桐原 冴衣との邂逅
駅前のモールに向かいながら賑やかに話している俺たち四人組は、道行く人々の注目を集めていたみたいだ。
「がっつり......見られてる」
都ちゃんが少し怯えたように呟く。
サユさんがアピールしてたようにお洒落なショートヘアーとなった都ちゃんは、それでなくとも爆弾を仕込んでいる? かのような立派な持ち主のため、大半の人が目で追っているのがなんとなく判ってしまう。
また一人、称賛の口笛を吹いて通り過ぎて行く。
俺と彩帆ちゃん、都ちゃんの三人は一部をのぞくと、とてもよく似た背格好。
まあ、その一部の差に男なら夢とロマンを、女なら羨望と野望が詰まっているのですけれど、とはいえ俺たちも少なからず髪型と顔の作りで注目をされていた。
「似合う......服無い」
今度も都ちゃんはぽつりと呟く。
そう......普通に飾られている流行りの洋服などは、一般的な体型の俺や彩帆ちゃんなら選り好み自由だけど、都ちゃんぐらいのスタイルになると、なかなか着れるサイズがないため選択肢も少なく大変なんだろう。
ショッピングモールに着いた俺たちは、まずは服を買うため陽一と別行動することにした。
そして来週からクラスでメダカを飼育することになっているため、割り当てられた備品を購入するついでに、後ほどペット屋で待ち合わせを行うこととなり、いったん別れる。
俺たちは、一先ず都ちゃんが着れるサイズの服を探しにヤングレディースカジュアルがあるエリアに向う。
なん店舗か見て回る中で似合いそうな服は見つかるのだが、なかなかサイズが合わない。
「......」
都ちゃんは諦めたのか悲しそうな表情を浮かべている。
「大丈夫! きっと見つかるから元気だそう!」
彩帆ちゃんは、それでも明るく励ます。
「次の店では最初に合うサイズがないか、まず店員さんに聞いて、あったらその中から選ぼうよ」
彩帆ちゃんのひた向きな態度に心が揺さぶられたのか、うんッと小さく頭を下げ、ありがとうと溢す。
そんな都ちゃんに極上の笑顔を返すと彩帆ちゃんは、何かを見つけたのか目を輝かせ
「ああっ! 見て、あそこのお店、大きめサイズ在庫してますってポップされてるよ!」
そこには、とても人目を惹くタペストリが色鮮やかなイラストを添えて描かれており、見ているだけで期待に胸が高まってくる。
その店は今までのところと違い大きめサイズを重点的に扱っているようで、中に入った俺たち......都ちゃんを見た店長と思わしき女の人は
「なんて! キューティフルな娘! それにしてもお洒落なヘアースタイルね!」
これでもかと都ちゃんを絶賛する。
「貴女に似合う服たくさんあると思うから、好きなの試着していってね」
ワンピやネックドレス、各種ブラウスなどが、ところ狭しと並んでいる。
都ちゃんに似合いそうな服もこれなら見つかりそうだ。
「これ......可愛い」
指差した先に飾られていたのは、ウインドブレーカーの付いたトレンチコート風ワンピース、指を丸めたぐらいの大きなボタンが可愛くアクセントを添えている。
「それは、うちの春物新作で、袖から手の平まで出した長袖のインナーと同色のロングブーツが映える人気の一品なの、セットで置いているから試着してみる?」
都ちゃんは、コクりと頷き、俺たちの意見も加味しながら迷ったすえにベージュ色のアウターと黒のインナー、ブーツを選び試着室に入った。
待つこと十分ほどして、それはフェミニンでとてつもなくキュートに変身した都ちゃんが試着室から出てきたものだから、俺たち三人は思わず言葉をなくし、目からウロコが出るほど驚いてしまった。
何も言わない俺たちに、頬を染めた都ちゃんが不安そうな顔をする。
「似合わない......よね」
ぶんぶん顔を横に振って似合わないということを否定する。
