うららかな日和に会して
翌日の日曜日は春うららかな晴天となり天候同様に、気分も朝からすこぶる晴れ渡っていた。
俺は待ち合わせの時間よりかなり早く家を出て、彩帆ちゃんの両親が経営しているヘアーサロン
『Diapason』に行くため、駅のロータリーで都ちゃんが来るのを連れと一緒に待っている。
昨日は、あれからメイド服を着た俺と都ちゃん、執事姿の渚といーちゃん、エスコトート役の紫月先輩、梨花オーナーの六人で撮影会を行ったのだが、そこに店へ早めにやって来た執事バイトのお姉さん方をも巻き込み、大層な盛り上がりをみせた。
帰る前には『レ研』の隠れ家として敷地内にある空き部屋も使わしてもらえることとなり、不定期ながら活動らしいことが出来る最低限の準備は整備された。
ぼんやり昨日のことを考えていた俺に向かって、突然の呼び出しを食らった陽一が
「美容院について行くメリットってなんスか......本当にサプライズあるんスの」
すっかり語尾にスを付けることが日常化した陽一。
相変わらず打算的なことを言う、きっと大学でもスッス連発して『タコいち』とか呼ばれているのだろう。
「メリット......とんでもない美少女と一緒できるだけでも、ドラマチックサプライズなことでは?」
キョロキョロ辺りを見渡す陽一。
「美少女? もしかして! 今こちらに向かって来ている!?」
俺は自分を指差し、ほらここに居るじゃないと陽一ごときに勿体ないが、笑顔をサービスする。
「......帰るス」
くおおおーなんという屈辱。
ここは、あれか! スキルを発動しろといってるのですか。
「お兄ちゃん......ひなののこと守ってくれるって約束したよ......ね?」
トテトテと二歩接近し手を後ろに組み、潤んだ瞳で見上げる最高峰上目遣い『私を守って』スキルが発動。
「かはっ! め、目力あげたッス......ね」
「傷付けられた...プライドは、さくっと返してやるのです」
ふふふっと不敵に笑ってみせる。
「そ、そういえば孝...さん、元気にしてるのかな」
ヘアーサロンに一緒にいってもらってから、一度も会ってなく用事も特にないのでラインもしてない......向こうから連絡も来ないので、気になってつい聞いてしまった。
「孝? 大学同じだけど、あいつ工学部だから最近時間合わないのもあるけど、あんまり顔あわしてないんだよな。なんか用事スか?」
俺はパタパタ手を振って、特に何も......と言葉をにごす。
「あっ あれから神林さんとは会ったの?」
話しをすり替えると、なんとも微妙な表情を浮かべ、ラインのやり取りはあるんだけど、なかなか時間が合わないんだよねとボヤく。
「ふーん、そうなんだ。 あっ! そうそう神林さんの妹、心々菜ちゃんて名前なんだけどクラスメートなんだ」
俺はドヤ顔で自慢する。
目を見開く陽一に、どれほど彼女が美しく可愛いく、自分と仲がよいかをしっこいほど語り、女子校が如何に素晴らしい所であるかを、身振り手振りを大げさに交えて熱く語った。
「どれだけ幸せ者なんスか!」
こちらも大げさなリアクションで叫び返す陽一。
端から見たらバカップルが、うっとうしくじゃれあってるとしか思われない状況なのだろう。道行く人が生暖かい視線を投げ掛けてるのが解る。
なんだろう、陽一と話していると心が落ち着く、二人に分かれるまでの記憶を共用し、秘め事や言葉を選ぶ必要がないのが精神的に安定しているためだろうか。
そんなことを考えている俺の背中を、そっとツンツン突っつく人がいた。
「陽菜乃ちゃん......おはよう」
後ろを向くと都ちゃんが、はにかみながら挨拶してきた。
陽一の目が一点にくぎ付けになる。
判る、わかるぞ陽一よ......次に叫ぶであろう言葉でさえも
「・・・・・へっふ」
予想に反して陽一がみせた態度は、唾を飲み込むだけとなり、言葉が出てこない。
「ふふん サプライズしてくれたかな」
俺のその言葉にもガクガク激しく首を上げ下げするが、目線は固定されたままだった。
惜しむらくは、まったくのノーメイクに洗いざらしの厚手の長Tシャツにジーンズといった、お洒落とは言い難い都ちゃんの装い......ヒラヒラの真っ白なワンピースな私服を期待していた俺は、肩透かしをくらった気分だ。
「滅多......外でない」
俺の視線から何かを感じたのか都ちゃんが申し訳なさそうに呟く。
返事に困っていると凄い勢いで陽一が
「陽菜乃! こちら様をそろそろお兄ちゃんに紹介してくれてもいいのだよ?」
「あっ お初......黒野 都......です」
はにかみながら俯き、みるみる顔が真っ赤になる。
陽一ごときに照れてる?
