっ」
おいおい! そこで教官とか囁きながら頬を染めてうつ向いてどうするよ!
コウタ、ヒロキは言わずもがな目をこれでもかとキラキラさせている。
「それでは! 満場一致で『ラッキーセブン彼女の祝福のKissの行方は』をお送りします! 今回に限りペア毎に投げますよ」
いやいや満場一致してませんけど......そこ!拍手しないでよいよ。
「うりゃりゃりゃりゃー!」
気合いが入ってるのか、ないのかよく判らない雄叫びを上げ、陽一の手からボールが放たれていく。
パッカラーーン!!
見事ストライクを決めた陽一が勝どきを叫び、彩帆ちゃんが歓声を上げる。
うん、盛り上がっていいね......。
「よし! 私も決める!」
頑張るんよ彩帆ちゃん......。
ポッコ......ポテポテ......ポトーン
力なくヒットしたボールは、それでも偶然か、はたまた想いが通じたのかパタパタと連鎖を起こし全てのピンを倒すにいたった。
狂喜乱舞してハイタッチする二人......はい、はい盛り上がってますね。
「タンタララータリラ、タンタカタンータタタターン♪」
リョウは、調子外れの景品が当たった時のBGMを口ずさむ。
「それではー! お待ちかね、見事にストライクを出しました陽さんには、ペアのイロハちゃんから祝福のキッスが贈られます! みんな刮目せよ!」
うおおおおッと何故か隣でゲームしてる家族連れからも、どよめきが起こる。
よくみれば、このレーンが見える位置にいる数グループがゲームを止めて注目しているじゃないの!
潤んだ瞳で陽一を見上げる彩帆ちゃん。
二人の顔が徐々に近づき......彩帆ちゃんは、陽一の頬っぺたに優しくチュッと唇をつけた。