サユさんがスタイリングしたショートヘアーが試着している服にむやみやたらと似合い過ぎていて、この髪型に合わせるために作られたのかと眩惑されてしまいそうになる。
「Excellent! これほどこの服似合う娘がいるとはー! デザイナーも草葉の陰で涙して見守っていると思う! 健在しているけど......というか、まだまだ長生きするタイプなんだけど!」
興奮を隠さずに微妙なジョークを発した店長に都ちゃんは、ほうっと安堵の息をこぼす。
「よかったら写真撮らせて貰えます? デザイナーの子にも見せてあげたいし、ここに飾って......売り上げ ぐふふッ♪」
しっかり者の彩帆ちゃんは、臨時の都マネージャーと化して店長と支払いをどうするか、真剣に話し合っている。
精一杯、勉強しまっせ! 店長の叫び声を聞きながら、二人に後を任せていったん店舗の外に出た俺は、五軒ほど離れた店から出て来ている見覚えのある人を見つけた。
落ち着いたふんわりとしたフリルが首筋を飾るシックな純白のファルバーラブラウスにタイトなスカートを身に付け、漆黒の腰まである長い髪は、ここからでもその美しさが伺える。
背筋をピンと伸ばしたモデル顔負けの佇まい。
「紫月先輩!? こんにちはです!」
私服姿だけど確かに先輩のはずだ。
俺は駆け寄りながら、なぜか胸騒ぎを抑えることが出来ずにいる。
その人は冷涼な眼差しを俺に投げ掛けるものの、一言も発しない。
「紫月先輩......じゃないです......よね」
よくよく見れば、外観は生き写しのようだけれども醸し出す雰囲気は、紫月先輩を春の微風に例えると今、目の前にいる人は厳冬の凄みと高雅な風格をたたえていた。
「紫月、その方......ヤツの知り合いか」
吟味するよう俺の全身に目を走らせる。
そうだ、紫月先輩とは双子で剣道部紹介で出てきた方の人だ。
「すいませんでした。 桐原 冴衣先輩ですね、勘違い申し訳ありません。お初にお目にかかります。宮ノ坂一年生の一ノ宮 陽菜乃と申します」
俺は、紹介時の先輩の凛とした物言いを思い出し丁寧に詫びる。
少なからず見直した表情を浮かべ
「結構、一通りの礼節はあるようだな 初めてお目にかかる」
続けて名乗り
「紫月の知り合い? あいつにこんな可愛い後輩が出来るなんて......」
俺は『レ研』に友達二人と一緒に入部したことを告げる。
「そいつはまた......物好きな」
呆れたように目を細める。
双子だけど、けっして仲はよくないのだろうか、考えてみれば紫月先輩、一人暮らししているとか言っていたし
「あの......紫月先輩は冴衣先輩の双子のお姉さんなんですよね?」
俺のその問いに、心底苦々しげな表情を浮かべる。
「姉......あいつが私の姉? 誤りは早めに正すべきか......」
続けて何か言おうとしたタイミングで後ろから俺たちに声が掛けられ、話しが途切れてしまった。
「ハーイ! お嬢さんたち二人でショッピングもいいけど、よければ僕達と一緒に遊ばない?」
なんともこれぞ定番の掛け声、振り向いた俺たちにナンパ目的で声をかけたであろう三人組が、唖然とした表情を浮かべる。
「うへっ......なんという超ハイスペック! ちょ! オレ無理!」
「激烈にレベルやばす! 誰、声掛けようと言ったの......お前か!」
「ええいー 当たって碎けろ! 俺たちには何ごとも経験が必要なんだよおー!」
丸聞こえなんですが......しかしここでナンパされるなんて、でもタイミング的に彩帆ちゃん、都ちゃんと三人の時でなくってよかったかも知れない、絶対俺たち三人だけだったら強く断れないと思う、急に不安になり思わず先輩を見上げてしまった。
冴衣先輩は、俺の視線に任せろとばかりに頷き、しかし三人には非情ともいえる醒めた無表情な顔を向ける。
それだけであまりナンパ馴れしてなさそうな三人は、たじたじとなっていた。




