ヘアーサロン『Diapason』
電車に乗り込み、都ちゃんの家へお邪魔する日を話しているうちに、あっという間に目的の駅へ到着してしまい、次の日曜日に行くことで話しがまとまった。
電車を降りると行楽に出掛ける家族連れや街に繰り出すグループに混じり、俺たちも改札口から繁華街につながる連絡口に移動する。
向かう先は、ヘアーサロン『Diapason』
俺としぃちゃん、彩帆ちゃんと夏江さん、母と娘共に友だち同士の関係。
彩帆ちゃんは、異色を放つ俺たち一年三組仲良しグループの中では、至って常識人の今どきの高校生ぽぃ女の子。
幼い時からサロンで接客業に馴染んでいるからだろう、対人スキルが高く、そしてすこぶる優しい性格、そのため俺も真面目な話しや相談ごとなどは、ついつい彼女を頼ってしまう。
夏江さんがデザインした長さは違うけど、同じようなタイプの髪型と似たり寄ったりな体型のため、女の子初心者の俺はなにかと彼女を師匠としてセンスを合わせている。片翼の心々菜ちゃんとは、また違う安らぎを俺に与えてくれる貴重な存在。
サロンに着き、洒落た装飾が施されたドアを開け中に入ると、シンプルな白のブラウスに黒のカーゴパンツ、足元は動き易さを追及したのかスニーカー姿の彩帆ちゃんが、俺たちを見つけて駆け寄って来た。
「陽菜乃ちゃん! 来てくれて、ありがとう!」
都ちゃんもヘアーサロンは、初めて入ったのか物珍しそうにキョロキョロ辺りを見渡している。
「都ちゃんもおはようー 今日は来てくれて、本当にありがとうね」
楽しげに挨拶する彩帆ちゃんは、後ろに控えるようにして立っている陽一に気が付き、少し頬を赤くして俺に誰?と聞いてきた。
「従兄の陽一......兄さん。今日は付き添いで来てくれたの」
陽一はニッコリ朗らかに笑って
「初めまして......陽菜乃の友だちって、ひょっとして可愛い娘しかいないッスか!?」
「えっ? そ、そんな可愛いとかないですよぉ」
照れる彩帆ちゃんを陽一は更に誉めちぎる。
陽一やるな! いつからそんな如才ないスキルを身に付けたんだ。
大学入って格段に進化したのか!?
彩帆ちゃんは照れたのか
「陽菜乃ちゃん! 今、マ、ママ......じゃない! 母さんは常連さんのカットしてるところだから、今しばらくソファーに座って待っててね。あっ飲み物入れてくるけど二人はミルクティーでいい? 陽一さんにはコーヒー入れてきますね」
焦った様子でそれだけ言うとパタパタと店の奥に行ってしまった。
別に普段ママって呼んでるならそれでいいのだよ。
俺たちは座ると、サロン内を見るとはなしに常連と思わしきお客さんたちの髪をスタイリングしているスタッフの様子を眺めていた。
「お待たせ! はい飲み物ここに置くね」
言いながらソファーの前に設置されているテーブル上に並べる。
「待ってる間に都ちゃんの髪型決めようよ!」
ラックからヘアーカタログを取り出すと、俺たちは、あーでもない、これなんていいんじゃないなど賑やかに喋りながら、都ちゃんに似合う髪型をシュミレーションしていく。
「陽菜乃ちゃん いらっしゃいませ。 待たせてしまいゴメンなさいね」
サロンを旦那さんと共同で経営しながらチーフスタイリストも務めている彩帆ちゃんのお母さん、夏江さんが一仕事終えて挨拶しに来た。
「夏江さん、こんにちはです。今日はよろしくお願いします!」
俺は急いで立ち上がると元気に挨拶を返した。
「ふふっ 陽菜乃ちゃんの写真はHPでとても反響よかったから、今日はすごく楽しみだわ」
そんなことないですよと否定する俺に、他の店の同業者からも問い合わせいっぱいあるんだから、もっと自信持ってと更に誉められてしまった。
お茶目な表情でひとしきり笑い都ちゃんに目を向ける。
「この娘が電話で話していた黒野さん? ほむっ 確かにスタイル良いね! 彩帆と同じ歳とはとても思えん!」
それは、あれですか......ほぼ彩帆ちゃんと体型同じの俺にも言っているのでしょうか。
俺のちょっと傷付いたオーラに気がついたのか少しバツが悪そうな顔をして
「で! こちらが噂の陽一くんですか? 初めまして、静華つながりの赤坂 夏江です。今日はお越しくださりありがとうございます」
噂の陽一? しぃちゃん一体どんなことを夏江さんと話しているんだろう。
「いえ、いえ、こちらこそ、いつも叔母がお世話になっております。 今日は陽菜乃をよろしくお願いします」
なんかテンプレートばりばりの挨拶ッスねと照れ笑いを浮かべる。
「いつも静華のこと叔母って呼んでいるの?」
「ハハッ まさかッス 普段はしぃちゃんと呼ばされていまスッよ」
「ふふっ 呼ばされているんだ? まぁそこは追及しないでおきましょうかね。今日は陽一くんも髪整える?」
夏江さんのその提案に是非ともお願いしますと陽一も元気いっぱい返答する。
「ジョー! こちらのお客さまのカットお願いするわね」
呼ばれてやって来たのは、この前ノリノリで写真撮影してくれた陽気なスタイリストのお兄さんだった。
「こんにちはー おっ! 陽菜乃ちゃん、お久し振りっす! 写真めっちゃ評判よいよ!」
ジョーさんっていうのか......そうだったこの人も語尾、っす使いなんだよね。俺の周りものすごく使用率高くない? しかもニュアンスが仄かに憧れの関西弁ぽぃ?
「あれ? 今日はこの前のイケメン君じゃないんだ けどこちらの兄さんも男前だね」
陽一が従兄ッス! と自己紹介すると静華さんの親族なら納得、そやったら特別にキャラ被るけど、ッス使うのは許可するっすよ! よきに計らえと豪快に笑う。
「.....」
都ちゃんは、きっとタコ星人ばっかりと思っているのだろうけど、TPOをわきまえる彼女のことだから口にすることは無かった。
「サユ、貴女がこの娘の担当してくれる?」
これまたお洒落な感じの二十代中頃にみえるスタイリストの女の人を呼ぶと都ちゃんに紹介する。
「サユです。 こんにちは......うほっ これまたプリティですやん!」
明るく親しみやすい雰囲気で人懐こく都ちゃんに話し掛ける。
「この子、こう見えてその筋では有名な大会で優勝したこともある技能持っているから安心して任せてね」
「もう! チーフこう見えては余分ですよー」
俺たちに、このサロンのメインともいう三人が掛かり切りになっていいんだろうか。
そのことを告げると、今の時間は予約入れてないから大丈夫と力強い応えがあった。
「では、陽菜乃ちゃん、お待たせしました。最初は今の状態を写真に撮らせてね」
椅子に座って頬杖ついた格好や窓際で佇むポーズなどを正面やサイド、後ろ姿、いろいろ角度を変えてフレームに収められていく。
「OK! それでは、ラ クープを始めますか」
彩帆ちゃんも照れた時によくする可愛く舌をチロりと出して、カットを仏語で言っただけなんだけどね。っとはにかみながら付け足すように言い、愛用と思われるよく手入れされたハサミを軽やかに取り出した。




