三者三様に装ってみよう!
「髪自体には、なるべくハサミ入れないから、陽菜乃ちゃんはセミロングぐらいが丁度よかったんだよね」
俺は鏡に映る夏江さんに目線でそれで問題ないと合図を送る。
先ほどそれではラ クープを始めよかと、おもむろに見るからに切れそうな鋏を取り出されたものだから、思わず零ザキされるのかとヒヤリとしちゃったじゃないですか......まあ夏江さんがどこかの一賊の長男と同じ属性なわけないのですけれどね。
「陽菜乃ちゃんの髪って、前にカットした時から思っていたんだけど、まるで小さな子供の初々しさが残ってるって感じ......あっこれは悪い意味じゃないから気にしないでね。すごく綺麗で艶々しているって意味だから」
今は亡くなってしまった大好きだった陰陽師の清流父さんが、俺のために創案した乾坤一擲の大呪式、これにより九死に一生を得たかわりに陽一と一体化したかつての陽菜乃。
当時、まだ幼かった名残か日に当たることがなかったことの影響なのか、肌や髪を今みたいに称賛されることが多々あった。
陽一から分裂したことにより、今の俺が存在しているわけだが、女の子としての状態が当たり前となり、そのことを深く考えることがなかった。
――現在が安定した状態なら何も問題ないのだけれど。
このことは、一度腰を据えてきっちりと考えないといけない。
正体があるていど感付かれ、存在に対して興味が尽きないでいる紫月先輩にでも相談にのって貰うのも一つの手かも知れない。
俺がつらつらとそのような事を考えている間も夏江さんは、手を休めることなく器用に動かし続けている。
「型はアシンメトリー......左右非対称にして両サイドの一部をスパイラルパーマ風にするけど、かなりのユルめにしとくし、アイロンやロッド使わないから大丈夫だよね?」
喋っている内容のほとんど理解できなかったけど夏江さんに任せておけば問題ないだろう。頷きそうになりカット中は顔を動かさないよう言われていたことを思い出し、目線で差し支えないと知らせる。
俺の席から少し離れた右側では都ちゃんがサユさんにカットしてもらっていた。
「絶対に都ちゃんには、ショートヘアーが似合うと思うんだよね」
サユさんがそれは熱く語っている。
「男の子って基本的に髪の長い娘が好きって思われているけど、たとえば後ろ姿を見て首筋の細い可愛いらしい娘がいるなぁと思われたとするじゃない」
一本指を立て、ここでのポイントはショートは首筋がよく映え、なおかつ細く見えるってことねと続ける。
「そして! 振り向いた都ちゃんを見て男の子は絶句する! おおおっ! すんげえー!すんげええ!っと」
ショートヘアーには全身のスタイルがよく見えるという、とてつもないオマケがついてくるの! 都ちゃんなら更に相乗効果で計り知れない恩恵ががががっ 興奮し過ぎて噛んだのか、ぜぇぜぇ息をつく。
「はぁはぁ 興奮して噛んじゃうなんて、ゴメンね......あとの着眼点としては、清潔感がある、そして男の子に守ってあげたくなる気持ちを奮い立たせるの!」
いや、そこは髪の長さは関係ないだろうとのツッコミを入れたくなったが、髪の短い女の子、とくに無表情な娘に『私には他に何もないもん』なんて囁かれたら、くる、きっとくる、キュンキュンくるだろう(断言)
「なんか陽菜乃ちゃん、ヨダレ垂れそうになってるんだけど......そろそろ正面向いてくれるかなっ」
どうやら鏡越しにではなく、いつの間にか違う世界に旅立ち、陶酔とした表情を浮かべ顔を横に向けて二人の様子を見いっていたようだ。
「サイド仕上げて、ちょっとパーマ掛けるから、少しの間じっとしててね」
頭にゴムバンドをはめると両側の間隔を微妙にズラしながら器用にシュシュも使い編み込んでいく。
仕上げに瓶に入った液体をササッと振り掛け、そのまま十分ほど待っててと雑誌を渡されたが、俺は鏡に映るツレたちの姿を目で追っていた。
「やっぱウルフカット、スタイルはショートをソフトに仕上げるジョースペシャルを極めてみせるっすよ!」