「くろの みやこちゃんか!......黒野 都ちゃん? えっ!?」
格段の鈍さを誇る陽一にしても、その名前は特別なのだろう珍しく慌てふためく。
「そうなのです! 彼女こそがいつも陽一がお世話になり放しのMiyakoちゃん、その人です!」
「そしてこちらが、タコ初号ことWinterッス!」
「「 えっ!? 」」
シンクロし、驚きの声を上げお互いをじぃと見つめる二人。
あっ 陽一の目線が下がった......やはり気になるのか一点を注視している。
女の子になって何よりもまず思ったことは、男の人が何処に視線を向けているか敏感に感じ取れるということ、見てる本人は自覚していなくても、チラリと目線を投げ掛けられただけでも、ああ見られてると気付いてしまう。
都ちゃんも視線には敏感なんだろう目を伏せて
「じぃと......見ない」
絞り出すように、か細く呟いた。
「ふんごっ?! 見てない、見てない、見てないっス!」
いや、いや、ガッツリそしてじっくり見てたよね。
「しかーしリアル都ちゃんが、こんなにもキュティーフルでファンタスティックな娘だったなんて思ってもみなかったス!」
やるな陽一! さすが俺だけのことはある、なんて的を得たように都ちゃんを表現するのだろう。
何故か曖昧な表情を浮かべる都ちゃん
そうかナイスな喩えと思ったが、反応は今ひとつと......俺は記憶のメモ帳に記入しておく。
「本当にMiyakoちゃんとChronoくんには、ゲーム内では何かと助けてもらって深く感謝してるっスよ。そういえば今日はChronoくん来てないんスか? いつも一緒に行動してるっスよね」
都ちゃんは、痛いところを突かれたのか、目を伏せ下を向いてしまった......そんな態度をみてしまうとギルドで噂になっている一人で二役しているというのが、あながち事実なんだろうかと勘繰ってしまいそうになる。
「兄さん......出れない」
俺と陽一は顔を見合わせる。
「白露......家から出れない」
はくろ? Chronoくんの本名? ゲーム内ではギルメンの武器製作や修理といった手間ひま掛かる作業を喜んで一手に担ってくれている、人と争いを好まぬ優しい性格の少年、そして実際に存在しているならば都ちゃんの双子の兄のはず。
「家から出れないって、学校は行ってるの?」
力なく小さく首を横に振る。
「でも......籠ってるのと違う」
なんだか白露くん本人と都ちゃんの家庭には複雑な事情がありそうだ。
「二人には......会って欲しい」
「白露......存在理由......きっと......変わる」
「任せるスよ! どんな事情があるか知らないスけど、お世話になってる二人の役に立つなら、俺はやるッス!」
ドンっと胸を叩いてからからっと笑う。
そんな陽一を目を潤ませて見つめる都ちゃん。
――今の陽一を見ると女の子ぽぃ雰囲気がまるで感じられない。
陽菜乃としての俺が肉体的、精神的にも離別したことで、陽一本来の体格、性格に立ち戻ったからだろうか。
嬉しそうに微笑んでいる都ちゃんに接する、男らしい態度の陽一を見ていると、もしかすると俺がその役目をしていた世界も有ったのではないかと考えてしまう。
女の子となったことで知り合えた、かけがえのない友達や仲間、予期せぬ経験や思い......そう、けっして俺たちが二人合わせて一人だったままなら、ここにいる誰とも勿論、出逢うことも知り合うことも無かっただろうし、都ちゃんがこんなに嬉しそうに笑うこともなかったかも知れない。
そう考えると誰か一人でも喜んでくれる人がいる。
今の俺としての存在意義も満更わるくないのかも知れない。
いおりんのように何事もポジティブに事を成そう。
俺は明るく二人に笑い掛けた。
「そろそろ時間だから、彩帆ちゃんのところに行きますか!」