陽一は、ジョーさんの手際により、その名の通りオオカミのたてがみのように髪をワイルドに立たせ首筋の生え際を仕上げてもらっている最中だった。
なよなよしていた今までの髪型から断然、男らしいスタイルに変わりつつある陽一に対して、アップにまとめた髪に色とりどりのシュシュを散りばめ、顔には丁寧にメイクまで決めている、どこからどう見ても女の子にしか映らない俺がここにいる。
たぶん今の俺と陽一......最初の頃のように同じ事を考えてシンクロすることは、この先ますます少なくなっていくのだろう。
「お待たせ! あとはビジュアルチェックしたら、お仕舞いだからね」
夏江さんは、手際よくシュシュを外すと髪をユルくまとめ上げ、左右の調整をしつつサイド、正面と出来映えを確認する。
よし! 快活に声を出すと両サイドが俺に見えるようA4サイズほどの鏡を取り出す。
ふむむ 浮き上がるようなふんわりとしたゆるいカールで決めた右サイドは、照れのためか赤く染まった耳がまるごと見える状態、それに対して左サイドは、小さく三つ編みされた髪が二つ、耳を覆うように可愛くたれ下がっている。
それでなくてもこれぞ女の子! してた俺が、なにこの女子力アップって感じなのですが......やっぱりその道のプロの仕事はそつがないよね。
「この状態で一度撮影するわね」
先ほど事前に撮った場所で同じようなポーズを決める。
「はうー いいわよ! 陽菜乃ちゃん」
バリエーションとしてカールした髪を頭の上で三つ編みにしたり、くるりんぱというラフな編み込みをして、ポニーテールやサイドから垂らしたりと種々にアレンジをしながら正面、サイド、後ろ姿の三点セットで次から次へとフレームに収められていく。
「チーフ! こちらもミッションコンプリートしました!」
ビシッと敬礼するサユさんに連れられてくる都ちゃん。
「おっと、こっちも完遂したっす! どやねん!」
自信満々にドヤッと陽一を連れてくるジョーさん。
「へえ 二人ともやるじゃない!」
夏江さんが素直に称賛するのも頷ける。
「いやー素材が良いと楽でいいっすね、すっかりワイルドな感じになっちゃいましたよ」
スタイリッシュでソフトに波立つ髪型は、あまり強く飾らないくらいのカールでまとめられ、中性な顔立ちの陽一にはイノセントな雰囲気もあり、とても似合っていた。
負けじとサユさんも
「あくまでもコンセプトはしっとりと柔らかく、そして躍動感あるボブウェービースタイルに、しかしウェーブを採り入れることによって甘さをアップさせ女子力を一段と高めてみました!」
都ちゃんは、ショートヘアーがとても似合うコケティッシュなふんわりガールに大変身していた。
「――似合うかな」
一斉に全員が首を縦にふるふる大きく往復する。
「これで髪が映える服着てたら最高なんだけど......ってチーフ! 今日のモデル代出るんですよね!」
目を輝かせて夏江さんに問いかけるサユさん、髪までカットしてもらい、なおかつモデル代払うとかないでしょ!?
「そうね......現金を直接渡すのではなく、みんなに気に入った服を買ってあげる。それでいいかしら」
俺たちは、そんなことまでしてもらう必要ありませんと断ったが、彩帆ちゃんが毅然たる態度で一歩も譲らなかった。
そんなこともあり、駅前の春ものバーゲンが開催されているモールで買い物し、再度もどってきた後に撮影、その報酬も込みだからと話しがついてしまった。
「あなた達、あまり気にすることないよ! 三人がモデルしてくれたら店の売り上げ、そして私たちの指名もバンバンふえるんだからね!」
「そうっすよ、やっすい投資でガッポリ儲ける、チーフも内心ニヤニヤして......ふごっが!!
」
夏江さんの肘打ちがジョーさんのみぞおちに綺麗にめり込む。
「ママ! それじゃ三人とショッピング行ってくるね!」
彩帆ちゃんは、明るく笑い俺と都ちゃんの手を握りしめると、サロンの扉へ元気よく歩き出した。




